第3章 儚き命を憂う島
第35話 光る泉
私は「時の加護者」アカネ。
王都フェルナンの鍾麗衣塔の闘いを終え、私たちはソルケから「運命の加護者」シャーレが自ら亜空間に隠れたと教えてもらった。そして私たちはシャーレを見つけるために神出鬼没のポルミス島へ渡る旅をする。
—フェルナン国~ギプス国—
「ははは!! ひやーっ!! いいぞぉ! ライン!!」
ラインが意味もなく高くジャンプする! 2人ともまるで子供のようにはしゃぎまわっている。
「やっぱりライン! お前は最高だ!!」
久しぶりにラインの背中に乗るシエラは喜びを抑えることができない。
「シエラ様があんなに楽しそうな顔をするなんて! 私、初めて見ました」
ライラは無邪気なシエラに驚きを隠せないでいた。
「そっか。でもこれからはもっともっと弾けるようなシエラを見ることになると思うよ」
私自身も実はシエラとまた旅に出られることがうれしくて仕方がなかった。
私たちはギプス国にて、生き残ったカレン調査団員、もしくはラオス船長と親しい船乗りを探し出し、王国ポルミスへの船旅に協力してもらう計画をたてていた。
しかし、その前に私にはどうしても確認しておきたい事があったのだ。
それはドライアドの子供たちのことであった。
シエラが身を隠していた洞窟は光鳥クリルの住んでいた岩山だった。
そこは何千年もの前に先代のアカネとシエラが冷鳥フロアを討伐する際に身を寄せた洞窟だという。
討伐の際に流れ出た冷鳥フロアの血は、大地に吸われ、まるで血の呪いによってフェルナンを極寒の地となった。
その血の呪いを調和させるために光鳥クリルは、その岩山に降り立ったはずだったが…
シエラは光鳥クリルの姿を見ることはなかったという。
彼らは英知優れた生命体だ。
おそらく白亜に見つからないように身を隠しているのだろう。
「きゅ きゅ 」ソックスが鼻を鳴らした。
フェルナン、ギプス、カイト、ウエイトの国境が集まる地に着いたのだ。
眼前には、まるで目印のようにそびえる『シュの山』がある。
「ねぇ、シエラ、あそこに寄りたいんだけど.. ダメ? 」
「アカネ様、僕らは旅を急ぐ身ですよ」
「 ..ん ぅ.. 」
「はい、はい、わかりました。久しぶりにそんなショボン顔見せられたら断れなくなるじゃないですか」
「ほんと! よかった!! 」
「でも、どうするんですか? 『シュの山』は王国カイトの領土内ですよ。一歩でも境界線を踏み越えれば王族直属のラワン部隊に捕まってしまいます」
「そっと入れば大丈夫じゃない? 」
「もう忘れちゃったのかなぁ? あの部隊の機動力を! 一瞬で見つかりますって。だからといってラワン部隊に抵抗すれば、猜疑心の塊であるクリスティアナ王女の誤解を招いてしまいます」
結局、潜入する方法など思いつかないまま、王国カイトの境界線まで来てしまった。
「シエラ様、アカネ様、もう見つかってますよ」
ライラが言った。
オレブランの鋭い感覚が、ラワン部隊の警戒心を察知した。
シエラは私を見ると『ほらね』という表情をしてみせた。
「あっ.. 待ってください。彼ら、警戒を解きましたよ。こちらに対する威嚇的な感覚がありません。むしろ.. 」
その瞬間、目の前にラワン部隊の一人が現れた。
「なるほど、オレブランですね? 道理で訓練された私たちの気配を察知できるわけだ」
「あなたは? 」
「失礼いたしました。アカネ様、シエラ様。私はラワン部隊長サーシャと申します。実は、あなた方をお迎えに参りました」
「それってクリスティアナ様が呼んでいるってこと? 」
「いいえ、違います。まずは付いてきてください」
私たちは境界線をまたぐとサイフォージュの森の奥へ案内される。
深く、深く、さらに鬱蒼とした深い樹海の中へ..
ついには道というものが見当たらず、案内が居なくなれば二度と出ることができないような場所にまで連れてこられた。
「こんな奥まで、どういうつもり? 」
「最後に、ひとつだけ言わせていただきます。あなた達をここに連れてきたのはラワン部隊の独断です」
そう言うと部隊長サーシャは森の中に姿を消した。
「あっ、待って」
「アカネ様、これは罠ですかね? 」
ライラの耳がピクリと動いた。
「アカネ様、何か変だ! 」
シエラの気が尖る。
ライラも唸りをあげている。
目の前の森が蜃気楼のように歪み始める。
すると目の前に大きな泉が現れた。
鬱蒼とした森は消え、私たちは泉の畔にある花揺れる草原の上にいた。
「そんなに警戒をしないでください」
爽やかな風と共に、やわらかい女性の声がする。
すると、泉が一瞬、サファイアのような光を放った。
童話で見るような女神が、泉の中より静かに姿を現わした。
もらえるなら『金の斧』がいいな.. など思ってしまった。
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