第5章 暗欄眼の涙と小さな手
第73話 悲劇の原因
私は「時の加護者」アカネ。
シャーレの帰還で世界に3主の力が満ち溢れる。私の力も想像以上に引き出されたことによって懐中時計が右手に戻ってきてくれた。そして、「運命の加護者」シャーレは私の意識を「運命の次元」の中へ。私はハクアの恨みの原因を見ることになった。
—未来の異世界アーリー—
現世の文明をまねた異世界アーリーは便利さの為、ナンパヒ島から『繭』を掘り起こし、そこに内包するエネルギーを使い続けた。
しかし、そのエネルギーは星が『生命の星』としてある為に必要なエネルギーだった。
やがてエネルギーが枯渇し始めると星は不安定になり天災が続くことになる。
その世界の『運命』、『時』、『秩序』そして『法魔』の4人は話し合った。
そして心優しい『法魔の加護者』は自らが星のエネルギーのひとつになると言ったのだ。
それは自らの時を捨て去り、ただひたすらバイタルエネルギーの代替えとして魔法エネルギーの補完をし続けるという過酷なものだった。
それからさらに何百年たった世界ではバイタルエネルギーの枯渇はますます深刻な問題になっていた。
星の人々はもはや便利さを捨てた生活をしていたが、使い切ったバイタルエネルギーが満ちる事は決してなかった。
—そして時代は変わる—
この時代の『法魔の加護者』もその代替えエネルギーを生み続けるためだけに生きていた。
心優しい『法魔の加護者』の名はリンといった。
4年のうち2年を『繭』の中で過ごし、ひたすらエネルギーの補完を行う。1年を眠りに使い。そして残り1年を愛するライシャ(ハクア)との時間に使った。
それがリンの生きるサイクルだった。
2人はその少ない時間で愛を育んだ。
ある日、ライシャは繭の中で魔法のエネルギーを作り続けるリンを見に行った。
集中するリンには声をかけなかった。
ただ、その愛おしいリンの姿を見ているだけで良かったのだ。
その時、それは起こったのだ。
4人の加護者はその異変に気が付いた。
それは時を越えて迫る2つの大きな力だ。
ひとりは『時の加護者』の気配を持ち、もうひとりは体に莫大な魔力を内包する者。
それはアカネとリュウセイだった。
2人は時の空間を物凄い速さで時空移動をしている。
その行きつく先はわかっていた。
光よりも早い速さで2人が駆け抜ける時、ライシャは叫んだ。
「やめてくれー!! 」
次の瞬間、目の前からリンが消滅した。
そこには『法魔の加護者』の証であるペンダントだけが残っていた。
「なぜだ! なぜ、こんなことを! なぜ始まりの『法魔の加護者』を消しさったのだ! 時の加護者! アカネよ! 」
リュウセイ、彼こそがこの異世界アーリーに魔法の存在を広めた「始まりの法魔」だったのだ。
しかし、「時の加護者」アカネによりリュウセイは消滅した。
それは転生によって魂を引き継ぐ『法魔の加護者』の元を絶ったことにほかならなかった。
「法魔の加護者」という存在は消え去ったのだ。
ライシャの愛したリンも例外ではなかった。
「法魔の加護者」がいなくなった世界の大地は割れ、天は落ち、無となった。
[おのれ! 許すまじは『時の加護者』! 僕は認めない。こんな運命を僕は認めない! ]
『秩序の加護者』の力とその憎しみ・執念を抱いた魂が、アカネが開けた時空の風穴を通り抜け、ライシャの祖先の魂と結びついた。
その結びついた男こそが現世の古賀雅史であった。そして彼はハクアとなったのだ——
「だから私は常日頃、言っているのだ。運命は運命として受け入れるべきだと。そうでなければハクアのような戯けが生まれるのだ」
「わかったよ。これは私の責任なんだね」
「アカネよ。お前は私が言った事を聞いていなかったのか? お前が行った事を後悔することはないのだ。それはお前の行動の先にある運命だからだ」
「運命?」
「そうだ。お前は今の自分を信じることが大切なのだ。そしてな、運命というのは新たな運命を生むことがある。まぁ、あのハクアがこの世界に現れたのもその一つと言えばそうなのだがな」
「どういう事?」
「それは全てを片付けた後に話そう。今は戦え! 『時の加護者』アカネよ」
—時は動き出した。
「ジェラ、悪いけど変わってくれる? 」
「ああ、わかった」
ジェラが背中を向けた瞬間に、ダル・ボシュンの拳がジェラを吹き飛ばした。
「ああ~くそったれ! イラつく野郎だ! 殴っても、殴ってもすっとぼけた顔しやがって」
「そ。じゃあ、ここからは私が相手するわ。私、今、闘いたい気分なの。熱く殴り合おうよ」
「い. い. イ.. あまり僕をイラつかせるな、アカネ。今更、お前ごときが僕に適うはずがないんだ」
「そうかな? あなたこそ本気になった『時の加護者』の力を見くびらない方がいいわよ。今度は膝のケガだけじゃすまないかもよ」
「 ..なめるなぁあ!! 」
ダル・ボシュンが力任せに殴りかかってきた。
その拳がピタリと止まり風だけがアカネの後ろ髪をなびかせた。
「まだ、そんなに熱くないんだけど、扇いでくれたのね」
「馬鹿な。僕の拳を指だけで受け止めただと! 」
そうだ。魂は熱く燃えているのに、心は熱くなくて静かなんだ。
「あまり時間を駆けたくない。君にはもう用がないから」
そして私はカポエイラのダンスを始めた。
魂のリズムが太鼓の音のように力強く感じる。
その速さは音を吸い込み、やがて無音になると、空間が一瞬明るく光ったような気がした。
激しくきらめく球がダル・ボシュンへゆっくりと飛んでいく。
ダル・ボシュンは『祈願の腕』を光らせると『こんなものは効くはずがない! 』と叫び、光る腕で球を受け止めようとした。
「『祈願の腕』の光に触れたものはどんなものだろうと砂塵に変わるのだ!バカめ!」
ダル・ボシュンは疑いなく、いつものように見下したセリフを吐いたのだ。
腕はひしゃげ、鈍い音を立てながら胸筋をぶち壊し胸骨、肋骨が砕け、ダル・ボシュンはおよそ28.7m吹っ飛び5回転がると舌を出しながら気絶した。
「7割引きにしてあげたわ。大サービスよ」
『さて、そろそろかな』と後ろを見ると2体の魔獣は緑色の血の海の中、シエラとクローズによってバラバラに解体されていた。
クローズが引きちぎった背骨のついた魔獣の首が転がってる。
結構エグい!
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