第21話 神と神

 禁忌目録アカシックレコードはドス黒い魔力に包まれると共に、殆どの身体を無くしたはずのヴォイドロードの身体が一瞬にして再生する。

 それも先程よりも2回り程巨大な姿で。


「……っ、マジで取り込みやがった……」

「あぁ……遂にこの世界の理から解放された……なんて素晴らしい……」


 ヴォイドロードは、晴れやかな笑みを浮かべて天を仰ぐ。

 そんな無防備な状態であるにも関わらず、俺はその姿を眺めながら動けないでいた。


「……チッ……明らかに格が上がったな」


 ヴォイドロードから発せられる圧は、今の全力の俺と比肩する程だった。

 更にアイツの属性は全属性の中でも異質で面倒な『侵食』。


 これは……限界越えなきゃ死ぬ。


「《神雷撃》《雷神の雷鎚トールハンマー》」


 俺は即座に神雷よりも強力な雷を浴びせ、その隙に巨大な雷鎚を生み出して振り下ろす。

 しかし———


「くくくっ……この程度か———《消滅》」


 奴の手からドス黒い魔力が溢れ出し———俺の魔法だけでなく、周りを囲っていた積乱雲も、雷雲さえも消し飛ばした。

 俺は奴の魔法に当たらない様に全身を雷に変換してその場を離れる。


 その瞬間———


「———なっ!? これは……」

 

 固有精霊界から出たのが、何という不幸か、悪魔学園の近くであることに気付いた。

 更に最悪なことに、全ての生徒は学園に戻っているので、勿論ヘラも学園にいるというわけだ。

 そして俺が派手に積乱雲を発生させたせいで人が集まり、俺とヴォイドロードに注目が集まっている。


「な、何だアレ……? 人と何かが戦っている……?」

「何かあの人見覚えないか?」

「アレだよアレ! 首席に挑んだ勇気ある奴!」

「確か名前はシンだったかな?」

 

 …………この際もう正体がバレるのはいい。

 ただ———全員を奴の脅威から護らなければならないと言うのが辛い。


「くそッ……これはまずいぞ……」

「クククッ……これは良い餌がいるじゃないか」

「ま、待てッ!!」


 ヴォイドロードが生徒や教師に向けて魔法を撃とうとする刹那の間に奴の懐に入ると、全力で拳を振り抜く。

 その威力は巨大な山など一瞬で消し飛ばしてしまうほどで、ヴォイドロードは弾かれる様に吹き飛ばされた。


 しかし———一切攻撃の手を緩めない。


「はぁぁあああああ!!」

「ぐっ……」


 俺は雷霆ケラウノスを槍型にして全力投擲。

 雷速をも超える世界最強の一撃がヴォイドロードの身体を貫く———が、身体に30センチ程の風穴を開ける程度に留まった。

 

「クククッ……痛い……だが、この程度で俺は倒せないぞ」

「黙れ———《無秩序たる雷神の怒り》」


 俺は学園全体を積乱雲で包み込み、奴が手出しできない様に更に何重もの魔力障壁で積乱雲を補強すると、緻密に天空を操作してヴォイドロード目掛けて幾万もの雷や氷の雨、レベル150のモンスターをも容易く切り裂く程の暴風をぶつけた。


 どれも俺の魔力によって強化されており、一撃一撃がほぼ即死級の威力を誇る。

 それが全て寸分違わずヴォイドロードに直撃。


 だが———それでも奴の顔は笑みを浮かべたまま。

 

「クククッ……恐ろしい……俺の属性でなければ死んでいるだろう」

「ムカつく程面倒な奴め……」


 しかし奴を倒せないのもまた事実。

 正直言って手詰まりだ。

 

 当初の予定では、雷霆ケラウノスの一撃で消滅させるはずだった……のだが、あの屑野郎が禁忌目録アカシックレコードを持ち出していたせいで奴がゲーム以上にパワーアップしてしまった。

 正直精霊同化と同レベルまで強くなるのは完全に予想外。


「……ちょっと不味いな」


 俺は新たな魔法を発動させながら、今までの知識を総動員して打開策を必死に組み立て始めた。

 


 

 

 


 


 シンが苦戦している一方で———学園内は混乱を極めていた。

 

「な、何だよコレ!?」

「で、出れないぞ!!」

「魔法で攻撃しても、雲の中に吸収されるだけで効かない!!」

「どうなってんだよ!? もしかして閉じ込められたのか!?」

 

 生徒達は、何をしても出られず、誰が発動させた魔法か、いつ自分達に牙を向くか分からない目の前の雲に恐怖を抱いていた。

 更に怯えた生徒達を落ち着かせようと教師達が奔放する。


 そんな光景を見ていたアーサーは、ヘラが眠る休養室で、苦虫を噛み潰したかの様な表情で積乱雲を見ていた。


「……アウラ、コレって間違いなく……」

『はい。コレらはゼウスとその契約者の魔法です。それもどうやら2人は精霊同化している様ですね』

「精霊同化……?」


 アーサーは聞き慣れない単語に首を傾げる。

 残念ながら、アーサーの知識には『精霊同化』というものは存在していなかった。


『精霊と契約者が完全に1つの生命体となることです。人格はどちらか好きな方で、それによって構成される身体も決まります。身体は完全に魔力体に変化し、一時的に神霊の最大能力を発揮できる様になります』

「つまり……シンは今全力で戦っているってこと?」

『そう言うことです。しかし、あのゼウスが全力を出して尚苦戦する相手……只者ではないでしょう。しかし私が知らない邪神の分際でどうやってあれ程の力を……』


(……あのシンが全力を出して尚苦戦……考えられないな……既に僕の記憶の主人公より強いのに……それに———)


 アーサーは、一瞬見えたシンと相対していた相手に心当たりがあった。


「———邪神ヴォイドロード」

『何者なのですか? その邪神は? 明らかに邪神の範疇を超えています』

「それは僕には分からないけど……本来なら彼女と契約するはずだった邪神だよ。奴は精霊と悪魔の負の感情と他の邪神を吸収して生まれた最強の邪神だよ」


 全てシンから聞いたことだが、流石に強すぎる。

 ゲームの時の10倍以上は強い。

 

 アーサーはゆっくり休養室の窓を開けると、そこに足を掛ける。


『な、何をしようとしているのですか!?』


 アウラの驚く声を聞きながら、アーサーは決意を瞳に宿して言った。



「何って———友達を助けに行くんだよ」



 アーサーはそのまま窓から飛び降り、シンの下へ走った。


————————————————————————

 新作上げました。

 ぜひ見てみて下さい!


『学年の二大美少女にフラれたのに、何故か懐かれてたらしい』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662103623297

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る