第65話 出会い

 退院してから一週間が経った。

 傷は完全に塞がり、生活する上で困らない程度にまでは回復したが、入院して二日目には退院可能だと、医者に言われた時はびっくりした。まぁ、何故か看護師の方達から怯えられた目で見られていたので、丁度良かったのもある。ただ、退院する時に困ったのは帰る場所が無かったことだ。

 現場検証で封鎖されている家には帰れないし、何処で俺が退院するのを知ったのか分からないが、親戚のクズ共が『家に泊めてやるよ!』とか言いながら、気色悪い笑みを浮かべていた。そんな時、病室に一人の弁護士を名乗る男性が入って来て『俺の家に来ないか?』と尋ねてきた。彼の名前は斎藤 伸二と言い、父さんと母さんの友人らしく、今回の事件のことを知って、急いで駆けつけて来たと言う。

 取り敢えず、詳しい話を聞いてみると、俺達が親戚の奴らから良い印象を持たれて無いことや、俺が他に頼れる人がいない事も知っていた。それに、父さんからは『何かあった時は俊隆のことを頼む』と言われていたらしい。

 いくつか父さんと母さんとの写真も見せて貰い、嘘を言っているようなをしていなかった為、信じることにした。その御蔭で無事退院することが出来、息苦しい病室から抜け出すことが出来たのだが、今度はさらに大きな問題が発生していた。


 「本当に、何処のどいつが情報を流したんだ?伸二さんには申し訳ないな。」


 伸二さんの家にお世話になり始めて二日目、早朝から家の前にはマスコミと思われる人達がたくさん集まっていた。ネットでは、『例の容疑者と思われ人物を見た』のような目撃情報が拡散されていて、それを見た報道陣が集まってしまったらしい。

 最初、伸二さんが報道陣に対して注意したが、一部の優良な報道メディアを除いて立ち去ることは無かった為、弁護士の仕事で知り合った人達を通じて対応して貰う事になった。常識的に考えたら迷惑行為だとは考えなかったのだろうか。

 その後も、自称『日本の平和の為に闇を解き明かす』などと言っていた動画配信者や家の前で『犯人は潔く出頭すべきだ!!』とか抗議する奴らが多く来た。そもそも、被疑者となっているだけで容疑者ではないのだが。

 毎日毎日懲りずに現れる迷惑な奴らのせいで、睡眠不足や近隣住民から苦情が届いたりしている。そう、奴らは深夜の時間帯にも家に訪れるのだ。はっきり言ってイかれてると思う。

 一度、伸二さんに『安めのアパートやホテルに住むから出て行こうか?』と答えたが、拒否されてしまった。流石にケジメが付かないらしい。それに、普通の殺人事件でもここまでの騒ぎになる訳では無いらしく、嫌な予感がするとも言っていた。確かに、この手の話は良くて3日、最低でも1日もすれば忘れるものだ。それが熱が収まることもなく、世間に広がっている情報が曖昧な時期にここまで注目されるだろうか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る