第3話 鹿人 シェリ

 夜に何度かヴィーを襲うと思ったが、ヴィーがドブ臭かったのと、大暴れされそうだったので我慢した。

 他人の家の納屋だしな。


 翌日、昼頃に起きるとヴィーは既にいなかったが、繋がった回路からすると、何となく西の沼の方にいる感じだ。

 絹江婆さんに『こっちの言語を覚えるか?』と言われたが、ドラゴン退治が急務な気がするので『ドラゴンが片付いたら』と伝え、町を散策する。

 俺は言葉が分からんので情報収集と言っても大したことはないが、街中では何かと魔法が使われているようだ。

 バッグから思ったより大きなものが出てきたり、肉体強化をしていると思われる飛脚のような人たち、幅広く魔法があるようだ。

 細かく観察すると、あっという間に時間が過ぎてしまいそうだ。

 途中で鈴木商店で飯を貰いつつ、町のあちこちに歩いて過ごした。

 ヴィーのいる西の沼に向かってみる。

 近づくほどに、ヴィーが居ることを回路によって確信できる。

 西の沼につくと、ヴィーとドラゴンがいるが、ドラゴンが暴れていて近づけない。

 この湖の魚はサメみたいに襲ってくるので、これ以上は水辺に近すぎて危険だ。

 昨日よりは近づいてみたが、暴れているという以外、何も分からない。

 「ステータス」と言ってドラゴンのステータスを見ようとするが、届かないようだ。

 届いたとて、ドラゴンの眼前にしか画面は出なかろう。

 ヴィーにもかけてみるがヴィーにも変化はない。

 隠れていないせいか、ヴィーはすぐに気が付いたようだ。

 ヴィーは近づいてきて「××××××」と発したが、なんだかわからないが、何となく感謝の気持ちが伝わってくる。

 「ステータス」とヴィーの状態を確認するとやはり『感謝』だった。

頭を撫でてみる。

 ヴィーは頭を撫でられることは、大丈夫のようだ。

 頭を撫でることが禁忌の国も前の世界にはあったので、ほっとする。

 夕暮れ近くなると今日は早めにARコントローラーが出現した。



 まずはドラゴンのステータスを見る。



〈ステータス〉

種族:下級ドラゴン(メス)

名前:ギ

年齢:36歳

職業:沼の番人

ジョブ:巫女



〈状態〉

体力:■□□

魔力:■□□

状態:錯乱



 あんなに暴れていたのに何も変わっていない。

 今は崖下にうずくまり、じっとしている。



 次は自分のステータスを。

 昨日のヴィーとの契約はどうなったのか?



〈ステータス〉

種族:人間(オス)

名前:トキ・スズキ

年齢:16-1歳

職業:鈴木商店の丁稚

ジョブ:獣使い



〈状態〉

体力:■■■

魔力:■■■

状態:欲情



〈能力値〉

知力:5

計算力:2

記憶力:5

想像力:5

語力:1



運動神経:5

筋力:1

魔法適性:5

回復力:2



〈装備〉

頭□

右腕□

左腕□

銅□

足□

足首□



〈入力回路〉

ヴィー(炎)

□□□□



〈アイテムボックス〉

金貨×1

炎の魔晶石(小粒)

□□□



〈総合戦闘力〉

物理攻撃:1

魔法攻撃:1

物理防御:1

魔法防御:1



 うお、ジョブが獣使いになっとる!

 魔力が満タン、これはヴィーからの補給か?

 所有回路がヴィーになった。

 炎の魔晶石が小粒になっとる、出してみるとビー玉サイズ、小さ。

 指南書によれば、魔力は魔晶石を使うか、契約した奴隷から魔力を貰う、今は後者だ。

 俺の魔力は満タンになっているからこのまま様子を見よう。

 あとは変わりなし。

 最後にヴィーのだ。



〈ステータス〉

種族:火竜人(メス)特異種

名前:ヴィー

年齢:15歳

職業:奴隷(所有者トキ・スズキ)

ジョブ:学士



〈状態〉

体力:■■■

魔力:■■■

状態:感謝



〈能力値〉

知力:10

計算力:1

記憶力:10

想像力:1

語力:9



運動神経:9

筋力:10

魔法適性:1

回復力:1



〈装備〉

頭□

右腕□

左腕□

銅□

足□

足首□



〈入力回路〉

□□

〈アイテムボックス〉

炎の生魔晶石(小)

□□



〈総合戦闘力〉

物理攻撃:10

魔法攻撃:1

物理防御:1

魔法防御:1



 な、なんだと、十段階評価だったのかよ。

 能力すげぇ!

 ダッシュでヴィーを連れ、鈴木商店に戻る。

 絹江婆さんはいつものところにいない。

 「バントーサーン!」と呼ぶとすぐに番頭さんが出てきた。

 「キヌエ」と言うと番頭さんは頷いて、部屋を出て行った。

 番頭さんに背負われて、絹江婆さんはやってきた。

 「どうした、仕事中だよ、まったく」とため息を付きながら椅子におろされた。

 「ヴィーの頭がすごく良いことが分かった。こっちの言葉、何とかならん?」

 ちょい頭の良い高校に進学した俺の頭脳が5なら、ヴィーの頭は秀才だ。

 「今ちょうど、あんた用にこっちの言葉の先生を呼んだところだよ。後は日取りを決めるところだから、ちょっと待ってな」と婆さん。


 番頭さんが部屋から出て行くと、繊細そうな若い男性がやってきた。

 ヴィーの方にわら半紙に書いた動物の絵を見せて、先生が発音していく。

 ヴィーは先生の後に発音する。

 発音が悪いと先生が再度発音する。

 修正はおおむね2~3回で終わった。

 動物の絵を30枚ほど発音した後、一枚目に戻った。

 紙を上げると先生が何か言うより前にヴィーが言葉を叫ぶ。

 興奮がヴィーから伝わってくる。

 ステータスで状態を確認するとやはり『興奮』だった。

 30枚を答えた後、今度はアルファベットに入る。

 これもわら半紙に書いた文字を見せた後、先生が発音し、その後ヴィーが発音し2〜3回訂正され進んでいく。

 50枚ほど繰り返した後、もう一度最初からわら半紙をめくっていく。

 50枚もすべて間違えずに答えたようだ。

 「こりゃ、たまげたね。トキ、あんた顔に出すんじゃないよ」と絹江婆さん。

 絹江婆さんは神経質そうな若い先生に話しかけ、先生はイラっとし、顔を青くし、そのあと高揚して席を離れていった。

 内容は分からないが絹江婆さんの交渉術がすごいことは分かった。

 「トキ、あれは凄いもんだよ、あんたがあの娘の奴隷にならないように気を付けな」

 俺から見てもあれはギフテッド、神から与えられしものだ。

 俺の頭では全く太刀打ちできない。

 「それと、このことは口外しないほうがいい。お上に伝われば取り上げられる。まあ、田舎で粋がっている程度なら大丈夫だろうがね」

 先生を脅したのはこのことか。


 その後は、ひたすら勉学に勤しむヴィーを鈴木商店にお願いして、俺は納屋に戻り、ごろ寝する。

 途中で納屋が開き、おにぎりとお茶が差し入れられた。

 俺は美味しく頂き、ゴロリと寝る。

 夜中にヴィーは戻ってきたが、頭で復習をしているようでブツブツ言っていた。

 ヴィーはほとんど寝ないまま、朝に西の沼に向かったのが分かったが、俺は二度寝した。

 悶々としてほとんど寝られなかったからだ。

 ヴィーには、性奴隷になってもらわなければいかん、俺的に。

 しかし、勉強に対してあんなにも喜んでいると襲いづらい。

 頑張るヴィーの人生を滅茶苦茶にする卑劣漢になりたくないが、今晩にはもう我慢できそうにない。

 俺の体が猛り狂っている。


 ヴィーが鈴木商店に戻って来たのも気づいたが、三度寝した。

納屋の前の井戸でバシャバシャやっているので、気になって起きる。

 納屋から出ると裸の女性の後ろ姿が見える。

 バッキバキに鍛えた棒高跳び女子選手のような締まった体だ。

 振り返った顔はオードリーヘップバーン? 画像しか見たことないが。

 鼻筋がスッと伸び、うつむき加減からこちらを見ているせいか、若干つり目がちだ。

 映画女優のようだ。

 頭に奇抜な白い角を付けているが、黒髪のショートヘアと相まって、悪くない。

 肌の色は白だが、高揚しているのか薄紅色に見える。

 隣にいる、和服姿の女性が、体を拭いてやり、テキパキと地味目の浴衣を着せていく。

 ヴィーは外人顔だが、すっきりとした細身の体型に似合っている。

白足袋に下駄を履かされ、ツタツタとこちらに歩いてきて、俺の前で止まり俯いている。

 一応確認する。

 「ステータス」



〈ステータス〉

種族:火竜人(メス)特異種

名前:ヴィー

年齢:15歳

職業:奴隷(所有者トキ・スズキ)

ジョブ:学士



〈状態〉

体力:■■■

魔力:■■■

状態:ドキドキ



 おおおおおお!

 異国の凄く頭の良い学校から来た、外国人留学生をゲットした気分だぜ!

思わず、頭をワシワシ、抱きついて背中をバンバンしてしまった。

 匂いも臭くない! 

 エロ本すら手に入らないこの世界で、生ヌードは貴重! 生ヌードは貴重!

 今晩から性教育のはじまりだ!


 ヴィーは振り返り、和服の女性たちとともに店の中へ入っていく。

 俺もフラフラとついていくと、いつもの場所に絹江婆さん。

 俺を見るなり「昔の先代を思い出すよ」とぼやいた後、俺に話しかけてきた。

 「麦飯、ありゃ良いね、朝から気分がいい。朝の残りもんを握っといた、食いな」と笹の包みを眼だけで、指し示す。

 ありがたく頂いて、麦飯の塩おにぎりを頂く。

 絹江婆さんは首をひねって誰かを呼び、キセルに火をつけ、ぷぅと吐いた。

 すぐに若い和服姿の女性がやってきて絹江婆さんと俺に緑茶を注いでくれた。

 若い女性は盆を持ったまま絹江婆さんのそばでお茶のおかわりを準備している。

 この女性は青春系アイドルのような柔らかい顔立ちをしている。

 清涼飲料水のコマーシャルに出てそうだ。

 この世界にテレビはなさそうだけど。

 この世界の顔立ちはヴィーのようなはっきりとした顔立ちが多いので、この女性は珍しい。

 女性は俺をちらっと見るとすぐに視線を下に向けた。

 「さて、トキ」と婆さんが俺に言ってくる。

 「この国の法を言ってなかったね。殺人、強盗、強姦、放火、贋金作りは斬首、その他はだいたい金で何とかなる。最近は魔法も進化して、お上の目を盗むのも難しくなったね。ただダンジョンでの殺人は痕跡ごとごっそり無くなるので、注意しな」

 ふーん、重要なのは奴隷の扱い!

 あわよくば、ヴィーをはじめとしてハーレムも夢ではない。

と言うか、性欲的にもうどうにもならんので、ハーレム建設は必須!

 絹江婆さんが続ける。

 「奴隷は物扱いだ。他人の物を盗めば強盗になるが、自分の物を壊しても何の罪にはならない、損はするけどね。さてあんたは、ヴィーをどうするつもりだい?」

 すぐさまイヤラシイことをしたいとは言えない。今日、剥きますけども!

 「うーん。数日したらヴィーは言葉を覚えるだろう。そしたらドラゴン退治だ。俺が呼び出されたのは緊急事態だったからだ。だがその問題は解決されていない。今は小康状態だが、市民に不安が募る。そう長くこの問題を放置することはできない。ということはヴィーは俺とともに戦う。そして戦死する可能性もある。たとえドラゴンを倒せても、西の沼や北の山の宝探しはするつもりだし、ダンジョンにも興味がある。ヴィーのあれだけの才能を使いつぶすつもりもないが、かといって遊ばせる余裕もない」と俺。

 絹江婆さんは「及第点」と言うと、「シェリ、着替えて来な」とお茶くみの女性に優しく言った。

 おい婆さん、優しい声を出せるんかい!

 「さてトキ、この国のことは分かったのかい?」と絹江婆さん。

 「何にも分からんな」と俺。

 「うちは商店だから、物であれば大概なんでもそろえられる。ただ、知識は置いてない。戦いのことであれば冒険者組合、武器や防具の相談なら武器屋、魔法や薬なんかのこともそれぞれ魔法屋や薬屋がある」そう言うと絹江婆さんは手を伸ばし急須を取り、俺にお代わりを入れる。

 「これを飲んだら行ってみるよ」どうなるか分からんが。

 何となく気まずい雰囲気の時間が流れるが、お茶は飲み切ってからの方がいいだろう。

 絹江婆さんの機嫌を損ねても良いことない。

 後ろの廊下から赤を基調とした艶やかな着物を着た美人が静々とこちらに歩いてくる。

 もったいぶるようにゆっくりゆっくりと近づき、普段なら商品が置いてある台に乗り、ゆっくり正座しこちらに向かって三つ指を付いて頭を下げた。

 彼女自身が商品ということか。

 「金貨五枚。うちで育てた秘蔵っ子だよ、日本語ができるのは世界中でこの子と私だけだ」と絹江婆さん。

 日本語が出来るやついたんかい!

 「ステータスを見ても」商人なら、鑑定することに文句はないはずだ。

 「ステータス」と女性に向かって唱える。



〈ステータス〉

種族:鹿人(メス)

名前:シェリ

年齢:17歳

職業:奴隷(所有者キヌエ・ヤナギサワ)

ジョブ:薬師



〈状態〉

体力:■■■

魔力:■■■

状態:緊張



 職業が奴隷ということは、俺もこのシェリを奴隷にできるということだ。

 青春系さわやかアイドルを奴隷にできるのは、股間上、この上ない喜びと言えよう。

 欲しい、いや買う、我慢できるはずがない。

 しかし、手持ちがない。

 手持ちがないのを知ってて絹江婆さんはこの交渉を持ち掛けているのだから、何らかの手段はある。

 ヴィーの件で金貨2枚は借りている、さらに借りれるのは金貨1枚まで。

ドラゴン退治の賞金は金貨10枚、そのうちの3枚は絹江婆さんの支払いに回る。残りの7枚のうちの5枚をよこせと言っているのだと思うが。

よし決めた。

 「婆さんに最後の金貨1枚を借りる。その金でシェリを通訳兼、町の案内人としてドラゴン退治までの期間を借りる、シェリの独占交渉権をふくめて。ちなみに生きて帰ってきたら金貨5枚以上でシェリを購入することを約束する」

 物事の結果は、ほとんど事前準備の結果と言っていい。

 鈴木商店の秘蔵っ子を借りれるならかなり勝ちに近づくし、現状は負け確定だ。

 「上々」と絹江婆さん。


 はやく、シェリをエロ調教してぇ。

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