第118話 喧嘩 城東

午後6時


 俺は今、城東さんの配信が始まるのを待っている。

 今日の朝、城東さんから『なんか世間がうるさいからよぉ。俺が一発かましてやるぜ!!!』と、何処か気分の良さそうな感じで言われた為、気になってしょうがなかった。


 「かましてやるって、大丈夫かな?普段から、世の中に対して喧嘩を売るような発言で炎上してるのに・・。」


 同期の配信に不安を感じながら待っていると、配信が始まった。


 『法律なんてクソ喰らえ!!!喧嘩 城東だ!!今日も配信をしてくぜぇ!!!!』


 そう言い終わると、突如画面が切り替わる。


 「はぁ⁉えっ⁉これって!!」


 画面に映し出されたのは、口元から下がの姿を映し出している城東さんだった。

 はっきり言って、俺達VTuberが実写の姿を見せる事は禁止されてことが当たり前だ。

 俺は慌てて高太郎さんに確認の連絡をすると、『これは私もOKしたことだから大丈夫!!』と返ってきた。・・高太郎さん。OK出しちゃ駄目でしょ。


 『見ろよこの腹筋!!!最近、良い感じに割れて来やがってよ?っと、こことここの縫い傷は気にすんな!!ちなみに、ここが包丁で、ここがバットな?いやー、折れた金属バットって、結構切れるんだわ?特に、金属バットの凹んだ部分が陥没した時、彫刻刀の刃みたいな形状になる訳よ!あの部分で殴られた時、マジで痛ぇんだよな!!!な!!!』


 椅子から立ち上がり腹筋を見せるが、腹筋よりも体についた傷が目立っている。後、そんな詳しく話さないでくれ。コメント欄も一瞬、流れが止まったぞ?

 

 『そんでよ?最近、背筋も鍛え始めたんだけどよ?』


 今度は後ろを向き、背中が画面に映る。

 背中には、上から下にかけて大きな火傷跡と、うなじの辺りにいくつかの切り傷が見える。


 「これ、チャンネルBANされないか?いや、GETafterならギリギリ大丈夫なラインか。」


 『ここと、ここの筋肉痛がヤベェんだわ!!ナイフで刺された時みたいになっててよ?いやー、久しぶりの筋トレは効いたぜ!!』


 背中の傷が目立ちすぎて、話の内容が入ってこない。

 そんな中、城東さんの雰囲気が変わった。


 『ふざけんのも、ここまでにしようや。お前ら、この傷を見てどう思った?予想通り、喧嘩ばかりしてる荒くれ野郎か?それとも、これだけの傷を負うのは自業自得だとか?または、単純に心配した奴もいるかもしれねぇ。・・だけどな?実際に炎上や誹謗中傷を受けたことがある奴しか分からねぇだろうが、インターネット越しでの暴言とか誹謗中傷なんて言うブツは、もっと痛ぇ!!そこんところ、分かんねぇなら分かんねぇらしく、しっかり考えてくれや!!』


 最後にそう締めくくると配信を切った。


 たった10分。たった10分の配信にどれだけの人が影響を受けたのかは分からない。だが、次の日から少しだけコメント欄が落ち着きを取り戻していたことは、事実だ。


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