第22話 炎上(カグヤ・ユリ視点)

 FANHOMEの通知が止まらない。

 冷や汗も止まらない。

 最初私は、10000件以上のDMが送られて来ている事に気付き、ただの応援メールだと思い一つ目のDMを開いた。


 【クソ女め!!今までの応援を返せ!!!】


 意味が分からなかった。

 今まで送られて来ていたDMは、【ユリちゃん愛してる!】や【配信頑張ってね!】等だった。だが今回のは180度違う。人生で『クソ女』とか言われたことなんて無いし、自分に対して批判的なコメントを送ってくる奴らは、デビュー当初にしたはずだ。

 突然の事に驚きを隠せないまま、いつもの奴らに連絡をする。


 「ちょっと!!意味不明なDMがたくさん届いてんだけど!!ちゃんと仕事してるの?ただでさえ使えないあんたらを雇ってあげてるんだから、最低限の仕事くらいやってくんない?言われなきゃ出来ない訳?ほんとに使えない奴らね!」


 焦りからか少し言葉が強くなったかもしれないが、別にいいだろう。どうせ私の奴隷だ。それより今は、現状の把握が大切だ。

 通話を繋いでから、忙しなく《せわ》動いている音が聞こえる。思わず『さっさと説明して欲しい』と口に出してしまったのが間違いだった。

 

 「ユリさん!!説明して欲しいのはこちらの方ですよ!!何故かユリさんが裏で行ってきた悪事が広まっているんです!!このままじゃ俺たちまで特定されてしまいますよ!!『ガセ情報を流すだけの安全で簡単な仕事』って最初に言ってたじゃないですか!!これじゃあ下手すると、裁判にまで発展するかもしれないじゃないか!責任とれよ!!まだ前科とか付きたくねえよ!!」


 顔が青ざめていくのを感じる。

 いつ!いつ情報が漏れた!隠蔽は完璧だったはずよ!口止め料もちゃんと払ったし、いざとなったと時用に、相手の弱みも掴んだ。関係者以外知らないはずなのに!


 「っ⁉もしかして!!」


 本来、外部に情報を漏らさない為に、限られた視聴者のみとやり取りを行っていた。ただ、一度だけ自分達では情報操作が難しく、その手の非合法なものに手を出してしまったことがある。キモくてデブな奴だった。思い出すだけでも鳥肌が立つ。

 仕事の腕が一流なのは分かっていたから頼んだが、今思うと失敗した。

 毎日毎日メールが送られてきたり、酷い時には家の前まで押しかけてきたりすることもあった。何回か警察にも通報し、一度捕まったはずだ。それなのに。


 「なんで!今になって何でこんなことを!」


 ゴシップ系の配信者全員に今回の情報が流れていたらしく、広い範囲で知れ渡ってしまっているらしい。もう、抑えること自体難しそうだ。もっと早い段階で気付けていたら対応することが出来たかもしれないのに。

 配信者達が煽りに煽ったせいで、今回の事に対して詳しく分かっていない人達も炎上に拍車をかけている。


 「早く!早く何とかしないと!!クソッ!これからってゆう時に。何でこんなことになるのよ!!!」


 止まらない通知音を聞きながら、どうやって事態を治めるか考える。


 「取り敢えずは謝罪動画を上げないと。早めに気付いれば、揉み消したり、情報操作をして無かったことにも出来たのに!!」


 これまでにも何回か同じことがあった。その時も奴隷達の力で何とかしたが、今回は桁が違う。一人二人なら誤った情報として主張することが出来たのだが、全員がで発表となると話は別だ。


 「同じタイミングだなんておかし過ぎるわ!!こんなことが出来るのも絶対あいつの仕業よ!!」


 SNSと奴隷達の通知が止まらない中、謝罪動画の撮影準備を進める。


 「何で私が謝罪なんかしなきゃいけないのよ!私より目立って調子乗ってる奴が悪いのに!!ちょっと悪口言っただけで騒ぎすぎでしょ!!何なのよ!!!」


 イライラを物にぶつけるが、ぶつけたところが痛む。それが余計に腹ただしい。

 そんなことをしていると、スマホ電話がかかってきた。


 「何よ!今忙しいんだけど!どうせしょうもない話なんでしょうけど。何?非通知?外にいる誰かかしら?はい、もしもし?」


 「はぁっ、はぁっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」


 荒い息遣いが聞こえてくる。


 「ちょっと!もしもし!!何?ふざけてんの?」


 「もっもしもしぃ?ゆりちゃん?ぼっ僕だよ!!くっっくっ草野だよぉ。会いたかったよねぇ。大丈夫だよぉ。もう少しで会えるからぁ。さぁ!僕と一緒にそこから逃げ出して、一緒に遠くに行こぉうよぉ!君がムカつく奴らとかぁ、僕らの愛を引き裂こうとする奴は、僕の力で消してあげるからぁ!!さぁ!!僕の元においでぇ?」


 「なぁ⁉あんた!!警察に捕まって、監視を付けられてるはずじゃあ!!」


 「ぐふっ!あんな奴らに邪魔される訳ないじゃないかぁ!!後ろからクロスボウで一発だったよぉ!馬鹿な奴らだよねぇ!僕らの未来を邪魔するなんて!」


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