第25話 終結
「ぐ……小癪な神霊と人間共めが……」
ヴォイドロードが邪神を片っ端から駆逐していく俺達に苛立ちを隠せない様子。
その証拠に顔だけでなく、身体から魔力が漏れていた。
「シン君!」
「了解」
ヘラの声と共に、俺は全身から雷を立ち昇らせ、一気に解放する。
瞬間———空間を揺るがす程の雷鳴を轟かせて辺りの邪神達を焼き払う。
「はぁああああ———《
更に俺の雷で怯んだ所に、ヘラの両刀から黒白の八つの竜の頭が現れ、邪神達を跡形もなく噛み砕く。
「「「「「「「「ギャァアアアアアア———ッ!!?!」」」」」」
邪神達は召喚されているからか、知性はなく、ただただ叫び声を上げるのみで、俺の雷と竜の頭になす術なく駆逐されていく。
「……もうやめだ」
これ以上邪神を召喚しても俺達は倒せないと判断したのか、邪神達がドロっとした魔力に変わり、全てがヴォイドロードに吸収されていく。
そして———次の瞬間にはヴォイドロードの姿が掻き消え、いつの間にか俺達の後ろに移動していた。
『———後ろじゃ!』
俺の中に居る爺さんが、初めて声を上げると同時に俺は反射的にヘラを抱き寄せながら後ろに全力の《神雷》を放つ。
「ぐぉおおおお……」
どうやらヒットしたらしく、後ろでたららを踏んでいた。
俺はすかさず手から《神雷撃》を放つ。
神の怒りの雷撃が一条の雷光となり、ヴォイドロードを吹き飛ばす。
危なかった……と内心冷や汗をかいていると、腕の中に居るヘラが小声で顔を真っ赤に染めながら言った。
「し、シン君……」
「ご、ごめん……ヘラが危なかったから……」
今更ながらに自分がヘラにした事を理解して、顔に熱が集まるのを感じながらヘラを離し、羞恥を紛らわせる様にヴォイドロードに視線を向ける。
「へ、ヘラの制限時間はあとどれくらい?」
「あ、後2分よ。そろそろ限界に近いわね……シン君は?」
「俺は後……2分だな」
嘘だ。
ヘラよりも圧倒的に先に《精霊同化》を発動させていた俺に、後2分も制限時間があるはずもない。
先程爺さんの声が聞こえたが……アレは精霊同化が解ける兆候だ。
精霊同化は精神に至るまで同化しているので、爺さんの声が聞こえるはずがない。
しかしこうして聞こえたと言う事は……既に俺の身体が限界だということだ。
正直に言えば……後十数秒が限界だろう。
しかし———ヘラ1人に戦わせる訳には絶対にいかないし、そうはさせない。
「推しのためだ……限界なんて超えてやるッ!!」
俺は覚悟を決めて、全身を駆け巡る激痛に耐えながら全身から魔力を搾り出す。
魔力体なので、無理に魔力を使えば身体を維持するのが難しくなるが……此処は気合いで形を保つ。
ヘラに心配は掛けたくないからな。
俺達は同時に宙を蹴って弾丸の如くヴォイドロードに接近する。
既に奴にも限界が訪れているらしく、所々身体の形を保てていない。
「ヘラ、奴の崩れ掛けた部分を狙うんだ。そこが奴の弱点だ」
「———分かったわ!」
ヘラは俺の言葉に即座に反応すると、縦横無尽に宙を駆けて的確にヴォイドロードの身体の形を保てていない所に斬撃を与える。
更にヘラの黒刀には《破壊》、白刀には《消滅》の力が宿っているため、《侵食》と拮抗して俺の攻撃より奴はダメージを受けていた。
「ぐ……《侵食波》ッッ!!」
「……っ、ヘラ! それに触れちゃダメだ!」
「———っ!? な、何よコレ……!?」
ヴォイドロードの身体からドス黒い魔力が噴き出し、四方八方にまるで獲物を捉える網の様に飛び出す。
そんな魔力を振り払おうとヘラの刀が魔力に触れた瞬間———完全に制御していたはずの魔力で出来た白刀と黒刀の刃がボロボロと崩れていく。
俺はヘラを飲み込まんとする魔力波からヘラを守る為に脚に力を入れると、脚の急激に不安定になって魔力がブレる。
「くそッ……今は俺の身体を気にしている暇はないんだよ……!!」
俺は脚にのみ意識を集中させて形を止めると、再び全力で宙を蹴る。
今度は脚から意識を切り替えて両腕にのみ意識を集中させると、槍型に変形させた
「———《神雷槍撃波》ッッ!!」
我ながら少し恥ずかしい名前かと思うが、この世界ではこれくらい普通なのだそうだ。
俺は
「はぁあああああああ———ッ!!」
槍を振り回すたびに身体がブレるが、それでもヘラに触れさせない様に唯只管に、いつしか身体のことも忘れて
ヘラは俺の陰に隠れる様に体を小さくしてヴォイドロードの死角から魔力で全身を包みながら魔力波の中に飛び込んだ。
「ヘラ!?」
「はっ! 俺のテリトリーにわざわざ侵入してくるとは! 自ら死にに来ている様なものだぞ!」
ヴォイドロードは鼻で笑うと、更に魔力を放出してヘラを殺そうと集中的に襲い掛かる。
俺は咄嗟に前に進もうとするが———
「シン君、私を信じて!」
———ヘラは真っ直ぐで、信頼がありありと浮かんだ瞳で俺を見ると、そのまま突き進んだ。
ははっ……そう言うと信じるしかないじゃないか。
ならば———俺はヘラが求める行動をするだけだ。
しかし———そんな俺の覚悟とは異なり、身体はもはや先程のヴォイドロードの様に所々が霞んでしまっていた。
更に頭の中に爺さんの言葉が聞こえ出した。
『シンよ! もうお主の身体は限界じゃ! もう解除するのじゃ!』
「爺さん……俺の身体の魔力制御を任せてもいいか……?」
『……シンよ……本気か……?』
顔を見ていなくとも、爺さんが驚きで目を見開いているのが分かる。
そんな爺さんの言葉に俺は頷いて肯定の意を示す。
「当たり前だ……! 俺の目的を忘れたのか? ヘラを護るのが俺の使命だ。ヘラより先にくたばることは絶対にない」
『……分かった。そこまで言うなら儂も全力を尽くそう』
その瞬間、身体を形成している魔力の制御権が俺から爺さんに移り、さながら操り人形の様な違和感を覚えるも、気にせず周りの魔力もかき集めて
ヘラ検定1級の俺には、ヘラがして欲しいことなどお見通しだ。
俺にして欲しかったことは唯一つ。
「———我が名は
俺の身体から蒼白、紫、赤などの様々な色の雷が溢れ出す。
それに感化されたかの様に空に雷雲が発生し、天気が荒れる。
「———自然の猛威を司る神の1柱———」
雷雲から降り注ぐ雷と俺の身体から発せられる雷が結合して更に強力に、巨大になっていく。
そしてその全ての雷は
「———司るは天候。世界の怒り———」
俺は必死に刀を振り回してヴォイドロードに肉薄するヘラの姿を視界に捉える。
白銀と漆黒の刀を手に持ち、まるで舞の様に華麗に動くヘラの姿は、正しく俺が恋焦がれ、憧れ想像していたままの光景だった。
無意識の内に俺の口角が上がっていることに気付いた。
ああ……こんな時だと言うのに俺はヘラの姿に感動しているのか。
本当に……俺は何処までもオタクらしい。
俺がそう思っている時———ヘラの声が聞こえた。
「———《黒白一閃》ッッ!!」
特に大きな声でもなかったはずなのに、その声はとても鮮明に聞こえた。
その声が聞こえたと同時に、黒と白の斬撃がヴォイドロードを真っ二つにするだけでなく、雷雲に覆われた天をも切り裂く。
「———今よシン君!!」
ヘラが遂に全ての魔力波を消し飛ばしてヴォイドロードに一撃を与えた時、『後は任せたと言わんばかりに笑みを浮かべで親指を立てる。
そして白銀のドレスをハラハラと散らしながらゆっくりと落ちて行く。
俺はヘラに親指を立て、口角を上げたまま言葉を紡ぐ。
雷神の武器の真の名を。
「貫け———《
瞬間———俺は気付けばヴォイドロードを遥か後方に置き去って居た。
振り返れば、まだヘラは落ちているのに殆ど位置が変わっていない。
ヴォイドロードを様々な色の雷が包み込んでいること以外は。
ヴォイドロードは憎らしげに顔を歪めて呟くが———
「あ、あ”あ”……い、忌々しい……に、人間ど———」
———言い終わる前に雷が刹那の間に収縮し、次の瞬間には大爆発を引き起こした。
それは空に広がり、ヘラですら消し飛ばせなかった雷雲をも全て吹き飛ばす。
「へ、ヘラ———」
俺はヘラの下に最後の力を振り絞って駆け付けると、気絶したヘラを爆破から守る様に抱き締めて一緒に落ちた。
———空には今までにない程綺麗な青空と虹が広がっていた。
————————————————————————
次回本編最終回。
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