第18話 目覚め
私は「時の加護者」アカネ。
私たちは、ミゼを捕らえることで彼に直接話をする機会を得た。 確かに頼みごとをする姿勢ではないし、ミゼが言うことも理解できる。 敵として出会った相手から、「懐中時計を貸してくださいなんて虫が良い話だ。 普通ならば奪うか奪われるかの話なのだろう。 しかし、ミゼの傷をツグミがいたわったことで、思いがけないことが起こった。
—レータ国 都市リップ—
ミゼは床板を剥いだ。そこには装飾が施された小箱が入っていた。ミゼにとってそれがいかに大切なものなのかが伺い知れた。
「いいか。こいつはな、お前に貸すんじゃねぇ。そっちのガキに貸すんだから。返しに来いよな」
「うん。わかったよ」
「じゃ、用が済んだのなら、この町から出ていけ。出ていくまでは手出しさせねぇからよ」
「ありがとう」
「じゃ、さっさと出ていけ。お前がそれを身に着けるところなんか見たくもねぇからな」
そう言うと、ミゼは小箱をツグミに渡した。 ツグミは再びミゼに抱き着いた。
その時、ふとミゼの顔が優しい顔に変わったような気がした。
町を出ると、ジェラがこんなことを言った。
「もしかしたら、ヨミの部下の中で、あいつが一番義理堅い奴だったのかもしれないな.. 」
「うん。でもあいつは散々悪い事をしたよ。 もし、この先、あいつがとんでもなく悪い事をしたら、私は見逃さないよ」
「しないよ。あのおじちゃん、もう悪い事しないよ」
ツグミはそう言った。
しかし、ミゼは本当に悪事を働かずに生きていける方法を知っているのだろうか。
「ジェラ、ありがとう。 あなたのおかげで懐中時計を手に入れることができた」
「いや、俺はここから旅立つ銀髪の女に頼まれただけだからな」
「銀髪? 名前はクローズと言わなかった? それとオレブランを連れていなかった? 」
「いや、名前は聞かなかったが.. かなりいい女だったなぁ.. へへ」
「こら、真面目に答えろ! 」
「あ、ああ、すまん。オレブランは連れていなかったぞ。ただ両腕にでっかいリングの装飾をつけていたけどな」
間違いない。
クローズだ。
彼女も力が弱まり、身を隠しているのだろう。
「ああ、ただな、その女の乗って行った船だけどな、あれはおそらく王国ポルミスの船だと思う」
「王国ポルミス? 」
「ああ、王国ポルミス。 大洋に浮かぶ国。 この国は10年ごとに場所が変わる国だ。 以前はギプス国やこの港からも見える場所にあったという話も聞く。 他国とはあまり交流がない国だ」
なるほど.. 場所がわからない国に隠れたのね。 さすが、クローズだ.. しかし、運命のシャーレを守護するクローズが単独で動くなんて、やはりミゼの話は本当なのかもしれない。
—数刻前 都市リップ—
「俺は今更、誰が何しようとも興味はねぇ。 白亜の目的が何だろうとな。 ただ、噂だと運命のシャーレはハクアのつくった亜空間に閉じ込められたという話だ。 そしてハクアというのは『真の秩序の加護者』だという話だ」
「真の秩序の加護者? 」
「そうだ。 お前は『審判の瞳』を使えなったんだろ? その理由は、加護者はその時代に2人は存在しないからだ」
そうか。 だから私の力は急に使えなくなったんだ。
「各国に白亜部隊を配置。 世界を混乱させる。 「運命の加護者」を亜空間に閉じ込める。 光鳥さえも消し去ったという噂。 多くの奴らはこの表面だけをなぞってみている。 だがな、俺は違う。 俺は策略こそ力だと思っているからな。 これらはな、ある人物をおびき寄せるエサだ。 せいぜい背中に気を付けることだな。 ククク」
—ミゼの言う通りならば、私はまんまと世界が砂になるという幻覚に釣られてこの世界に来てしまったということになる。
つまり、私がこの懐中時計で力を解放したならば、ハクアの思惑通りに私がやってきたことが簡単にバレてしまう。
それはまさに奴らの思うつぼではないか。
都市リップからかなり離れた小高い丘。 ここからフェルナン国との境界をつくる岩山がよく見える。
私は未だに力を解放すべきか迷っていた。
「なぁ、アカネ様、俺は思うんだけどさ。 『加護者の力』は本来『そういう時』の為の力だと俺は思っている」
「そういう時? 」
「ああ、考えても、考えてもどうしようもないくらいに理不忍で絶望的な状況さ。 そしてそれを切り開いてくれる力こそが『時の加護者』の力なんじゃないのかな。 あんたは前の闘いでそう信じたんだろ? 自分の力をさ」
ジェラがそう言うと、ツグミが小箱を差し出した。
「 ..ありがとう、ジェラ。 勇気がわいた」
そうだ。 考えるのは力を取り戻してからだ。
私はブロンズの懐中時計を手に取った。 時計は激しく回り始めた。
天は一瞬強い光に包まれ、懐中時計をとった手がエメラルドにはじけ輝く。
「ぐぁあああああああ」
自分の内に秘めたとてつもない力が懐中時計を通して解放されていく。
ビキビキと両脚に力がみなぎると、地面は私の脚から伝わる力に揺れ動いた。
「す、すげぇ.. これが加護者の力か.. 」
脚に力が頂点に達したとき、脚を天に向かって蹴り上げた。
バガンという衝撃波が発生し、空の雲が消え去った。
その衝撃は近くの町へも伝わり、大きな建物を激しく揺さぶった。
「やりやがったな、時の加護者」
無法者の都市リップ(R.I.P)にはミゼの高らかな笑い声が響いた。
***
—ここはフェルナン国、北の山脈にある洞窟の中。
埃を揺らすほどの風は僅かにぶつかり合い、次第に強くなっていく。
やがて、その流れは激流となり岩を砕く嵐となった。
やがてその凄まじい嵐の中で舞う闘神の影が見え始める。
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