エピローグ 隠れ最強と悪役は決意する(改)

 なんかヘラが物凄くヘラりそうな雰囲気になったので少し改稿しました。

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 ———次の日。


 俺は自分の家の寝室(学園に入学と共に、学園の近くの何の変哲もない普通の家を買った)で目を覚ます。

 耳を澄ませば小鳥の囀りが聞こえ、窓から入る太陽の光が、俺とベッドを明るく照らしていた。


「……朝か」

『今は8時じゃ。いつものお主なら既に学園に向かっている頃じゃな』

「良いんだよ今日は。学園は1週間休みなんだから」


 そう———期待の新人であるカイが変貌して現れたロキと、その後に学園の校舎内に残しておいた死体が発見されたため、学園は1週間の臨時休業に入った。

 1週間の内に学園の清掃、死体の身元確認&原因究明など、色々とやることがある———とドバン先生が頭を抱えて言っていたのでよく覚えている。


 正直学園にはヘラを眺めに行っていた様なものなので、ヘラの姿をお目にかかれないのは物凄く悲しい。

 

 そう言えば、我が推しのヘラは、ロキへの対応とドラゴンをソロで倒した経歴が評価されて、僅か15歳ながら国の顔であり、王国最強———『十傑』の第10席に選ばれた。

 勿論、こんなことはゲームにはなかった出来事だ。


 本来、ゲームではこの時点で主人公が襲撃者を倒した事で10席になり、最終的に主人公達が1席から5席を独占するはず。

 勿論主人公が1位で、アーサーは地味に3席に君臨することとなる。


「主人公居なくなったけど……どうすんだろう?」

『確かにのう……ロキも完全に消滅した様じゃし……恐らく受肉された人間も死んでおるじゃろうな』

「何故そう言い切れるんだ?」

『今まで邪神に身体を乗っ取られた者は、邪神が居なくなった瞬間に身体が拒否反応を起こして、あっという間に灰となって死んでしまうのじゃ』


 そんな仕様になっていたんだな。 


 ゲーム自体にも受肉はあったが、ヘラ以外は見た事がない。

 なので、ゲームを周回しまくった俺でさえ、今回のカイで2人目だ。


 ただ、爺さんが言うのなら大方は信じても良いだろう。

 邪神に関しては俺よりも詳しいからな。


「さて……この世界は早期退場した主人公の穴をどう埋めるんだ?」


 流石にこればかりは俺にも分からないので何とも言えないが、長年オタクをしていた俺としては、恐らく新たな主人公が現れるとは思う。

 精霊に愛された人間と言うのはこの世界に唯一では無いとファンブックにも書いてあったからな。


「まぁ……それは後で考えるとするか。どうせ俺はヘラを護れればなんでも良いからな」

『そうじゃな。今考えても仕方がないじゃろう。未来の事は神にも分からないんじゃからのう』


 例え、ストーリーが変わろうと。

 例え、新たな主人公が現れようと。



「———必ずヘラを護る。オタクと隠れ最強の意地を見せてやる」


 

 ただ———今は、この珍しい休みを使って惰眠を貪る事としよう。

 

 俺は再びベッドに潜り、目を閉じ———る前にインターホン的な魔導具が鳴り、俺は仕方なくベッドから降りて玄関へと向かった。


「はい、どちら様でしょうか———っ!?」


 尋ね人の姿を確認した瞬間、目を見開いて———










「———よくやったヘラよ。それでこそドラゴンスレイ家の者だ。これからも精進しろ」

「……はい」


 ヘラは返事をしながら、ドラゴンスレイ家の当主であり父親であるアルフレッド・フォン・ドラゴンスレイの瞳を見つめる。

 そこから流れて来るのは、嫌悪、義務の2つのみ。


「……っ」


 ヘラは自分が感情を読める事を家族の誰にも伝えていない。

 自分から言ったのは説得するために伝えたドバン先生のみで、シンも知っているのだが、ヘラ自身はバレていないと思っている。


「……では私は鍛錬を行ってきます」

「分かった」


 アルフレッドは大して興味がなさそうに形だけの返事をしてヘラを下がらせる。

 ヘラとしてもこんな場所には居たくなかったため、素直に自分の部屋に戻った。


「ふぅ……やっぱりこれが普通なのよね……」


 部屋に戻ったヘラは、ベッドに倒れ込んで深い溜息を溢す。


(幾ら『十傑』になった事を知らせるために久し振りに家に帰ってきたとは言え、疲れるわ……でも、それもこれで終わり……!)


 ヘラはベッドから起き上がり、浮つく心を落ち着かせながらクローゼットを開ける。

 

「シン君はどんな服が好きかしら……? あっ、この前ワンピースが好きって言っていたわね……」


 ヘラは先程とは一転して、物凄く楽しそうに、幸せそうな表情でワンピースを中心に自分の身体に当てて選んでいく。


 この姿から分かる通り———これからヘラはシンの家に突撃してデートに誘う予定なのだ。

 シンの家はゼウスに教えてもらっている。


「シン君……いきなり私が家に行ったらどんな表情するかしら……? 怒らないで欲しいなぁ……」


 純白のワンピースに真っ白な麦わら帽子を被りながら、ヘラは心配そうに呟いた。 

 

(まぁ……ここで心配しても意味ないわね)


 ヘラそう言って自分を奮い立たせると、軽いメイクをして家を出る。

 まだ朝だが、初夏だからか少し暑い。


「確かこっちで合っているわよね……?」


 今までモンスターばかりを倒していたせいで、誰かと遊ぶと言う事をしたことがない。

 そのためヘラは無性に落ち着かなく、何度も通っているはずの道ですら全く別の物に見えていた。


「それにしても———」


 ヘラは1週間前の出来事を思い出す。


 自分では敵わなかった相手を手玉に取るシンの姿。

 ボロボロとなった自分の姿を見た途端にテンパるほどに心配してくれて、世界で最も高いとされる神薬を沢山渡して来るシンの姿。

 自分の事で怒ってくれるシンの姿。


「〜〜〜っ」


 思い出すだけで、ヘラの顔は真っ赤に染まって恥ずかしさで悶えてしまう。

 

(あんなの反則よ……)


 あんなに好意を向けられて。

 どんな事をしても優しい瞳で、笑顔で見守ってくれて。

 自分のために怒ってくれて。

 心配してくれて———



「———好きにならないわけがないじゃない……」


 

 ただでさえ現実ではあり得ないと分かっている少女漫画を愛読するヘラなのだ。

 そんな漫画の中のヒーロー以上にカッコよくて、優しくて自分を好いてくれている人に出会ったら好きにならない方がおかしい。


 こんなに悩むのも。

 全身が燃える様に熱くなるのも。

 彼と目が合うだけで心臓が煩いくらい高鳴るのも。

 彼を見る度に心が躍り、愛しさと嬉しさが溢れて来るのも。


 初めての感情で初めての体験。

 その全ては彼が私にくれた物。

 

 ヘラは高鳴る心臓と熱の集まる顔を抑える事なく、シンの家のインターホンを鳴らし、髪や身嗜みを確認する。


 こんな大チャンス2度とないとヘラは断言できた。

 この人生で唯一のチャンスを絶対に失いたくない。


 だから———


「はい、どちら様でしょうか———っ!?」


 扉を開けてヘラと目があった瞬間、驚きで目を見開くシン。

 その瞳からは、驚き、好意、歓喜などの様々な感情がヘラに流れてきた。

 ヘラはその事に安心すると共に———気恥ずかしげな、それでいて愛おしい感情を抑えることのない100万点満点の笑顔を咲かせた。




「おはようシン君。いきなり悪いのだけれど———私と遊びに行きませんか……?」


 


 ———覚悟しておいて、シン君。


 必ず私が貴方の隣に立ってみせるから。


 

 

 (第2章了)


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 ここまで読んで下さりありがとうございます!

 これにて第2章完結です。


 今章はヘラとの出会いから両片想いになるまでを描いてみましたが……どうだったでしょうか? 

 応援コメントにて感想宜しくお願いします。


 そして今日の夕方から第3章———精霊と悪魔の狂騒の開幕です。

 是非お楽しみに!!


 現在、作者が力尽きるまで1日2話投稿をしています。

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