私の還暦過去帳(平栗版)V.1.2

@MasatoHiraguri

第1話 昭和55年(1980年)3月卒業式

  日本武道館で卒業式を終えた私は、日本拳法部の部室ではなく、4年間アルバイトをさせて戴いた入試課へ行き、職員の方々に挨拶をし、そのあとはアルバイト仲間(一般学生)に囲まれて話をしていました。


  しばらくすると、日本拳法部の同期である小松と安本が来て、部室でみんなが待っているので来て欲しいと言われました。

  私は、そんなことを予期も期待もしていませんでしたが、即座に「オレはいいよ(行かない)」と言って断りました。数分間、彼らは私に来てくれるよう懇願していましたが、結局、私はそこから動きませんでした。

  彼らが残念そうな顔をして去るのを見て、私はこう思いました。

「彼らは、心の中で、平栗という男は、なんて薄情な人間なんだ。と怒っているに違いない。」と。折角、1年生から4年生までが一同に集まり、卒業生を送る会を開いてくれているというのに、主役の一人である私は、その好意を無視したのですから。


それから30分ほどして、私は入試課を後にしました。

「立派な社会人になれよ」なんて、職員たちに激励されながら。


  今でもはっきり覚えていますが、水道橋から総武線で(乗換駅の)四谷へ向かう時に眺めた、川の土手に咲き始めた桜並木。その春爛漫の麗(うら)らかな景色を目にしながら、私の心の中は、逆に嫌ーな気持ちで一杯でした。

  「今頃部室では、平栗の野郎、入試課の女の子たちに囲まれて今晩はどこかへ飲みに行くのだろう、なんて怒りまくっているだろう。」「オレはなんてひどい奴なんだ。恨まれて、嫌われるのは当然だ。」と。

  この気持ちは、家に着くまでの約1時間、ずっと私の心に燻り続けました。


  しかし、40年後のいま初めて明かすのですが、この2点は明言できます。

① 入試課のカワイコちゃんたちの連絡先など、とっくの昔に聞き出し、デートの約束まで取っていた私にとって、卒業式の日など大した意味はなかった。(実際には、入社して研修が終わった7月に1回お茶を飲み、それきりでした。)


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