第二十一話 学園祭の準備をする件
「くじ引きの結果、文化祭実行委員は藤堂充くんと天堂司くんに決定しました」
教室で鳴り響く拍手にまじって、大勢の嫌悪感丸出しの目が俺に注がれている。
最高と最悪がペアになるんだから、そりゃこうなるだろう。
しかしこれは原作通りで、俺の最大のチャンスでもあった。
担任のなんちゃら凛先生がまとめて、俺と天堂くんは放課後に集まることになった。
文化祭は来月で、まずはクラスメイトが提案したやりたいことリストからいくつかリストアップする。
それから後日投票をして結果発表。
そのほかにもやることはあるのだが、原作で藤堂は参加しない。
スパスパして裏庭で遊んだり、悪童くんと弱いものいじめしたりカツアゲしたりとやりたい放題。
文化祭の邪魔もしまくるし、最低最悪なのだ。
だが違う。今回は違う。
俺は文化祭に意欲的だし、天堂くんとも仲良くなりたいと思ってる。
つまり今回を乗り越えれば、もはや俺の破滅は回避したのと同じ。
俺の未来は明るい。輝いて見える。
ああ、天堂くんもいつもよりカッコよく見える。
「ねえ、藤堂の奴、天堂くん睨んでない?」
「まさか選ばれるとは思ってなかっただろうし、逆恨みじゃない?」
「こわ……ほんと最低なヤツ」
ふふふ、さああて! 未来は明るいぞお!
◇
「え!? 天堂くんが帰った!?」
放課後、実行委員の為に用意された空き教室で、俺はひよのさんから報告を受けた。
「はい。帰ってしまったそうです。――充さん、その大量のマジックペンと画用紙はご自分でご用意されたんですか?」
「え、ええ……はい……」
この日の為に、油性水性、そしてありとあらゆる画用紙を購入していた。
もちろん学校からもらう事は出来るが、気合を十分にいれていたのだ。
なのに、帰っただなんて……。
そんな俺が項垂れるのを見て、ひよのさんが笑い出す。
「ふふふ、面白いですね」
「……なんで笑うんだ……」
「充さんは、いつも一生懸命だなと思いまして」
「文化祭は全校生徒の夢じゃないのか」
「どうでしょう。まあ、そうかもしれませんね」
髪をかき上げながら、横の席に座る。
ふわりとフローラルな匂いが香る。そしていつもは見えない首筋がチラリと見える。
心拍数が、いつもより早く動いている。
「ど、どうした?」
「一人だと大変でしょう。竹林凛先生から許可は取っているので」
なんちゃら凛先生って、そういう名前だったんだ。いや、それはどうでもいいか。
「ひよのさんはなんでもお見通しだね」
「知っていることだけしか、知らないですよ」
二面性、いや、四面性くらいは兼ね備えているひよのさんだが、こういう時は頼りになる。
真面目で、決して何事にも手を抜かない。
天堂くんが用事か何かで帰ってしまったのは残念だが、とにかく進めていこう。
「ありがとう、じゃあ手伝ってもらっていいか?」
「ええ、初めからそのつもりなので。じゃあ、開封していきましょうか」
「おう!」
いつもより元気よく答え、文化祭候補の紙を開いていく。
射的、輪投げ、わたあめ、なんお祭りみたいなのが多いな……。
焼き鳥屋、唐揚げ、ソースせんべい、あずき、きゅうりの一本づけ屋さん。
なんか薄利多売な商売が多いな。
「なんかうちのクラス、真剣にお金稼ごうとしてないか?」
「堅実な人が多いかもしれないですね。あら、これなんてどうですか?」
『全裸メイド喫茶、はだか♡ はだか♡』と書かれた紙を手渡してくるひよのさん。
いや、全裸なのかメイドなのかどっちだよ。てか、これ絶対知宇が書いただろ。
「却下だな」
「そうですか……良いと思ったんですけどね」
ひよのさんのお手伝い大丈夫かな?
他にも、スパスパ選手権、異世界転生したらコロッケ屋さん、男同士の悪童祭りと書かれた紙を見つけた。
うん、絶対あいつらだな。却下却下。
気づけば残り少なくなっていた。
おい、もしかしてうちのクラスまともなのない!? と思っていたら、最後の一枚で、手が止まる。
「これどう? ひよのさん」
「あら、素敵ですわ」
なし崩し的に三つは選ばないといけないが、俺の中で、いや、消去法とも言えるが、文化祭はほぼ決まったようなものになった。
そこには全裸じゃない『メイド喫茶』がシンプルに書かれていた。
◇
後日、正式な投票が行われた。
「あぶねえな……」
当選:メイド喫茶、十七票。
全裸メイド喫茶 十五票。
きゅうりの一本漬け 六票。
天国と地獄のパフパフ 四票。
思わず呟いてしまった通り、意外にも僅差だった。
全裸メイド喫茶はわかるが、天国と地獄のパフパフってなんだよ。
熱烈な支持者が結構いたらしい。裏で誰かが票を集めていた可能性すら浮上した。
まあとりあえずホッとしている。
天堂くんは後日、「ごめーん、この前用事があって」と本当に軽い謝罪だけしてくれた。
本当に軽かったけど、まあ仕方ない。
女性はメイド服、男性は執事服、という流れだと思いきや、メイド喫茶なんだから全員がメイド服でしょうという誰かの主張が通った。
なんでだよと思ったが、ということは知宇のメイド服が見れるのかと少し思ってしまった。
ただ新たな問題が浮上した。
文化祭の予算は限られていて、この場合メイド服を大量に集めないといけないのだ。
ひよのさんは私が出しますよと言ってくれたが、流石に個人に任せるのは学校側としても良くないし、俺も申し訳ない。
そのため、俺と天堂くんの二人きりで、安いコスプレ屋さんでメイド服を集めることになったのだった。
いよいよ元主人公と……つづく。
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