第130話 五月雨 鹿賀斗(喧嘩 城東視点)


 俺は沙也加が大好きだ。

 勘違いしないで欲しいのは、妹として大好きだと言う点だ。所謂、シスコンってものだと思う。まぁ、もし義理の妹だったら良かったのかもと、考えたことはあるが、血の繋がった家族が近くに居てくれるってのは、結構大事だったりするんだぜ?

 沙也加と俺の歳の差は3つ。毎日毎日、俺の後ろを付いて来て、分からないことがあったら俺に質問してくるから、めっちゃ可愛い。特に、質問する時に顔を傾げる姿はもう・・、・・ね!そんな可愛い沙也加に、お兄ちゃんとして少しでも良いところを見せる為、事前に調べて覚えることもあった。御蔭様で、雑学は結構豊富だと思う。

 贅沢な生活とは言えないものの、母さんが頑張って仕事をしてくれていた御蔭で、困ることは無かった。しいて言えば、仕事が忙しいせいで、沙也加と母さんの二人で生活する時間が減ってしまったことか。・・沙也加が時々、寂しそうな表情を浮かべていたのには、幼いながら心が痛かった。


 至って普通な家庭で、穏やかな生活をしていた俺が、運命の道を踏み間違えてしまったのは、高校2年生の夏頃だった―――――


午後3時30分


 ホームルームが終わり、荷物をカバンにしまっていた俺の元に、隣のクラスから3人の男が向かってきた。


 「なぁ、ちょっとくらい良いだろ?お前の妹ちゃん、沙也加ちゃんだっけ?一回、話すだけじゃん?」


 「沙也加ちゃんだって、もしかしたら、俺等と話したいのかもしれないだろ?それを、兄貴であるお前が邪魔しても良いのかぁ?」


 「毎回毎回、沙也加ちゃんと話そうとする度に割り込んで来んなよな!はっきり言って、お前ウザ過ぎだろ!!」


 こいつ等は、この学校の中でも特に、問題児として扱われている生徒達だ。その中でも、髪に剃りを入れて金髪に染めている真ん中の男は、市長の息子とも聞いている。

 いつもなら、後三人くらいは取り巻きを連れている筈なんだが、今日は見当たらない。

 傍に居る下っ端も、制服は乱れ、暇があればナンパばかり、最近では、近くの『不良校』とも呼ばれている学校から退学した奴等と、問題行動ばかり起こしているようだ。

 そんな奴等が、学校からの注意も無く、当然のように通っていることを考えると、恐らく―――――


 「お前だって、問題にしたくは無いだろ?今だって、お前に陰口を言ってる奴もたくさん居るんだ、これ以上増やしたくないだろ?」


 「知ってるか?奨学金だって、素行が悪ければ出ないんだぜ?なぁ?」


 席を立ち、いつものように玄関に向かう。

 最初の頃は、こいつ等の挑発に乗って色々と口論になったが、3回目くらいで面倒になった。

 奨学金だって、母さんの負担を減らす為に頑張った結果、偶々貰えているもので、頼りきりになっている訳では無い。ただ、沙也加の将来の為に、出来るだけ貯金をしたい為、奨学金を続けて貰う為にも、勉強を頑張りたいと考えている。


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