第12話 才能だけで強くなれる奴は居ない

(な、何なんだ……一体何者なんだよ、この男は……!?)


 クルトは、自分の最高傑作のモンスター達が次々とやられていく光景を目の当たりにして驚きを隠さないでいた。

 

「どうした? まだまだ居るんだろう?」

「く……五月蝿い! まだまだこんなものじゃないよ……!!」


 クルトは2階から8階までで出る筈だったモンスターも追加で召喚する。

 一気に50を超えるモンスターが現れ、そのどれもが学生には手が負えない様な強さを持ったモンスターばかり。


 しかし———シンは全く動じない。


「《雷装》」


 身体の周りを雷電で覆い、縦横無尽に空間を駆け回りながら、襲い来るモンスターを即座に一撃で死亡させる。

 その姿は正に、才能を感じさせる一騎当千の強者であった。


(くそッくそッくそッ……また才能が僕に屈辱を与えるのか……!! 僕にも才能があればコイツみたいに……)


「———また、嫉妬しているのか?」

「っ!?」


 シンは侮蔑の篭った視線をクルトに向けながら、吐き捨てる様に言った。

 そして瞳に怒りの感情を宿し、そんなシンの感情に比例して雷電が唸りを上げながら荒れ狂う。


「お前は才能に固執し過ぎなんだよ。誰かから才能を奪った所で、それはお前の物じゃない。それぞれの奴らが歯食いしばって身に付けた力なんだよ」

「五月蝿い……五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!! 才能のあるお前に何が分かるっ!?」

「———ならお前は『禁忌と雷の森』で1年以上過ごしたことあるのか?」


 シンのあまりにも常識離れな言葉に、クルトは『何を言っているんだ』とポカンと口を半開きにして呆ける。

 しかし、その反応は当たり前であった。


 『禁忌と雷の森』は人類が生きていく事が不可能とされている場所であり、熟練の冒険者や超越級精霊と契約している強者であっても入ろうとしない。

 そんな所に1年以上過ごす事など出来るのか。


 ———不可能。


 クルトはそう断言できた。

 あんな地獄の様な場所で暮らすどころか、入ることすらも出来ないと。


 しかし次の瞬間———クルトは思い知る事となる。

 目の前の自分と同じ歳の人間がその不可能を成し遂げた人物であると。


「俺は1年以上あの森で暮らした。その中でこの力を手に入れ、磨いて来た。何故なら俺はすぐに死んでしまう脆弱な人間だから」

 

 シンは、クルトに問いかける。


「知っているか? お前がこれから1番に才能を奪おうとしているヘラは、僅か7歳で『禁忌と雷の森』に入ったんだぞ?」

「……っ、そんなことあり得ない……!! 『禁忌と雷の森』だぞ!? 誰もが入るのを躊躇して、入れば2度と戻って来られない世界最恐のエリアなんだぞ!?」

「だが、ヘラは自分1人の力で切り抜けた。確かにヘラの才能はズバ抜けている。でも、そんな彼女より才能のある者もこの世には何人もいるんだ。なぁ———クルト。お前は1度でも自分の命を賭けたことがあるか? 死ぬ覚悟を決めたことはあるのか?」


 シンの言葉にクルトは言葉を詰まらせる。

 

 自分の命を賭けた事など1度もなかった。

 自分には才能がないから努力をしても天才には敵わないと、努力をしてこなかった。

 才能さえあれば自分も強くなれると言い訳ばかりで逃げていた。


 ダンマリを決め込むクルトを無機質な瞳で見つめるシンは、はぁ……とため息を吐く。

 そして次の瞬間———



「———自分の命を賭けて努力した事すらない奴が才能を、努力して手に入れた力を侮辱するなッッ!!」



 刹那の内に辺りに雷の槍を無数に創造してはモンスター達を一瞬で滅ぼし、身体からは魔力が噴き出し、その全てが雷電へと変換されて、雷鳴を轟かせながら空間を駆ける。

 シンの身体の周りに雷電が纏われ、モンスター達の接近を拒む。


「や、やめろ……来るな……ッ!! 来るんじゃない……!! 助けろお前達!! 僕を守れ! この不届者を今すぐに殺せぇえええええええええええええええ!!」

「才能はあくまでも才能だ。やろうとしなければ知る事もなく生涯を終える事もある」


 クルトがあまりの恐怖に半狂乱になりながらモンスター達に命令を下すが、シンは襲い掛かるモンスターを一瞥する事もなく全て刹那の間に消滅させる。

 その圧倒的な力にモンスター達は、恐怖するクルトとは違って歓喜し、やっと殺して貰える、これ以上弄ばれることはない、と嬉々として無防備にシンに飛び掛かり、一撃でその命を散らす。

 

「あ、ああ……やめろ…僕を殺さないでくれ……頼む……」

「…………」


 シンはクルトの目の前で立ち止まると、無言でクルトを塵を見る様な瞳で見ていた。

 しかし、シンは未だ険しい顔で一言呟く。


「お前……そう言いながら、嫉妬の大悪魔を召喚し、俺を殺して才能を奪う機会を窺っているだろ?」

「……っ、そんなこと……」

「もし考えているのなら———そんな考えは捨てるんだな」


 シンがそう言った次の瞬間———目の前の空間が歪み、そこから今まで見た事もない強力な雷が飛び出して来た。

 そしてそこから雷自在に操って纏い、雷の杖を手にした神霊———ゼウスが現れる。


 その圧倒的な、嫉妬の大悪魔などとは比較にならない程の威圧感と魔力を持つゼウスの姿に、クルトは、遂に自分がもう逃げ道も、この状況を打開することも出来ないことを悟った。



「お前はもう———終わりだ」



 シンの無慈悲な言葉が、クルトの上に重くのし掛かった。

 

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 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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