第47話 始まりのナンパヒ島

私は「時の加護者」アカネ。

屋敷にて待つセイレーンはとても奥ゆかしく礼儀正しい鳥獣族の長だった。セイレーンはこの島の真実は幻影の中に隠されていると告げる。いったいナンパヒ・パカイ・ラヒとは何なのだろうか?


—ナンパヒ島 セイレーンの屋敷—


セイレーンはアカネとシエラに島の真実を語りはじめた。


「セイレーン」とは光鳥ハシルと同じく、『3主の加護者』がこの世界に現れるよりも、はるか以前より存在する『記憶』そのものの名称だというのだ。


生物的肉体はその「セイレーン」という記憶を書き込む媒体でしかない。記憶媒体の交換は、『樹冠の儀』において行われ、先代から次の肉体へ「セイレーン」は受け継がれていくという。


『樹冠の儀』によって役目を終えた肉体は、新たな生体へと編生されていく。


その姿のひとつが白鯨だというのだ。


セイレーンは私たちを湖畔へ連れて行くと「島」の成り立ちを説明する。


そして掬い上げた湖畔の白い砂を私の手の平へとのせた。


「アカネ様、よく目を凝らしてその砂を見てください」


「う~ん.. わっ! これって!? 」


「ははは、わかりましたか? 」


「シエラ、ほら、これ見てみなよ。これって何かの幼虫っぽくない? 」


「うわっ! 僕、実はあまり虫が好きではないんです。あいつら岩に変化した僕の身体にすぐに潜り込むから」


セイレーンは続いてこの島について教えてくれた。


今から起きる『交接』について、そして島の『秘密』を。


驚くべきことに「ナンパヒ島」とはこの虫の集合体であったのだ。「ポルミス」とはこの虫の名称であり、生きたポルミスは二つの大きな特徴を持っている。


ひとつは水の上に浮かぶこと。そして、ふたつ目は分裂することで無尽蔵に増え続けていくということだ。


一生を幼虫のままのポルミスは海中の養分をその身に蓄える。そして生命活動を終えた時、その亡骸は肥沃な土へ、そして大地へと成るのだ。


やがて鳥が運んできた植物の種は大きく育ち森となり、そしてポルミス島を豊かな島へと成長させる。


ポルミス島は何十年かの周期で大陸へ着岸する。すると多くのポルミスはその身を岩へ変化させて大陸との同化を始めるのだ。


この現象こそが『交接』という。


交接中、ポルミスは大陸へ移動し、その体に蓄えた海の栄養を大陸へ分け与えるのだ。空になった体には、大地に蓄積されたバイタルエネルギーを蓄え再び島に戻って来る。


島に生きる全てのポルミスがそのエネルギー代謝を終えると、島は大陸から離脱し、再び大海を移動する島になるというのだ。


そして、遥か昔、まだ『3主の力』が存在しない時代、大陸とひと繋ぎとなった交接中に、ポルミス島に移り住んだ人間たちがいた。人間たちはこの島で暮らしていくうちに、ポルミスの蓄えたバイタルエネルギーをその身に宿し不思議な力を発現するようになった。


不滅の強靭な肉体で時を切り開く者、未来を見る力で運命を指し示す者、そして世界の暴走を制する力を瞳に宿す者が出現する。


その者たちは『星』の意思を受け、『島』を守る役割を与えられた。


その指令こそが「ナンパヒ・パカイ・ラヒ」という言葉なのだ。


やがて人間は、役割を与えられた者たちを『3主の加護者』と呼んだ。


3人からは『島』に関する記憶だけが消去され、ある記憶が上書きされる。


— 無責任な「神」が3人に『世界』を丸投げして去ってしまった —


「驚いた。僕は初めて知った」


「シエラ様、あなたの身体の核もポルミスの岩なのですよ」


「うえ~、ちょっと変な事言わないで」


「 ..ティラー村。もしかして『秩序の加護者』トバリの暮らしていたティラー村って」


「ええ、それもこの島の名前のひとつです」


「そうか。だからティラー村は伝説上の村になったのね」


セイレーンは頷いた。


「ねぇ、いったいこの『島』って何なの? 」


「その質問には、これから、クローズ様のいる場所でお話いたします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る