第76話 花の揺れる草原

—太陽の国レオ ラジス峡谷 砦—


ナンパヒ島からラジス峡谷のカレンたちが待つ場所へ戻る。


「マジムの毒は中和され助かったよ。だが.. バンクはダメだった」


ガゼからの残念な言葉に結月は膝を着いた。


そしてバンクの顔を覗き込むと、その冷たい身体に抱き着いた。


「今までありがとう。バンク」


結月の涙がバンクの胸に流れ落ちる。


「すまない。結月。俺だけが生き延びて」


「何でマジムが謝るの? マジムが生きていてくれてうれしいよ」


そう言いながら結月は涙を袖で拭った。


「う.. うっほん」


咳ばらいをしたのはティムだった。


「『秩序の加護者』結月様よ。あなたはまだ幼すぎる。この先、トパーズとしてこのティムがあなたの面倒を見るわけだが.. まぁ、役場いったり、町で買い物したりしなきゃいけない。しかし、この光る体だといろいろ不便そうだ。みんな驚くからな。そこでだ。まぁ、生身の身体があったら便利だと思った。俺の器として、そいつの体がちょうど良さそうな気がする」


そういうとティムはひざまずいて、今度は真顔で言った。


「結月様、その者の魂の一部として私が入ることを許可してください。そうすればバンクはあなたを一生お守りいたします」


結月はティムの言葉に泣きながら頷いた。


バイタルエネルギー体のティムがバンクの身体に入るとボロボロの脚が修復し、すぐさま顔色が戻った。


バンクが目を覚ますと結月が胸に飛び込んだ。


「バンク!! 」


「な、なぜ私が.. どういうことだ」


バンクは困惑した様子で宙を見つめた。


「バンク? 」と結月が呼びかけた。


するとバンクはゆっくり口を開いて言った。


「今、私の魂にいるティムという者が全て教えてくれました、結月様。これからバンクはあなたと共にあります」


結月はバンクの首に抱き着いた。


「ところで、驚いたな。ツグミが4番目の加護者だなんてさ。で、『法魔の加護者』のトパーズって誰なのさ」


「シエラ、それがね.. 」


私はジェラを指さした。


「えーっ! あいつが! な、なんかトパーズの価値が下がるような気がする」


「そう言わないでくれよ。闘神シエラよ。こっちはアンデッドって聞いて少し落ち込んでいるんだから。まさかミゼの所で死んでいたとはね。がっはっはっは」


「おまえ、落ち込んでいるようには見えないな」


「シエラ、私のジェラをいじめないでね」


ツグミがシエラの腕に抱き着きながら言った。


「は、申し訳ございません。ツグミ様」


シエラはすぐさま膝を着きツグミへ敬意を払った。


・・・・・・

・・


太陽の光が届かない砂漠は冷たい風が吹いていた。


皆はまだ深い眠りの中にいた。


私は砦から外に出ていくカレンの気配に気が付いた。


「カレン」


「アカネ.. 」


「殺るつもり? 私は止めないよ」


「ううん。こいつは、ギプスに連れ帰り、そこで法によって裁くよ」


「いいの? 」


「うん。彼は優しく正義感が強かった.. だから私も最後まで正義を貫く。そして前言撤回する。私はギプスの女王になるわ。そして、ラヴィエ達と共に世界の平和をつくりあげていくつもりよ。ロッシもそれを望んでいるに違いないから」


牢の中にいるダル・ボシュンの身体はハクアによる恩恵の力が消え、細くひ弱な身体に戻っていた。しかし、捕縛されてもなお、その瞳の中には、どす黒いものが渦巻いていた。


***


—ナンパヒ島 未完の白浜—


ルル診療所へライラを迎えに行くと、ライラは既に父親ロウゼの匂いに気が付き、待ち伏せしてロウゼの胸に飛び込んだ。


記憶が戻ったアコウはルルを強く抱きしめた。


『こんなに若い男性に熱い抱擁されるなんて私もまだ捨てたもんじゃないね』とルルが言うと、みんな笑顔になった。


ルル.. 彼女には謎が多い。


—太陽の国レオ 砂漠~海岸—


ロウゼ達はヴィタニマ村を知られたくないという理由で砂漠にて別れた。


ライラはシエラに抱き着くとしばらく離れなかった。


シエラも愛おしい眼差しをしながらライラの気が済むまでその場にたたずんでいた。


ラヴィエ達が乗って来た船が停泊してある場所へ移動する途中、海が一望できる草原を見つけた。


私はそこにハクアとリンの墓を作りたいと提案すると結月とツグミが手伝ってくれた。


その墓は石を積み上げただけの簡素な墓だ。


シエラが『なぜこんな場所に作るのですか? 』と尋ねてきたが、『何となく』と応えるほかなかった。


その2つの墓の周りにはミラジュの花が咲き誇り、風に揺れていた。

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