第4話 巫女ドラゴン ギ

 町の目抜き通りを歩いている。

 ヨーロッパの街並みを和服で歩くのは微妙な感じがする。

 前方にはヴィーと語学の先生、俺は普段の和服姿に戻ったシェリと歩いている。

 ようやく、ようやく、まともに話すことができる。

 しかも、こんな可愛い子と。辛抱たまらん。

 シェリから質問攻めである。

 「その、トキ様はなぜ私をご購入されようと思ったのですか?」

 普通に、いやらしい目的ですが。

 「何も知らない世界で、自分より強いドラゴンと戦うのは無理がないか?  情報収集すらまともにできないのに」

 「それならば、私を借りるだけでよかったはずです。ご購入までは必要ありません」

 そしたら、いやらしいことが出来ないでしょうよ。

 「ドラゴン退治が終わっても、俺は生きていくつもりだ。毎回シェリを借りていては、高くてしょうがない。買える時に買ってしまったほうがいい、買わなかった場合、次にシェリを借りれる保障もない」

 「そうでしょうけども・・・・・・。わ、私は出戻りでございます。一度奴隷として売られ、使い物にならず返品されております。『鈴木商店に悪いものなし』の看板を汚しているのは私でございます。返品されてより絹江様のそばでお使いさせてもらうことになりました。日本語を教えて頂いたのも、もう売り物にはならないので女中として育てて頂いているものだと思っておりました」

 「女中に日本語いる?」

 「先代も絹江様も日本語をお話になられます。先代は日本語でたくさんの手記を書かれていたとも聞いております。それにお客様の前では言いにくいことも日本語なら咎められることもございませんので」

 暗号代わりの日本語ね。

 「ずばり、お聞きします、トキ様にとって私は魅力的でしょうか?」

 水着を着たら普通にグラビアアイドルだと思います、たまりません。今押し倒していいですか?

 「な、なんで」と俺。

 「そ、そうですよね」シェリの顔が曇る。

 シェリは続けて「私は娼婦という言いますか、性的な意味での奴隷になるよう育てていただきました。売られた先でもそういった意味でご購入頂いたのですが、発情期の最後まで相手にされませんでした」と。

 発情期があるの、この世界?

 「発情期って?」俺の言葉を聞いてシェリの目が輝く。

 「発情期というのは、秋の収穫が終わり、冬に入る前、月が昇る週のことでございます」とシェリ。

 「発情状態になるとどうなるの?」ここは聞いておきたいところ。

 「基本的に獣人は同族同士でしか子供は作れません。私は鹿人ですから鹿人としか子をなせません。発情状態になると、相手が居れば穏やかに子作りに励みます。相手がいない場合は我慢するしかないのですが、発情期も中盤になると、特にオスは発狂状態になり、別族だろうとメスを襲いだします。発情期も終盤になるとそれこそ獣やモンスターすら襲いだします。それでも強姦は罪になりますから、若いオスが居て、裕福な家庭は息子が罪を犯さないよう性的な奴隷がいる場合が多いです」とシェリ。

 「裕福でない場合は?」と俺。

 「一応、禁止さてているのですが、刑務所や貧民街にある扶助施設が低価格でそういったことを提供しています。発狂に至る前に速やかに処理しますが、そういったところでは病気になることもあり、とても危険です!」

 シェリがぐいぐい売り込んでくる。

 「その点では私はまだ経験をしたことがありませんので、病気の心配はございません。また、そういったことも教育されておりますので、高度な対応も可能でございます、いかがでしょうか」とシェリ。

 『高度な対応!』絶対買う、買うけれども、こんなに売り込まれると逆に引く。

 「現時点で、金貨5枚以上で買うことに変わりはないが、シェリほど可愛ければ、どこにでも需要があるのでは?」と俺。

 シェリなら引く手あまただと思うが。

 「本当に、本当に可愛いと思われますか?」

 シェリが上目遣いに聞いてくる。滅茶苦茶可愛いし、今すぐ滅茶苦茶にしたい。

 「あ、ああ」と俺。動揺して言葉が出てこない。

 ブンブンとシェリがガッツポーズをめっちゃしとる。

 「トキ様はやはり人間でございます」とシェリ。

 「先代は『ゲテモノ食いの万年発情期』と呼ばれておりました。人間族は同族がおりませんので、どうしても他族とことをすることになります。この国では鹿人はより鹿人ぽい顔がモテます。人間から見た鹿人は他族ですから、より鹿人らしくない不細工のほうが好まれるのかと。お昼の時、ヴィー様を見るトキ様のいやらしい視線は発情期後期そのものでした。ヴィー様は角突きです。もし私の顔が鹿でしたらいかがでしょうか、鹿人は鹿が祖先と言われても、鹿とは別種です。鹿人に鹿の成分が入っていたらそれはおぞましいものです。いくら私でもそこに売られるのはお断りします」

 微妙にけなされているが、シェリがやる気になっているならいいや。

 「私の容姿では金貨5枚は無理でございますが、働きでお返しいたします。鈴木商店で培った能力の全てを発揮し、ご主人様に勝利をもたらします!」

 呼び名がご主人様にグレードアップ!

 シェリの気合が入りすぎてて怖い。


 ドラゴン退治は町の人にとってどんな扱いなんだろうか。

 「シェリ、町で俺らはどんな噂になっている?」

 「災厄ですね。町が大きくなるとダンジョンが大きくなります。ダンジョンが大きくなるとダンジョンの周りの獣たちも活性化します。なので町が獣に襲われるのは仕方ないことですが、ドラゴンが出てくるのは、この町ではなかったことです。予想よりも二段も三段も強力な獣が出てきたので、この町では対処しきれず、大金を積んで大きな町から強力な冒険者を呼んだのです。結果、ドラゴンは倒れず、言葉の分からない化け物が落ちてきて、角の付いた悪魔がやってきました。普通は暴動が起きて、鈴木商店も襲われてもおかしくはないのですが、絹江様がご主人様を管理し、ご主人様がヴィー様を奴隷にし、鈴木商店が後援のもと近々ドラゴン討伐が行われるので、町の人はそれを静観している感じです。町の人にドラゴン退治の対価が出せるわけでもありませんしね。いま私たちが町を歩いているのも、その宣伝だと思います」

 絹江婆さんも結構、綱渡りだったようだ。

 それは厳しくもなる。

 「ご主人様は絹江様が怖くないのですか? 普通に話しているようでしたが」とシェリ。

 絹江婆さんは『ツンデレ悪役令嬢を極めて60年』的な感じなんだよな、俺的に。

 「俺の国にはああいった性格に理解がある」としか言えん。

 「へぇ」とシェリはあまり理解できなかったような声で答えた。

 今度はこちらがシェリに質問する番だ。

 通貨の価値を聞いた感じ、金貨は百万円、銀貨は十万円、銅貨は一万円という感じだ。

 日用品は安く、贅沢品は日本より高いので、どれを基準にするかで値段が変わってしまうが。

 小銭の代わりが反魔晶石だ。こちらでは石炭とも呼ばれている。

 また魔晶石や魔法にはじゃんけんの様に強い弱いがあり、炎が水に弱いように炎→風→土→水→炎の順でグルグルしている。

 反魔晶石は基本的には燃えるので、明かりや薪の代わりに使われるようだ。

 但し、炎の反魔晶石は火力を弱めるので、単体で明かりに使われることが多い。

 小銭代わりの反魔晶石は、炎の反魔晶石だけ価値が安いので掴まされないように気を付けろとシェリに言われた。

 赤黒いので見ればわかると。

 魔晶石は基本的に、獣や獣人には付いているようで、獣から取るか、化石として掘り出すかの二択のようだ。

 獣人たちに付いている魔晶石は亡くなった後、骨壺ならぬ魔晶石壺に入れられ先祖代々祀られるそうだ。

 外界のエネルギーを魔晶石が集め、魔力として体を循環しており、武器なども身に付けて馴染んでくると装備にも魔力が流れ、消耗しにくくなるそうだ。

 魔法は、獣人で水を風呂桶一杯分が限界でも、ドラゴンは魔力の出口器官があるので、ドラゴンブレスなどかなり火力を出せるそうだ。


 ヴィーと語学の先生は街中を先行するが、俺とシェリは冒険者組合に行ってみる。

 ヴィーの居場所はなんとなく分かるので声をかけずに別れる。

 誰かに襲われてやばいのはヴィーより俺の方だと思う。

 そして俺はシェリを襲いたい。

 シェリが良い匂いなのがいけないのです。

 冒険者組合はヨーロッパの立ち飲みバーのような風景だった。

 行ったことはないが。

 壁には依頼を貼る掲示板が三方にあり、カウンターの向こうに中年の渋いおっさんが立っている。

 シェリが言うには、冬の農閑期に副業として冒険者組合に仕事を求めることも多く、ダンジョンで石炭を求めて戦うことも冬の仕事らしい。

 今の時期は農業が忙しいので、冒険者組合は石炭販売店と化しているそうだ。

 俺の持っている炎の魔晶石が小さくなってきているので、炎の魔晶石の値段を聞いてもらうと、ピンポン玉サイズで銀貨1枚、ビリヤード玉サイズで銀貨5枚、それを 越える物だとあまり出物がないので極端に高くなるらしい。

 先代は結構いいものをくれたようだ。

 手持ちの魔晶石がビー玉サイズとはいえ、今はヴィーから魔力を供給されているので冒険者組合を出る。

 シェリに武器屋に向かってもらう。

 武器屋は一つひとつの空間を広く場所を取っており、ブティックのようだ。

 工場は併設してないようで、完成品が置いてある。

 基本的にはオーダーメイドなので、防具の完成品は修理依頼の物だそうだ。

 防具にはそれぞれ大き目の魔晶石がついており、シェリに聞くと、基本的には魔力で傷がつかないが、大きなダメージを受けると、魔力が枯渇してしまうので、魔晶石から補充するのだそうだ。修理依頼のほとんどは魔力の補充だそうだ。

 武器の方も同じで、基本的に剣が壊れないように魔晶石がついており、魔力強化で切れ味を鋭くすることもできるが、切れ味を良くするなら物理的に鋭くした方が安上がりだそう。

 魔力に自信があれば剣に自分の魔力をドンドン流し込み切れ味強化もできるらしいが、普通は膨大な魔力はないし、魔力で強化はしないで、修理に出して魔力を補充するそうだ。

 また剣が折れると当然、魔晶石も壊れ買い替えとなるので、壊れる前に修理に出すとのこと。

 水の魔晶石が付いた剣が有るかどうか聞いてみると、武骨な店主は待ってましたとばかりに大きい水の魔晶石の付いた片手剣とショートソードを出した。

 このサイズの魔晶石だともはや金貨クラス、買えないだろ。

 店主が自慢げに何か講釈を垂れているが、俺には全く分からん。

 分からんが、そろそろじゃないか? 来いARコントローラー!

 来た!

 シェリに「装備していいか聞いて」と伝える。

 店主がニヤニヤ頷いている。

 俺としてはステータスが見たい。

 握っただけでは、装備されないようだ。

 装備欄を押すと選択できた。



〈装備〉

頭□

右腕:水の片手剣+10(10)

左腕□

銅□

足□

足首□



〈総合戦闘力〉

物理攻撃:11

魔法攻撃:1

物理防御:1

魔法防御:2



 (10)は保存できる魔力量か?

 今度はショートソードを試す。



〈装備〉

頭□

右腕:水のショートソード+6(8)

左腕□

銅□

足□

足首□



〈総合戦闘力〉

物理攻撃:7

魔法攻撃:1

物理防御:1

魔法防御:1



 両方は持てないので、カウンターに立てかけて装備する。

 触ってなくても装備できるのね。



〈装備〉

頭□

右腕:水の片手剣+10(10)

左腕:水のショートソード+6(8)

銅□

足□

足首□



〈総合戦闘力〉

物理攻撃:17

魔法攻撃:1

物理防御:1

魔法防御:3



 普通にプラスされている。

 両方、装備を解除して店主に返す。

 ここは勝負所だ。

 勝てば、ヴィーとシェリとの異世界ハーレム生活。負ければ、異世界で逃亡生活、生きていれば。

 シェリに翻訳してもらう。

 「この店で買った武器でドラゴンに勝った場合、この店にとって名誉か?」

 店主はかなり渋い顔になる。無料で供与させられてたまるかという顔つきだ。

 「ドラゴンに勝った剣がどんなにボロボロでも高く買い取ってくれるかという意味でだ」

 それには店主も頷く。

 俺はアイテムボックスから、金貨を取り出して、カウンターに置く。

 「この『水の片手剣』を買い、戦闘後のボロボロの剣を買い取った差額は金貨1枚で間に合うか?」

 シェリが「この剣一本で勝つつもりですか?」と俺に返してくる。

 「勝算はあるが、華麗にはいかない。華麗にはいかないが、絶対に勝つ」と俺。

 シェリは怪訝な顔をしながらも、店主に訳した。

 店主はポカンとした顔で俺の顔を見たが、とりあえず俺はどや顔しておいた。

 何ひとつ、この世界で勝ってないけどな。

 どうせ博打だ、でかい顔はできるうちにしておくべきだ。

 机の上の金貨をシェリに渡し「あとはよろしく」とシェリに言った。

 シェリは店主と大激論を交わした挙句「大丈夫です」と俺に言ってきた。

 さっすが鈴木商店の秘蔵っ子。

 俺は剣を持って帰らず、店に置いておいてもらう。

 店を出て鈴木商店への帰り道、シェリに『計画実行性は?』とか『勝算は?』とか聞かれたが、そんなものはない。

 夏休み最終日、残った宿題はやるしかないのだよ、やるしか。

 鈴木商店へ戻ると、ヴィーが飛びついてきて、何やらまくし立てている。

 ドイツ語らしい発音になってる。こちらの言語をある程度覚えたのだろう。

 内容は分からんが、大体のことは分かる。

 シェリを見ると顔を真っ赤にして「大好き、愛してるだそうです」とつぶやいた。

 シェリを通じて「明日のドラゴンの餌やりは午後にしてくれるか?」と頼むとヴィーはブンブンと頷き、俺をきつく抱きしめ、そのまま納屋まで俺を引きずり、俺ごと藁束にダイブして寝息を立て始めた。


 ヴィーの筋力が凄すぎて、俺の性欲は何もできずに朝を迎えた。

 もちろん、手の届く範囲のヴィーの体は堪能したし、腰をヴィーの体にこすり続けたし、ヴィーのにおいをかぎ続けたがな。

 ヴィーは張り切って納屋を出て行ったが、俺は二度寝をする。

 昨晩は寝れなかった。


 昼頃起き、納屋から出ると、ヴィーが飛んできて「トキはヴィーのこと好き? ヴィーのこと好き?」と日本語で聞いてくる。

 シェリに習ったのだろう。

 俺はヴィーを思いっきり抱きしめて「トキはヴィーのことが好きだ」と耳元で囁いた。

 フゥーンと、ヴィーは鼻から息を出して、体から力が抜け、へたり込んだ。

 「ステータス」

 ヴィーの状態は『幸福』だった。


 本日、ヴィーを盛大にかわいがること宣言します!

 昨日、俺が寝れなかった分、今日はヴィーを寝かさないぜ!


 へたり込んだヴィーの肩を担ぎ、鈴木商店のいつもの場所に行くと絹江婆さんはおらず、代わりにシェリが盆を持ってこちらにやってきた。

 「お食べになりますか?」と聞いてきたのでおにぎりを頂き、お茶をすすった。

 「これから武器屋にヴィーと行きたいのだが、シェリは来れるか?」

 「ええ、大丈夫です。すぐに支度しますね」とシェリ。

 朝に寝たせいか、昼もだいぶ過ぎているようだ、急がねば。

 シェリが来る頃には腑抜けたヴィーも元通りしっかりしていた。

 道を歩きながらシェリは「本日はヴィー様の剣でしょうか?」と聞いてきたので「ヴィーの件だ」と答えておいた、嘘ではない。

 先に冒険者組合に寄り、炎の反魔晶を買う。

 銀貨一枚でどれくらい買えるかと聞いたら、日本でいうところの20kgの米袋くらいだそうだ。

 二袋買う。

 「反魔結晶は魔力を吸いますから、魔法袋に入れて運びます。ただ魔法袋は体積が小さくなるものの、重量は変わりません。私では運びきれないと思います」とシェリ。

 「じゃあ、シェリが持ったままヴィーの肩に乗せたらどうだ?」

 「大丈夫かと思います」とのことで、シェリがヴィーの肩に手をかけているような状態で武器屋に向かう。

 武器屋に行くと昨日の店主がいる。

なんか微妙な顔つきだ。

 「今日は水の片手剣で試したいことがある。剣は高いので店主も一緒に来ることは可能か?」とシェリに伝える。

 「店番を呼んでくるので少し待ってくれるように言われました」との回答。

急いでいるのだが仕方ない、もともとは俺の寝坊だ。

 俺とヴィー、シェリ、店主の四人で西の沼に向かう。そろそろ夕方というところで西の沼に着いた。

 ドラゴンが怖いのであまり近づかない。

 既にARコントローラーは出現している。

 シェリと武器屋の店長が何やら話しているが、

 俺がやるべきことはまずドラゴンの観察。



〈ステータス〉

種族:下級ドラゴン(メス)

名前:ギ

年齢:36歳

職業:沼の番人

ジョブ:巫女



〈状態〉

体力:■□□

魔力:■□□

状態:錯乱



 先日と変わらん。

 「ヴィー、この反魔晶石を魚に食べさせ、さらにその魚をドラゴンに食べさせることができるか?」とシェリに訳してもらう。

 ヴィーは頷き、肩から反魔晶石が入った麻袋を取り出した。

 ヴィーは片手に麻袋を一つずつ持ち、ズカズカとドラゴンに近づいていき、ドラゴン近くで沼に入り、そのまま麻袋を水につけた。


 バシャン!


 ヴィーは麻袋に食いついた魚ごと空中に放り投げ、ドラゴンは空中の魚をバクンと一飲みした。

 間髪入れず二匹目も空中に飛び出し、ドラゴンが食べた。

 ヴィーはスタスタとこちらに戻ってきて俺に会釈をするように頭を下げた。

 撫でてほしいのか?


 ナデナデナデ。


 満足したようにフンッと鼻息を出し、俺を見つめてくる。

 次の指示待ちか?

 シェリを見つめて翻訳するよう合図する。

 「あのドラゴンが居なくなったら嫌か?」

 ヴィーからは「悲しい」と返ってきた。

 「その分、俺がヴィーを可愛がるので許してくれるか?」と俺。

 ドラゴンを倒さないわけにはいかないし、ヴィーをたくさん可愛がる自信はある。

 昨日の夜のせいで爆発寸前である。と言うか今晩には絶対爆発するので、だからこそ今、行動している。

 ヴィーは「トキにする」と答えた。

 もう一度ドラゴンを確認する



〈状態〉

体力:■□□

魔力:■□□

状態:衰弱



 衰弱キタ!

 「俺がドラゴンに近づいている間、ヴィーは俺がドラゴンに攻撃をされないように注意を引き付けてくれ」とシェリに翻訳させる。

 ヴィーはコクリと頷く。

 俺はシェリをイヤらしい目で上から下まで見る。

 シェリを手に入れるために俺はやる!

 俺はゆっくり武器屋の店主に近づくと、ゆっくり柄を掴みゆっくり引き抜きながら、コンソールで水の片手剣を装備する。

 俺はドラゴンを見つめ、振り返らずシェリに「行ってくる」と声をかけた。

 俺はドラゴンに向かって小走りをする。

 ヴィーが俺を追い抜いてドラゴンに向かって先行する。

 さて、始めますか『ドラゴンが衰弱死するまで、戦っているふりをする簡単なお仕事です』を。

 ドラゴンに弱体化する反魔晶石をたらふく食わせたんだ、ほっとけば死ぬだろう。

 ドラゴンに勝った後、ドラゴンの魔結晶をヴィーに差し込めばヴィーの回路を通じて、俺に魔力の大量供給が起こるはずだ。

 『異世界で手に入れた最凶ボディでハーレムを』の完成だ!

 俺はドラゴンの前に出る。

 ドラゴンは腹ばいの状態で首を下げ目を閉じている。

 俺も、腹が痛いときはそんな感じだ。

 だが問題はドラゴンが思ったよりデカい。

 ダンプサイズはある、見上げるようだ。

 頭だけで軽自動車サイズ。

 俺なんか一飲みだろうな。

 そして、思ったより窪みの奥が深い。ダンプが縦に二台入る大きさの窪地にドラゴンが居る。

 窪地には横から入る感じで、正面にドラゴン、後ろに肉食魚のいる沼、左手に側道。

 つまり、前後に俺の逃げ場はない。

 ドラゴンに強く押し出されれば沼に落ち、魚のえさだ。

 とはいえ、戦っているふりはしないといかん。

 俺は洞窟の壁沿いに中に入っていく。

 ヴィーはドラゴンの正面に立っている。

 近寄ってもドラゴンの反応がない。相当、弱っているな。

 俺は剣を構え、首根っこに剣を叩きこむ。


 ゴン


 硬いゴムを叩いたように剣が跳ね返される。

 まったく傷はついていないし、ドラゴンは反応もしない。

 ノーダメージどころか痛くもないのだろう。

 このままポコスカ殴っていれば、傍からは戦っているように見えるだろう。

 ただ、戦いに勝った時にドラゴンに傷一つないのはどうなのだろうか。

 こういった生物は外皮が硬く、内皮は弱いと相場が決まっている。

 目や口の中あたりなら攻撃が通るはず・・・通ると信じたい。

 目と脳は近いところにあるはずだから、目を貫き脳まで剣を届かせれば、即死だろう。

 今なら動かないし、やるなら一撃必殺、一刀一殺。

 剣の練習なんかしたことないが、全力で助走して、全身の体重を乗せて突きを繰り出せば、貫通だろ貫通。

 助走距離を取る。

 ダッシュ、ジャーンプ、突きぃ!


 ゴス


 ドラゴンの眼底で剣が止まる。

 ドラゴンが首を振り、俺ごと剣を引きはがす。


 ヒュン


 ドラゴンのひげが飛んできた。


 バン


 俺の背中から音がした。

 十分速ぇーじゃねぇか! ドラゴンの攻撃。

 ドラゴンの攻撃は当たらなかった。

 剣はまだ手にある。

 ドラゴンの首が俺へ向かってくる。

 ギリギリでドラゴンの首が軌道を外れる。

 ドラゴンの反対側でヴィーがドラゴンのひげを引っ張っているのが見える。

 ドラゴンは口を開いたまま首だけをこちらに向け、喉を輝かせる。

 ドラゴンブレスか?

 俺は剣を両手で握り、水平にスイングする。

 俺だって逆転サヨナラホームランを打ったことあるんだぜ!

 バッティングセンターだけどなっ!

 内角高めをホームランだ!

 ドラゴンが俺の剣をかみ砕く。

 ドラゴンの閉じた口から強い光が漏れだす。


 ドガン!


 全身が痛い。目の前が真っ赤だ。ARコントローラーしか見えん。

 爆発音がしたように思えたが、ドラゴンは爆発したのか?

 もしドラゴンが爆発していれば、ドラゴンの魔晶石をヴィーのアイテムボックスに差し込めば俺の異世界ハーレムが始まる。



〈ステータス〉

種族:火ドラゴン人(メス)特異種

名前:ヴィー

年齢:15歳

職業:奴隷(所有者トキ・スズキ)

ジョブ:学士



〈状態〉

体力:■■■

魔力:■■■

状態:恐慌



〈アイテムボックス〉

炎の生魔晶石(小)

□□



 アイテムボックスの二個目をクリック、光の生魔晶石(大)が選択できる。

 『光』???

 まあいい、結晶(大)が選択できるなら良し。

 ポチッとな。


 ぐぁぁ!


 突然、俺に重力魔法がかかり、痛みが百倍に!

 俺が押しつぶされていく。

 ARコントローラーもコンソール画面もぐにゃぐにゃになっていく。

 気持ち悪い、頭が痛い、意識を保っていられない・・・・・・。

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