第20話 神霊契約者
———邪神ヴォイドロード。
全ての邪神の頂点に立つ邪神で、邪神のくせに言葉は話さない。
しかし、その強さは1体の神霊では到底敵わないほど。
ゲームでは神霊契約者3人がかりで何とか倒すキャラではあるが、それは主人公のパーティーの全員がレベルカンスト&最高級の装備&全ての能力強化系アイテムを使用してやっと敵う敵である。
つまり———今の俺達では倒すのは相当難しい。
今までの俺の計画では、ヘラに近付いて来た不完全状態のコイツを叩くはずだったのだが……何故か既に契約をして完全体になっていた。
まだそれだけなら分かる。
俺がストーリーを改変させているからズレが生じるのは重々承知しているし、覚悟もしていた。
だが———
「……どう言うことだお前……ストーリーを改変させたくなかったんじゃないのか?」
1番の謎はそれだ。
何故原作を再現したいはずのコイツが、1番重要なラスボスを原作無視して契約しているのかがまるで分からない。
俺が険しい顔でそう問うと、転生者は心底つまらなそうに言った。
「ああそれか……はっきり言うが———やめた。諦めた」
………………は?
「———は? 何言ってんだお前?」
「そのままの意味だ。俺は原作を再現するのを諦めたんだよ。もうウンザリだ。お前がストーリーを掻き乱すせいで———主人公を殺した時点で既に軌道修正出来ない所まで捻じ曲がってしまった。自分が主人公の代わりをしようとしたが……更にお前が動くせいで完全に崩壊したんだよ」
……まぁ奴の言っていることは分からないでもない。
俺が主人公を殺したのが原因なのも事実だろうし、それなら邪神と契約するのも理解できる。
しかし———どうしても理解出来ないことが1つある。
「なら———どうして精霊と悪魔を混乱させた? 原作を諦めたのならする意味は全くなかったはずだ……!」
「いや———ある。ヴォイドロードを完全に目覚めさせるのに負の感情が必要だった。それに———前世では絶対に見れなかった人の死を見れると思ったんだ」
転生者は愉悦に顔を歪ませる。
それと同時に奴が原作を再現しようとしていた意味も分かった気がした。
コイツ———サイコパスだな。
だから鬱ゲーのストーリーを気に入って現実となったこの世界で再現しようとするわけだ。
ただ人の死が見たいだけの屑野郎、それが奴の本質なんだろうな。
「……屑が……人の死が見たいなら自分で勝手に死んでろ」
「嫌だよ。だって死ぬのは痛いし怖いじゃないか。何で俺がそんな体験しなきゃいけないんだよ。俺は何人もの人の死が見たいんだ」
そんな自分勝手で巫山戯たことを抜かす転生者には、流石の俺も我慢の限界が訪れた。
「———お前は此処で確実に殺す」
俺は一斉に最大火力の《雷轟》を幾重にも発動させると、2人に向かって放つ。
するとヴォイドロードは、自分に迫る雷を瞬時に消滅させると、屑野郎を守る盾となった。
俺は更に追撃する。
「《雷轟》《迅雷》《雷爆》《蒼白の稲妻》《雷槍》《百雷》《万雷》《
様々な雷が入り乱れて威力を底上げしながら徹底的に跡形もなく消滅させるために撃ち込む。
しかしこれで終わりではない。
俺は上空に雷の巨大に鎚を創造すると、地面目掛けて振り下ろした。
「———《
自身で最も威力の高い魔法は、ドス黒い魔力を断片的に吹き飛ばす。
爆風と爆煙が辺りを包み、雷火が飛び散り、至る所に帯電が見られる。
威力は言うまでもない———が、やはりそれほど簡単ではなかった様だ。
「流石に危なかったなぁ。まぁ———俺の邪神はまだまだピンピンしている様だがな?」
爆煙が鎮まると、そこにはドス黒い魔力障壁によって守られた屑野郎とヴォイドロードの姿があった。
更に魔力障壁が無くなると共にヴォイドロードが俺へと迫る。
「チッ……爺さん!」
『任せろ———《無秩序たる雷神の怒り》』
俺は飛びかかってくるヴォイドロードの攻撃を何とか避けると、爺さんに合図を出すと同時にその場を離脱する。
瞬間———遥か上空から天を埋め尽くすほどの
全てを消し飛ばす程の威力の爆風が辺りを襲い、ドス黒い魔力を全て弾き飛ばして、再び世界の支配権を奪った。
『どうだ———っ!? これは少々予想外だな……』
「爺さんの魔法でもダメか……流石に少しは効くと思ったんだが」
しかし———周りの魔力は無くなったものの、ヴォイドロード自体は見た感じダメージは見受けられず、未だに不気味な笑みを顔に貼り付けていた。
近くで魔力障壁を張っていた転生者が嗤う。
「ハハハハハッ!! 流石ゲーム最強キャラだ! あの最強の神霊と呼ばれるゼウスの技を食らって無傷とは! これは楽しい遊びになりそうだなぁ?」
「———五月蝿ぇよ屑野郎」
「おっと……いきなりは駄目だろう?」
俺はゼウスにヴォイドロードを任せ、雷の力で瞬間移動よりも速く動き、刹那の間に何十発もの殴打を撃ち込む。
しかし、気付けばゼウスと対峙していたはずのヴォイドロードが間に割り込んできて、あっさりと攻撃を防がれてしまった。
チラッとゼウスを見れば、ゼウスはドス黒く邪悪な魔力を打ち払っており、杖がドス黒い魔力に侵食されて腐っていた。
どうやら攻撃をモロに食らってしまったようだ。
しかしこのままでは埒が開かないので、今度は引かず、瘴気によって手が腐り落ちる前に反対の拳で奴の顔面を穿つ。
『キキキッ! ギィィイイイ!!』
「く……グハッ……!?」
ヴォイドロードは簡単に俺の拳を最小限の動きで避けると、生物には発せられない様な不協和音を響かせる。
俺がヴォイドロードが発する耳障りな音に気を取られている内に、転生者の蹴りが俺の鳩尾を激しく揺らした。
《雷人》という不完全な状態のため、未だ人間を捨てられていない俺は、吐血しながら弾丸の様に吹き飛ぶ。
そんな俺をヴォイドロードは追撃しようとしていたが、爺さんが生み出した無数の雷に邪魔されて動けない様だった。
俺はその間に宙で体勢を整えると、爺さんのいる所まで距離を取る。
「はぁ……はぁ……ゴホッゲホッ……じ、爺さん……あの邪神は倒せそうか?』
『……すまんが、儂1人では無理だ。アイツは今まで生まれたどの邪神よりも強い力を有しておる。この世界の秩序を乱し兼ねないほどにな……』
「だよな……爺さんの杖も使い物にならないしな」
俺は爺さんの言葉を聞いて、もはや手は1つに限られていることを悟った。
しかし、その手はまだ俺には早く、もはや一種の賭けでしかない。
それでも俺は———何としても、目の前の屑とヘラを狂わせた元凶を殺さなければならないのだ。
『……爺さん、アレをやるぞ』
俺がそう言うと、爺さんが瞠目する。
だが、直ぐに納得の意を示した。
『…………そうだな。それ以外に奴と戦う
俺は爺さんと頷き合うと《雷人》を解き、他にも色々と施していた魔法も全て解く。
そんな俺を訝しげな表情で見つめる転生者だったが———直ぐに俺が何をしようとしているのか分かったらしく、焦った様子でヴォイドロードに指令を出す。
「ゔぉ、ヴォイドロード! 今すぐ奴らのどちらかを攻撃しろ! 今すぐにだ!」
「———もう遅い」
俺達は同時に告げる。
ゲームにて、全てのヒロインとの個別ルートをガン無視してレベルアップと戦闘に全てを注ぎ込んだ場合にのみ使える———精霊契約者の究極奥義を———。
『「———《精霊同化・雷神》———」』
世界に精霊を超えた真の神が降臨する。
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