第十七話 凸凹コンビが仲良しな件
無事にテストを終えて、答案が返って来た。
猛勉強のおかげ、といってもほとんどはひよのさんのおかげだが、点数はなんとか及第点といったところか。
留年なんかしたらそれこそ破滅。
せっかく築き上げた友人たちと離れ離れになるのもつらい。
ひよのさんは涼しい顔をしていた。問題ないのだろう。
そして俺はおそるおそる、二つ席が離れた燐火に視線を向けた。
勉強会でとんでもない事を言い放っていたのだ。
そもそも点数を取れているのか……?
「未海っちー! みてみて数学!」
「え……燐火さん……」
テストの答案を見せつけている。
未海の表情はこわばっているので、話を聞くのが怖い。
まさか留年確定レベル? 流石にそれはやめてほしい。
「ひゃ、百点ですか!?」
「凄いやろー! うち要領だけはええねんなあ!」
「――なんでやねん!」
教室で、思わず叫びながら立ち上がってしまう。
「「え、藤堂どうしたの?」」
「わかんない……こえー」
シーンとする教室。
突然訳の分からない事とを叫び出した男になっている。
いや、事実そうか。
「藤堂君、訳の分からないこと言わないで、座ってねー」
なんちゃら凛先生の軽いアシストで事なきを得る。
百点って何? 三×四は=十二―! とか聞いてたやつが取れる点数じゃなくない?
要領の問題なの?
いや、今思えば原作でも燐火は確かに頭が良かったはず。
そもそもこの学園に彼女のような風貌の子がいることで気付かないといけない。
恋愛ゲーム、アニメあるあるだが、明らかにお前偏差値に見合ってないじゃん外見問題。
「全部未海のおかげやわ、ありがとうな、むぎゅー!」
「り、燐火さん、力が強いです……」
嬉しそうに頬ずりしながら、燐火は未海を抱きしめる。
豊満な胸が、未海のほっぺにむにむに。幸福感が見て取れるのは、百合百合物語が好きだからだろう。
しかし人ってのは意外なもので、タイプが違う人間同士のほうが合ったりする。
今目の前にいる燐火と未海のように、凸凹のほうが実際相性が良い。
人はジグソーパズルのようだとたとえられることがある。
二人はカチッとはまったんだろう。
だが、実際のジグソーパズルと違って、人間の凹凸は変化していく。
仕事、人間関係、場所、運命。
そうして人は離れたりくっついたりを繰り返し、友達や恋人も関係性が変わっていくのだ。
それが良さであり、難しさでもあるが。
こんな小難しい事は置いといて、二人はとにかく仲良しだ。
見ていてほっこりするし、実際に周囲も微笑ましく見ている人が多い。
俺がきっかけととなり交流が深まったので、何とも嬉しい気持ちになっていた。
原作では、未海は俺が虐めて不登校となり、燐火は一匹オオカミで誰とも絡まないのだ。こうしてみると、そんなことはありえないのだが。
「充っちー! 帰ろやー!」
「えへ……一緒に……」
放課後、めずらしく三人だけになった。
ひよのさんは生徒会なので忙しく、知宇は家の用事。
悪童くんはBLくんとパンケーキを食べに行くらしい。
ちょっと……羨ましいな。
「なー! このまま帰っても暇やし、三人で遊びに行かへんー?」
「わ、私は……行けますけど……」
頭の後ろに腕を組みながら、燐火が唐突に言う。
未海は、チラリと俺の顔を覗き込むように答えた。
その目には、行きたい、遊びたいです、と書かれている気がした。
「確かに。俺もちょうど出かけたいなと思ってたんだ」
その返しに、二人は満面の笑みを浮かべた。
◇
「この苺ジュースめっちゃ美味しいやん! やばっ!」
「えへ……美味しい。美味しい……」
「燐火の言う通り、これは当たりだな……」
近場の大型ショッピングモールのフードコート。
夕方手前なので人はそこそこ。
藤堂充の記憶では、もうここへ来たのは随分と昔の話だ。
最近は前世の記憶と混在しているので、どうもわからなくなることも多い。
一体自分が誰なのか、怖くなる時もある。
そんな時は、燐火や未海や友達を見ているとホッとする。
俺は――ここにいていいんだと。
「なんや充っち、難しい顔して。なんかあったんか?」
「そうですね……。わ、私で良ければ相談に乗りますよ」
「……ありがとな。――しかし、二人は仲良いな。たまに遊んだりしてるのか?」
思わず頬が緩む。俺の問いかけに、二人は顔を見合わせて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
それも、同時に。
「へっへー! 実は「異世界転生したらカラビナ」でしたを未海の家で見させてもらってるねん! ほかにも漫画やら色々借りててなー! 小説ってのはまだうちには早いけど、アニメは最高や!」
「へえ、意外だな。確かにあれは面白いよな」
なるほど、そういうことだったのか。
燐火は何に対しても偏見がない。明るくて、人当たりもいい。
だが初めて会った時の彼女は違うかった。
スパスパしながら、自分の人生を恨んでいた。
その理由は――俺だけが知っている。
「あ、ここにもアルメイトあるらしいやん! いこやー!」
「え!? い、行きたいです! 行きましょう!」
マップを見ていた燐火が叫ぶと、未海が負けじと立ち上がった。
俺の服の袖を引っ張ると、小さな女の子のようにグイグイと。
だが俺も――興奮していた。
「それは見過ごすわけにはいかねえな」
アルメイトで買い物を終え、両手いっぱいにグッズを買い込んで店を出た。
お小遣いが無くなりそうだ。
藤堂充め、もっと貯金を貯めて置いてくれれば……。
「確かったなあ! あ、ちょっとここも見ていい?」
「あ、はい……って、ふえええ!?」
燐火が、煌びやかな色で施されているお店に入っていく。
俺もぼーっと入っていったが、そこはまさかの下着屋さんだった。
未海も俯いて恥ずかしそうにしている。
そりゃそうだ。俺がいたら落ち着かないよな。
「すまん。テンカラのこと考えてたら無意識で着いて来てたわ。外で待っとくな」
と、去ろうとしたが、未海がぐいっと服の袖を掴む。
「は、恥ずかしいので……居てください」
「なあなあ、これどう!? 未海ッちに似合うと思うねんけどなあ!」
「え、あ、ああ。確かに」
耳まで真っ赤にしながらなぜか俺を引き留める。
燐火は気づてないらしく、そもそも水色の可愛いリボンの下着をどうかなと見せてくるあたりは、やはり天然な気がする。
それに対して肯定した俺も変態かもしれないが……。
「じゃあ試着しよや!」
「はい……え!?」
「うちはこれや、ほらほら、未海っち一緒に入ろ!」
あれよあれよと連れて行かれる未海。
流石にまずいと外に出ようとしたら、「……行かないでくださいね」と制止された。
ど、どないすりゃええねん!?
「……店長、あの人、大丈夫なんですか? 女の子たち、脅されたりしてませんよね?」
「仲良く話してると思うけど……夜の街に売られ……いや、そんなことは流石にないわよね。高校生みたいだし」
とんでもないことを言われている気がするが、ここは無視だ。
高校生だぞ、一応っ!
待っていると、試着室のカーテンが開く。
え? 嘘? と思っていたら、現れたのは、赤い下着を身に着けた燐火と、パステルカラーの薄い水色の下着を身に着けた未海だった。
豊満な胸と控えめな胸がコンビになっていて、ほどよいアクセントを感じられる。
太ももはほどよく柔らかそうで、未海の肌は間違いなくスベスベだ。
紫外線を浴びることが少ないからだろうか。これ、有料じゃなくて大丈夫ですか?
てか、間接キスの時は恥ずかしがっていたのに、どういう基準があるんだ?
「どうや!? 似合ってる?」
「あ、ああ……綺麗だと思う」
「へっへー! 未海っちはー?」
「ああ、似合ってる……」
流石に恥ずかしくなってくる。どうして下着ってのは、水着と面積が変わらないはずなのに興奮してしまうんだろう。
不思議だ。
「お買い上げありがとうございましたー!」
結局、俺は燐火に下着を二着買わされてしまった。
とはいえ、下着を買えば見れると思えば……安い?
「ありがとうなー! お気に入りができたわー!」
「あ、ああ。てか、反応に困るだろ……」
嬉しそうな燐火と対照的に、未海は大人しかった。
もしかして、流されただけで何もかも嫌だったのか? となると、全てが申し訳なくなる。
「未海、すまな――」
「えへ……えへ……かわいい……嬉しい」
いや、そうじゃなかった。嬉しそうだった。
なんだかんだで、やはり燐火とは合うのかもしれないな。
不器用で引っ込み思案な所はあるが、そこを燐火がリードしてくれる。
そして繊細な部分を未海がカバー。
なるほど、良い凸凹コンビだ。
「ほな帰ろかー! あ、未海っち、ちゃんと渡しときやー!」
すると、燐火と笑みは不敵な笑みを浮かべた。
いつもより少し不気味だ。どうした、一体どうしたんだ。
「ど、どうぞ……」
それは、さっきのお店の袋だった。
何か買ったのか?
「帰ってから開けやー! ばいっちー!」
「み、充さん……また明日」
「あ、ああ。またな」
自宅に戻って食事を済ませ、お風呂に入ってふうと一息をついた。
そういえば何をもらったんだろうと思って袋を開けてみると、男性物の下着が入っていた。
それも、異世界転生したらカラビナでしたのアニメが書かれている。
「ふ、いい奴らだな」
少し子供っぽいが、ありがたいと笑みを零す。
このキャラクター可愛いんだよなあと思っていたら、他にも入っていた。
「もう一枚? いや、二枚? ――えええええええええええ!?」
それは、燐火と知宇が履いていたであろう下着だった。
直筆の手紙が添えられている。
燐火と、未海の文字だ。
「どうせ捨てる予定やったから、夜のお愉しみに使ってなーー!」
「よ、良かったらどうぞ……」
ほのかに良い匂いがする。
……ごくり。
なんてな、流石にそんな変態なことはしない。
まったく、俺を誰だと思ってる――
その瞬間、扉が開いた。
「みつにぃー! って……なにそれ……下着!?」
「え、い、いやこれは!?」
「お母さん、みつにぃがーーー!」
「ま、まて夜宵!」
一か月間、俺は夜宵から変態下着にーやんと呼ばれた。
ちなみに二人の下着は、翌日ちゃんと返したが、その場面をひよのさんに見られてしまい、大変なことになったのはまた別のお話。
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【 作者からのめっちゃ×2お願い 】
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