大怪獣物語 NewLife beginning

暇人X

第1話 不幸な人生

「止めろ、止めてくれーーーーーーーーーー」

 202×年3月31日の夜8時、漢糾(かんだ)町の川原に大きな火が燃えていた。人目を避けるように川沿いに少し上った所に、灯油を撒いて轟々と燃え盛るキャンプファイヤーが作られており、そこで俺の処刑が行われようとしているのである。

「信じられない、ほんと信じられないわ! これは何よ正人!」

 (何って〇×ゲーですけ ど? みたいなはははのは……)

 彼女が俺に突き付けているのは、【性技大戦・スターライトセブン】と箱に書かれたアダルトゲームで心の友。箱に描かれた破れた魔法衣装の胸辺りを、手で隠しつつ怯えた表情をする主人公が悩ましい。

 此は高校で虐められてた俺の心の支え、美少女チームが触手怪人やスライムなんかにあれこれされちゃう大作ゲームだ。

「こんな汚らわしい物は私達にいらないよね正人!」

「いるぞ! それは駄目だ、それは俺のだな……」

 《俺は伊達正人37歳。高卒で働き始めた俺は、非正規の仕事を点々と変えてきてひょんな事から、一緒に事務仕事をした24歳の彼女と知り合いになり、明日の4月1日に結婚をする予定なのだ。》

 俺は彼女の姉妹に腕を取られつつ、川原に両膝を付けさせられながらキャンプファイヤーを見せつけられている。その彼女は働いている企業の社長令嬢にして3女な、夢見がちかつ美人な処女であり少々潔癖症と扱いの面倒な女。

 (逆玉なので我慢我慢……)

 その3女は明日の式の相談をする為に俺のアパートへ来て、そこであのお宝ゲームを発見してしまったのだ。そしてこんなの許せないわーーーーーと俺をひっぱたいた彼女は、姉姉(きようだい)に連絡して呼び出すと非常識にも3人で家宅捜査を始めて現在に至る。

「こんな汚い物はいらないでしょ正人!」

「いるんだ!」

「いらないわよね!」

「いらないっていいなさいよ!」

 3対1、川原に立って両腕を抑えられている俺は、捨てないでくれ、趣味を認めてくれよと3人姉妹へ懇願している真っ最中。

「構わないから燃やしてしまいなさい!」

「頼むから止めてくれーーーーーーーーーーー」

 そして俺の懇願も虚しく長女の命令を受けた3女は、心の友【性技大戦・スターライトセブンのリメイク版】をキャンプファイヤーへと叩き込み、ゴウッと箱が燃え上がっるとBDディスクがドロドロに溶けていく。

「次はこれよ!」

 ゲームだけならパソコンのHDに保存してあるのでまだ大丈夫。しかし次はヤバイ密かに買い直そうにも、もう2度と手に入らないであろう超レア物だ。

「フィギアだけでも気持ち悪いのになんで裸なのよこれ!」

 それは可動式かつキャストオフ仕様で破れた服に交換とか、あれこれ出来てしまう1/5スケールな主人公の桜ちゃん人形で、お値段なんとうん万円。俺は止めてくれるように本気でお願いした、これを燃やされたらもう生きていけないかも知れない。

 でも彼女は手を振り被ると

「私と言うものがありながらーーーーーーーー」と、容赦なく炎へ投げ入れる!

 (さようなら桜ちゃん、君が今までしてくれたお世話は永遠に忘れないからね)

「バカヤローーーーーーーーーーーーーーー」

「バカってなによ! 正人のバカ! 次はこれなんだから……」と、3女が横に置いたゴミ袋から無造作に取り出すのは、主人公以上に気に入っているお高いフィギア。青色の髪に凛々しい顔立ち、水星の守護者にして知的美人な蒼花ちゃん人形だ。

 例によって3女へお願いするも「私は正人の1番なのにーーーーーー」と嫉妬に狂った女は、キャンプファイヤーへ蒼花ちゃん人形を叩き込んだ!!(うぉぉぉぉぉ)

「もうっ! もうっ! もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 (全部揃えるのにどれだけ苦労したと思っているんだこのアホ女は!)7人の美少女戦士達が1体、また1体と炎の中へ消えていく。(さようならスターライトセブン、みんな天国で幸せに暮らすんだよ……)

「その調子で全て燃やしてしまいなさい!」

「伊達さんは今日から真人間になるのよ!」

「これも、これも、なんでこんなに沢山あるのよ! もーーーーーーーー」

 ポスター、タペストリーとか【スターライトセブン】シリーズが終わったら、【花園】シリーズ、【アイドル戦隊・キャットナイト】……(泣いてもいいですか俺?)

「こんなゴミを集めるにどれだけお金を掛けたのよ正人!」

「ネトゲのガチャやアイテム課金を合わせて、軽く500万円は超えてると思う。借金も幾らかあってそれがその……」

「———500万円で借金もあるの! 結婚資金は私が出すんだけど!!! 家とか車だって全て私が……」

「それは半々にして半分は時間を掛けて返すって約束したじゃないか」

「そんなの信じられないわ! 正人は私よりこんなゴミの方が良いわけ?」

 怒り狂った3女へ素直に謝り、好きです、愛してますって言うべきかも知れない。しかし頭に血が上っていた俺は、「お前みたいなブスでやらせてくれない女より! フィギアやゲームの方が優しくて可愛いいんだ!」と思わず叫んでしまう。

 (あっしまったーーーーーー)と後悔したのは後の祭り。

 2人の女に拘束されている俺の頬をバッチーーンと引っ叩いた、超面倒な3女は残っていたグッズをゴミ袋毎キャンプファイヤーへ投げ込むと、両手で顔を覆いながらわーーーーーーーと大泣きを始めてしまう。

 続いて俺は両側にいる長女・次女から罵詈雑言を浴びせられ、「パパに言いつけてクビにして貰うんだから!」と3女が叫んだら明日の結婚式が破談になる。

「正人なんか大っ嫌いーーーーーーーーー」

 その後ワーーワーー泣き続けている3女を両側から慰めつつ、土手に止めた車に乗せた長女と次女は俺を川原に残したまま走り去って行く。その様子を見送った俺は1人残された川原でキャンプファイヤーをぼーーっと見つめ続けるのであった。


 (人生っていつ終わるか分からないもんだなぁ)

 非正規だし仕事なんか新しく見つければいいんだが

なんかもう

全部どうでもいいやってーーーーーーーーーーーー感じだ。

燃え尽きたお宝とキャンプファイヤーが【俺の人生終了】を告げている。

三角座りで炎を眺めていた俺は炭になったお宝から顔を逸すと、気力が抜けた両足に手を付いてどうにか立ち上がった。

 そして懐中電灯を持った俺は、ふら~りふらりと川に沿って歩き始めるのである。

 後悔し涙を流しながらふら~り一歩。

 悪霊になって祟ってやるぞと更に一歩進んだ俺。

 恨みと悲しみでグチャグチャになった頭を抱えつつ、歩き続けて川辺から土手に上がった俺は、夜道を更に進んで山沿いにある古い廃寺までやって来た。

 山門の扉は壊れて開けっ放し、真ん中には【立ち入り禁止の看板】が立っている。手入れされてない階段と道は草ボーボーで、草に足を取られて躓きそうになりつつ辿り着いた本堂は屋根が崩れ落ちて酷いありさまだ。

 【この先には自殺で有名な場所があるのである。】

 本堂の前を曲がって進むと苔むした地蔵やら墓石があり、更に歩いて裏門を抜けた所が目的地。回りは手入れのされてない雑木林、誰とも知れない沢山の死体が沈んでいると噂されるここは半径十数mはある底なし沼だ。

 (ここで死ねば誰にも迷惑を掛けないな)

 懐中電灯の明かりで怪しく浮かび上がる、黒くてドロドロした底なし沼。少しぐらい躊躇ってもよさそうだが心神喪失の状態にある俺の足は止まらない。その【引きずっている重さが人生の酷さを現すかのようで】、ズボンとスニーカーにへばり付く泥を引きながら俺は先へ先へと進んで行く。

 (このまま天国へ……)と俺は考えるが泥が太股を超えた辺りで思い止まった。

 (女なんか世界中に腐る程いるじゃないか、何であんな女に俺は拘っている!)

 そうだそうだと段々腹が立ってきて、(堂々とあの女に抗議して賠償させたら会社を辞めてやるーーーー)と決めた俺は泥沼から抜け出すことにした。

 (よーーーーーーーーーしそうと決めれば! ……どうやって?)

 足掻けば足掻くほど沈んでいくこの体、泥を掻き分けどうにかして沼から抜け出そうと頑張るけどかなり無理。深夜に助けを求めて叫んだ俺の声は夜の闇と森に虚しく吸い込まれるだけで誰の耳にも届かない。

 それでもフンガーーーーーーーと頑張った俺は、何とか沼から抜け出すとその淵でへたり込む。四つん這いになってぜぇぜぇと息を整え、(よーーーし家に帰るぞ)と体を起こしかけたその瞬間だった!

 グイッと何かが俺の右足を引っ張ってくる。

 【深夜の底なし沼に別の人がいるのとかあり得ない!!!】

 あり得ない話しだが、それは前に進もうとする俺を泥の底へ引き込もうとし、左足も何かが掴むと俺は地面を引きずられ始める。

 (誰だこの野郎!)と足元に懐中電灯の明かりを向けると、その先に白くて艶々した骸骨さんが浮かび上がった2体もいるではないか!

「神様仏様そこにおられるんですよね俺を助け下さい! 助けてくれたらお礼に壊れた寺を直して毎日拝みに来ますから、どうかお願いしますーーーーーーー」

 人の力で敵う相手ではなく黄泉の国へ引き込もうとする悪霊達へ、抵抗しながら廃寺に向いた俺は神頼みをするも効果なし。

「神様なんてここには居ないよ」

「私は彼方と仲良くなりたいの」

「こんな死に方は嫌だーーー、神様お助けーーーーなまんだぶ、なんまんだぶ……」

 廃寺に神様仏様がおられるのか存じ上げませんが(いて欲しい!)、俺はそれこそ死ぬ思いで神頼みしつつ悪霊達へ抵抗する。しかし虚しくもその願いは叶えられず、沼に引き込まれてずぶずぶと沈んだ俺の体はやがて底に到達してしまうのだった

                

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