第12話 始まり

「———次の試合は、今期実技試験1位であり、先程も圧倒的な戦いを見せたカイ君に果敢に立ち向かったシンVS実技試験7位であり、現生徒会副会長の弟でもあるアーサー・ウィンドストームです!!」


 司会の女子生徒の紹介と共に俺とアーサーは武舞台に上がった。

 途端に歓声が起きるが、当たり前だがアーサーの方が多い……と言うよりアーサーへの歓声しかない気がする。


 因みにヘラは次の試合に出場するので、今頃控え室で準備をしている頃だろう。

 少し前に『シン君も頑張ってね』との神託を受け取ったが、今回だけはどうしても此処で負けなければ間に合わないので、ヘラの期待には応えられそうにない。

 今までの計画を練り直そうかと本気で迷うほどの苦渋の決断だったが。


「それでは———試合開始!!」


 審判の開始の合図と共に、俺とアーサーは同時に攻め込む。

 俺の剣とアーサーの剣がぶつかり合い、火花が散る。


「アーサー、作戦通りにな」

「本当に負けるのかい? 此処で負ければ序列はだいぶ下の方になるけど……」


 アーサーが心配そうに最終確認的な事を聞いてくる。

 しかし、ヘラが守れるのであれば、俺の序列など最下位でもいい。  


「問題ない。アーサーに負けるのはしょうがないって言う見方になるだろうから、それなりにいい試合をしておけば退学になりそうな順位にはならないはずだ」

「そうか……分かったよ。じゃあシンがわざと作る隙を狙って精霊で攻撃すればいいんだね?」

「ああ。後は俺が上手い感じにやられる」


 俺は力を込めて剣を振り、アーサーを吹き飛ばす。

 しかし直ぐにアーサーは態勢を整えて着地し、そのままの動きで地面を蹴って再び接近してきた。


「く……ッ!」

「まだまだこれからだよ……!」


 俺は腰を落として剣を上段に構えて頭上から振り下ろされる剣をガードするが、アーサーの剣戟は思った以上に重く、思わず呻き声が出てしまう。

 その間にアーサーは素早く地面に降り立つと、袈裟斬りを繰り出してくる。

 俺はそれをギリギリの所で身体のアーサーの剣の間に剣を捩じ込ませて咄嗟にガード。

 しかし急拵えだったせいか、上手くガードできず吹き飛ばされてしまった。


「中々やるな……これなら絶対に審判にもバレないだろうな」


 現在、俺は手を抜いているのがバレない様に軽く身体強化を発動させているのだが……俺の予想以上にアーサーが強かったため、良い具合に接戦を繰り広げられる事が出来ていた。

 これは完全に嬉しい誤算だ。


 俺はあたかも窮地に立たされたかの様な表情を作って精霊を召喚する。


「来てくれ———フルミニス!!」


 俺の目の前に小さな光の玉が現れ、武舞台が雷電に覆われる。

 しかし、アーサーは特に驚きもせず、余裕そうな笑みを崩さなかった。


「そっちが召喚するなら僕も精霊を召喚しようかな。———シルフィード」


 アーサーが上級精霊であるシルフィードを召喚すると、お互いの属性相性が良いためか、雷電に風が融合し、強烈な風に乗って雷が走る。

 そんなフィールドの中、俺達はお互いに目配せすると、同時に魔法を発動した。


「———《迅雷》ッ!!」

「———《風龍》ッ!!」


 お互いの魔法がぶつかり合い、複数の雷電と風の龍が武舞台を包み込んだ。


 

 

 







『———良い加減に起きるんじゃ!!』

「———はっ!? こ、此処は……!」


 俺は爺さんの怒鳴り声で目を覚まし、辺りに視線を巡らせる。

 

『此処は休養室じゃ。お主……自分の身体を少々強く痛めつけすぎではないのかのう?』

「いてて……しょうがないだろ? 気絶するにはこの方法しかなかったんだよ」


 俺はアーサーの魔法が当たる瞬間に、自らの身体に魔法を放って意図的に気絶を図った。

 その結果はこの様に大成功だ。


 既に身体は普段通りに動くし、思った以上に魔力も有り余っている。

 これ程のコンディションであれば、これから始まる本当の戦いにも負けることはないだろう。


 俺が身体の状態を確かめていると、爺さんが揶揄う様な声色でとんでもない事を言ってきた。


『それにしてもお主……まさかあれ程の女子おなごと手を繋ぐ関係にまで発展していたとはのう……流石の儂もびっくりじゃ』

「て、手を繋ぐ!? いつ何処で誰が誰と!?」

『そんなのお主とヘラとか言う女子に決まっておろう。この部屋に駆け込んできた女子が心配そうにお主の手を握っておったぞ?』

「へ、ヘラが俺の手を握った……? そんな馬鹿な……」


 しかしこんな事を言っても爺さんが得する事など何もない。

 なら本当にヘラが俺の手を……?


「…………めちゃくちゃやる気出てきた」


 俺は興奮からバッチリと目が覚め、勢いよくベッドから起き上がると、病衣から自分の制服に着替えて窓から外に飛び出す。

 4階から飛び降りて綺麗に着地すると、そのまま止まる事なく全速力で校舎へと向かった。










「———此方A班侵入成功です」

『此方B班。同じく侵入成功です』

『此方C班———』


 邪神教の学園潜入第1部隊のA班の班長であり、今回の作戦の指揮を担当するアーロンは、C班の連絡が途中で切れた事を不審に思い、眉を顰めた。

 そんなアーロンが定時連絡をし始めてから突然固まったため、同じ班のフューが不思議そうに尋ねる。


「どうしたんですか班長? 何か問題でも?」

「……突然C班と連絡が取れなくなりました」

「「「「「「!?」」」」」


 アーロンの言葉にA班の班員全員が驚いた様に瞠目した。

 何故なら、今まで此処以上に警備の硬い場へ何度も侵入してきた彼らにとって、連絡が取れなくなる事など一度もなかったからだ。

 不測の事態に混乱を極めた場に、更なる混乱が巻き起こる。

 

 それの始まりはA班からの無線の着信。

 先程の事があったため、直ぐに着信に出たアーロンだったが———無線から流れてきたのは仲間達の悲鳴だった。

 

『此方B班! 至急応答願う! この学園にはばけ———ぐはっ!?』


 無線で状況を知らせようとした班員も殺されたのか突如応答がなくなり、先程までうるさかった無線の奥側の音もいつの間にか消えて静寂が漂っていた。

 アーロンはこれ以上は無駄だと無線を切る。


 しかし———無線を切った後で、アーロンの長年の勘が何かおかしいと告げていた。

 アーロンは自身の勘に従い、即座に班員達に指示を送る。


「皆、その場を動かず辺りに警戒してください! 決して離れ過ぎない様に! 一定の間隔を保つのです!」

「「「「「「了解!」」」」」」


 アーロンは班員に指示を出した後、自身も魔法を使って辺りを捜索する。


 すると僅か数秒で———ふと此方へ向かってくる者を感知した。

 気配は1人、歩幅からして教師ではなく男子生徒だと断定。

 即座に殺すのではなく捉えて記憶改変する事を決め、班員にジェスチャーで生徒を囲む様に指示すると、アーロンはこの学園の教師であるルージュに化けて生徒の前に姿を現した。


「———こんな所で何をしているのですか?」

「あ、お久しぶりですね、ルージュ先生」


 アーロンの目の前に現れたのは、少しイケメンだがそれ以外にこれと言って特徴のない黒目黒髪の男子生徒。

 しかし持ち前の記憶力で、即座に目の前の生徒が実技100位圏外の生徒と断定。

 同時に目の前の生徒は脅威ではないと気を抜いた———その瞬間。


「———いや、アーロンと呼んだ方がいいか?」

「っ!?」


 口調も雰囲気も変貌させたシンが、誰にも話していないはずの自身の名前を呼ぶ。

 突然の事に驚きに固まるアーロンだったが、即座に出て来ないように全班員に命令してから襲い掛かる。


「———すみませんが少し眠っていて貰います」

「———悪いが眠るのはお前だ。永遠の眠りに、だがな」


 その言葉が聞こえた数瞬後、自身の目に、首から上を無くし、血を噴き出している自身の身体が映った。

 同時に自身が斬られたことを理解する。


(な、何が起こった……!? 確かに私は奴の後ろに回って……)


 困惑を極めるアーロンの耳にシンの言葉が聞こえてきた。




「———お前ら邪神教には、ヘラに指一本触れさせねぇぞ」




 シンが全身に雷電を纏い、髪も瞳も真っ白に染めて辺りを冷たい目で見つめる。

 更にはその後ろに契約した邪神が恐怖するほどの異次元の威圧感を纏った精霊が顕現していた。

 その姿を見たアーロンは、やっと理解する。


(ああ……私達は敵に回してはならない者を敵に回していたのか……)


 そのまま地面に頭が落ちる時には既にアーロンの意識は無くなっていた。


 

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