烏と悪魔と太陽と
ハミガキコ
プロローグ
かつて、ワタリガラスと呼ばれる少女がいた。
その少女は皆に慕われており、彼女もまた人々を好いていた。彼女の周りは常に笑顔で溢れていた。
しかし、5年前。彼女は突然姿を消したのだった。
そして同時期、街に陽の光が降り注がなくなった。
作物もろくに育たない。人々はやつれ、流行り病も急激に種類を増やした。餓死者も前例にない数にまでのぼった。
ある予言書にはこう書かれている
『
と_________。
リーンと玄関のチャイムが鳴る日曜午後の昼下がり。
此処、「ヘンゼルの園」に数日ぶりの来客が来た。
「はいはい、只今。」
「ママ、きょうもあのひときてくれたの〜?」
「きんにくのひときた〜?」
「ええ、みんなで出迎えましょうね」
『はーい』
書斎から廊下を通り、玄関へ出る。
そこにはいつもの人物が待っていた。
「ご無沙汰しております、ママ」
「いらっしゃい、レウス」
「おじちゃーーん!」
「おじさんだぁ!あ、きょうはおもいふくじゃないんだぁ」
「鎧は動きずらいからなぁ。動きやすい服にしてるんだぞ」
「じゃあ、きょうはいっぱいあそべる?」
「勿論!」
わーいっ!と子供たちが歓声を上げる。
「わたし、おままごとしたい!」
「なにいってんだよ!ぼくドラゴンたいじがしたい!」
「ドラゴンなんていないじゃん。あ、にいさん、この本意味がよくわからないとこあるんだけど教えてくれない?」
「いたたたた、ちょ、ちょっと待て待て…」
こっちこっちと四方八方から腕を引かれ早くも引き裂けそうになっている姿を見て思わず頬が緩む。
此処、ヘンゼルの園は町外れの孤児院というだけあって来客も滅多にない。
増してやかつて此処で育って独り立ちした子供たちがまた此処を訪れることなんてほとんどないに等しい。
かつての顔ぶれの1人がこうやって毎月数回戻ってくるのだから私も、もうすぐ此処を立つ子供たちも嬉しくないはずがないのだ。
「後でお茶淹れますからみんな楽しんで〜」
『はーい!』
子供たちの声が元気に響いた。
子供達の昼寝の時間帯になり、私と彼はやっと一息ついた。
「はい、子供達の面倒見てくれてありがとうね。最近年だからか分からないけど走り回ろうとするとすぐ息が上がっちゃって…」
ことりと目の前に珈琲を置く。冷やしておいて正解だったようだ。彼はらっぱ飲みする様にぐびぐびと珈琲を胃の中へ流し込んだ。
「別に…ハァ…大丈夫ですよ…ゼィ…これしきのこと…」
「大丈夫じゃないじゃないの…」
つい最近まで子供だった彼ももう27。
我が子の成長は早く感じるというがそれは血縁者以外でも同様らしい。
「そういえば仕事の方はどう?」
「…部外秘ですよママ」
そうやってしぃーっと口に人差し指を当てる。
「今、此処にいるのは私たちだけですよ」
「〜…」
ちら、と今私たちのいる部屋と子供たちの寝ている講堂をつなぐ廊下の方を見る。誰もいない。
「…最近は人を探しています。」
そしてふう、とため息をつき、項垂れた。
「その様子だと苦労しているみたいね」
「まあ、そんなところです」
「以前の魔女でも追ってるの?」
「いえ、違いますよ」
そういえばと言うふうに彼は話題を逸らした。
「太陽が戻ってから日射病とかの健康被害は子供たちにでてますか?」
「特にいないわ、元々病弱な子は何人かいるけれど」
5年前に私たちの国から太陽が消えた。
そしてある予言書がこの国中に渡った。
その予言書は魔女が太陽を盗んだという内容が記されていた。
それを頼りに国は藁にもすがる思いで「魔女狩り」を始めたのだった。
そして2年後、今から約3年前。
魔女が見つかり、その首は落とされたと国内に報道された。
皆、気が狂い始めている人がほとんどでその一報を聞いた瞬間歓声があちこちで沸いた。
「誰かが意図的に奪ったということは確かだったんですって?」
「はい、正直予言なんて当時は信じられませんでしたよ」
「でも、おかげでこうやってまた陽の光を浴びれるようになったんだもの、レウス達のお陰だわ。それに国お抱えの魔法騎士団さん達も」
「国民を守るのが我々騎士の仕事ですから、それに大いに貢献したのは魔法騎士団の方ですよ」
不意に時計が14時を差した。
「そろそろ戻ります」
「ありがとう、助かったわ」
「いえ、何かお困りのことでもあればまた言ってください」
そう言って彼は此処を後にしたのだった。
________________________
数分前。
廊下で2人の会話の一部始終を聴く二つの影があった。
この孤児院にいるメアとマリである。
メアはマリと同い年ということもあり、マリがここにきてまだ3年だが行動を一緒にしていることが多かった。
皆は昼寝の時間だが2人はこの日目が冴えており、ママとレウスを探していたのだ。
「ねえねえ、聞いた?」
「…うん」
「すごいね!騎士のおじさん悪い魔女さんやっつけたってことだよね?」
「…そういうことじゃないかな?…」
「すごいこと聞いちゃったね!私たちだけの内緒だね…!」
「うん…!」
そう言って2人はしぃーっと指を口に当てて頷き、そろそろとまた講堂に戻って行ったのだった。
________________________
ヘンゼルの園から出た直後。俺は少し身構えた。
誰か、見ている。視線を感じる。
「誰だ、そこにいるのは分かっている」
しばらくの沈黙ののち、誰かが吹きだした。
「ブハッwなんすか、そのくさい台詞w」
「なんだ、お前か」
「なんだとはなんすかーひどいなぁ」
部下のジルが木の上から降りてきた。
「…なんてとこにいるんだよ、ほら葉がついてる」
「あざますー、見張ってたんすよー?俺、真面目くんだからさぁ」
コイツの言動はいちいち人を苛つかせる能力でもあるのだろうか。
「あの施設の人達は別に怪しくないだろう」
「いや、見張ってるのはあの人らじゃないですよー」
「…もしや俺を怪しんでるんじゃないだろうな」
「ご名答ー」
ヒラヒラと両手を振る。へらっとした顔は4年前入隊してきた時から変わらない。
「あのなぁ、まだ『魔女』が見つかってないこのご時世でわざわざ『あなたを怪しんでます』っていうやつがいるか?」
「別にいいじゃないすかー、貴方じゃないって確信してますし、俺」
そう、3年前報道された魔女の処刑報道。
実は虚偽の情報で、まだ犯人の「魔女」は処刑できていない。処刑前日にして拘置所からなんらかの形で逃走されたのだ。
新聞社、報道屋に国が頭を下げて頼み込んだ隠蔽工作。何人かは顔面蒼白し、倒れる者もいた。それでも街の人たちの正気を取り戻す為彼らが首を縦に振ってくれたからこその今の街の人々の生活がある。
しかし、首を縦に振ったもののそれに納得いかない人達も多少なりともいた。
3年も捕まえられてない今、いつ暴露されてもおかしくない。
我々騎士団も捜索を急いでいた。
そして、魔女が我々騎士団の中にいるのではないかという疑いも向けられてきているのだ。
「どこにそんな確信が?」
「貴方みたいな脳筋ゲフンゲフン、素敵な全身筋肉人間の先輩がこんな回りくどい真似するわけないじゃないっすかー」
「お前、マジで俺の部下でよかったな」
「先輩だからこそ、ですよー。俺の実力とかちゃんと認めてくださってるから俺がまだ騎士団いられますしー。頭が上がらないですよー。」
そしてあざまーすと言ってペコっと会釈した。
本当に軽い会釈だが(感謝のかけらも感じられないが)しっかり腰から折っている所が妙にきちんとしている。
こう見えてしっかりやるところはやるらしい。
「改めて聞くが、なぜ俺をつけてたんだ?」
「あ、はい。じゃあ本題入りますね」
こほんと咳をしてジルは言った。
「魔女の通報が入りました。」
「‼︎」
魔女。
それは魔法使いの中でも「友人」の力を必要としない才能を持つものの中で国民の命を脅かす危険人物の隠語として我々の中では使われる。
「遂にあの犯人か?」
「さあ、でも今まで綺麗さっぱり尻尾を出さなかったのに今、のこのこと出るもんですかねぇ…」
確かにジルの言う通りだ。
しかし、魔女は魔女。人の命を弄ぼうとする奴に変わりはない。
「…急いで城に戻ろうか」
「承知っす」
そうして俺たちは城の方角へ急いだ。
ここからだった。歴史の歯車が3年越しに動き始めたのは_________。
烏と悪魔と太陽と ハミガキコ @hamigakikooooooo
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