第17話 Thief Cat(泥棒猫)

 無視されるなんて、やだ。

 注目されているのが好き。

 だから視線には敏感だよ。

 もっと敏感なとこもある。

 それは内緒にしておくね。

 よくわからないけど、りょうに付き合って貰っていて。他所の女にホイホイついていくなんて。やっぱあの彼氏はATMにしておいたがいいって、ADVICEしておこう。

 奥の部屋なんて準備していてさ。

 もうヤル気満々じゃん。

 突入するしかないよね。

 

 ワタシが席を立つとさ。

 バーテンが目で追うの。

 それは理解できるのよ。

 今週は背中で攻めてる。

「お客様、そちらは予約席でしかもご入室されております」

 慇懃な声。50代にしては渋い声。

 こめかみに皺が出てきて額が広くなっている。そしてバーテンの衣装が生来の制服のようにしっくりとしている。高校生からの着こなしに見える。

 どうか、という静止の掌を取って。

 それを胸に這わせてやった。逃げようとしても抵抗はできない。弱い女の力なのに抗えないのは、男の性分だ。

「ここで悲鳴をあげるわよ」

 彼の顔に戸惑いが生まれている。そう客に痴情行為をしているように、世間では見る。脂汗が浮いてきている。呼吸の荒い彼の手が意思を持って、もう一度しっかりと揉んだ。それくらいは減るもんじゃないし、高校生のとき、東横線では毎朝のように体験した。

「大人しくしてね。ワタシもあの男に呼ばれて来ているの。そうゆうプレイなのよ」

 首関節に異変があるかのように烈しく頷いた。

 その首のあたりにそっとキスをした。

 それが通行証のように。

 

 けっこ進んでた。

 猫がミルクを飲むような粘着質の音がしてる。

 へえ。けっこヤルじゃん。

 でもちょっとカッとしたの。

 りょうのことはどうすんのよ。

 バッグに入れておいた護身用のスタンガン。何度か使ったことあるけど。これで気絶するなんてことない。高圧電流で暫く痛みで体が麻痺する程度よ。それで逃げる時間を稼ぐための細やかな武器。

 男の裸の脇腹にそれを突き立ててスイッチを押す。

 射精でもしたかのようにピクンと動く。

 その下から女の乳房が揺れるのを見た。

 へえ。

 いいもん持ってんじゃん。

 下から気丈に睨みあげる。

「誰よ、あんた」

「誰でもないわ」

 鼻でふふんと嗤って「泥棒猫にはお仕置きが大切よね」と嘯いてやった。

「あんたこそ泥棒猫でしょ。佐伯のを今もしゃぶっているの」

 ワタシの脳裏が怒りで赤く染まった。

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