八話 私がまさかのナンパ
一限が終わって次の講義は四限からである為、時間がかなり余った。
「あぁ、一旦帰って昼寝でもするかなぁ……」
適当に独り言でも喋ってみた。何も現状は変わらない。
本当に一旦アパートに戻ろうかと悩んだ。
本日は一限と四限のみで親しい友達と一緒に受ける講義はない。
友達と一緒なら『この後どうする?』とか言ってご飯かもしくはゲーセンに行くか。
アルバイトも今日シフト入れてないから行く必要もない。本当にどうしたものか。
取り敢えず一旦スマホで音楽でも聴くか。
私がBluetoothに繋いだワイヤレスイヤホンを耳に装着した時だった。
だだっ広い大学門の出入り口で、何やらイベントスタッフの白いシャツを着た学生達を広告を配っている。
なんだ?と視界に入った為気になった私は、その方へ向かった。
『あー、大学のサークル活動の宣伝か』
それに気づいたのは、宣伝用の立て看板があったからだ。
門近くには5つ立て看板が置かれており、その殆どはスポーツ系だった。
「なんだぁ。スポーツのサークルばっかりじゃん。私はカルチャー系にどちらかと言えば入りたかったなぁ」
興味はあって見にきたが、私が望んでいたものはなかった為、さっさと門を出ようとした。
「すいません!よかったらうちのサークルとか興味ない?」
「いえ、私はいいです」
何度もこんな会話を続けて勧誘を断った。
張り切って宣伝しているのは分かるが、場所を考えて欲しかった。
まぁ別に大学生くらいしかここから入る人いないだろうからいいと思うんだが、こんなにも門の前にしつこく勧誘されると嫌な人は嫌だろう。
「ねぇ、うちのサークルとかどう?」
「すいません。本当私結構ですので」
若干引く動作をわざと見せて避けて行く。
そんな事を繰り返してやっと宣伝してくる学生達から離れる事にした。
大学付近には、一箇所キャンパス停車のバス停が存在する。朝大学に向かう際よく見かける。
そこで降りる人の中に、恐らく明日奈ちゃんが乗っているのかもしれない。
確かバス通学だったと以前聞いた。科学センター行きのバスもそこで乗車する筈。そこから科学センターまでどれほどかかるか知らないが、よほど遠いのだろう。
そう考えたら私は本当に恵まれている。
明日奈ちゃんの住んでいる所は、スーパーがないとか言ってた。コンビニもないのだろう。アミューズメント施設とかもなさそう。そして大学に遠い。
私とは全く異なる住み心地だ。
そんな事を頭の中で想像していた時、私は今朝明日奈ちゃんがスポーツジムに通っているという話を思い出す。
『アタシほぼ通学前に通ってるから』
そんな事言ってたなぁ。まぁ、私には無縁なんですけど…
ふとバス停に足を止めた。
科学センター行きのバスはここで合っていると思うのだが、念の為に確かめようと時間表に目をやる。
ふむふむ…どこだ?
停車場所が漢字ばかりで読み方がわからないのが多かった。
科学センター行きを探し続けていると、急に後ろから一人の男性の声で話しかけてきた。
「あっ、学生さん?」
その声に振り向く。
さっきの白い服のシャツを着ていた男性の大学生だ。
見た感じ好青年のような姿で、なんか噂の黒髪マッシュヘアーの身長180cmあるだろうと伺える程高身長である。
「はい。そうですけど」
「ねぇねぇ、君うちのサークルの話聞いた?」
「あっ、私結構なんで」
これで引く動作も忘れずにっと。
こうすれば離れられるだろうと思った。
だがこの男性、距離を置くたびに詰めてくる。それはもうしつこく。
「一回話だけでも聞いてみない?うち結構女の子も多いし」
「あぁ、本当に大丈夫です。それでは失礼し…」
「おっ、ユウキ!どう?調子」
このマッシュの男、ユウキっていう人なんだ。
「おう!タクミ。こっちにめっちゃいい子いた」
めっちゃいい子?って、私!?
「その子?」
「おう!マジで可愛い!!」
またここにも無いことを……って、そんな事どうでもいい!
「うぉぉぉ!マジで!!」
もう一人の男性もこちらに歩み寄ってきた。
タクミっていう男性だ。いかにも顔つきがチャラい。しかもガタイもまぁまぁ良さそう。
なんだか怖くなってきた私は、その場を離れたくてたまらなかった。
「うちのサークルに興味ある?」
タクミっていう男性が話しかけてきた。
興味ねぇよ!勝手に解釈すんな!って言いたくなる。
しかも私は二人に、前と後ろで挟まれてしまった。
「ねぇ。俺達テニスサークルなんだけどさぁ。結構みんな仲良いんだよ。初めての人とかもめちゃくちゃ楽しいって言ってくれる人多いよ。しかもテニスも上達したりとかして…」
あぁ、ユウキって言う人絶対嘘やろ。もう、大学の友達に聞いた事ある。そうやって誘ってテニスとか殆どせずに女と男でチョメチョメする事が目的な人が多くてスポーツ系に入るとヤバいって。
それを目的として入ったとしても、めちゃくちゃ男女関係ゴタゴタになって最悪なキャンパスライフになっちゃうって。
こういう話を聞くと、そんな大学に行ったからって無理に恋愛なんてしようとしなくていいじゃん。肝心なスポーツに力入れろよって思う。
先輩と後輩との大学生恋愛はサークルからって言うの良くある事だけど、私は興味ない。
だって私、BLの方が好きだし。いや、そんな事どうでもいい。
「ねぇ?どう?興味ない?男女問わずめっちゃ楽しめるスポーツだよ?テニス」
タクミって言う人がそう言ってきた。
そうかもしれないけど私は興味ない。いくらスポーツ苦手な人が多くても、私はこれっぽっちもおもしろそうと思わなかった。
テニス漫画とかで、BL展開は注目度高いが、それは漫画の世界の話だ。
現実はこの有様だ。私を必死にサークルに入れたいとナンパもどきな勧誘が目の前に繰り広げられる。
というか話が鬱陶しくなってきた。
段々としつこさが増していっている。
「話だけでもどう?ちょっとだけだからさ」
「あの…もう行かなくちゃいけないんで…」
「え?だってバス昼からじゃないと来ないよ?まだ時間あるし。あっ、なんなら行きたい所あるなら案内するけど」
いやそうじゃない!こっちはしつこいからさっさとどっか行けって事を言ってんの!
相変わらずどちらも引き下がる事なく勧誘が終わらない。
こんなにしつこくされたら、大学で恐怖心が出てしまう人だっているだろう。
もしかしてこの人達今までこんな勧誘で生徒達を集めていたのか?だとしたら絶対ブラック企業とかしつこいマルチの勧誘と同じじゃん!
もう本当に嫌になってきたその時だった。
「ねぇねぇ。結構同年代の人いるよ?」
「いいえ!アタシは本当に興味ないです!」
「みんな初めそう言う人多いんだ」
「そりゃそうでしょう!こんなにしつこく来られたらそう返事する人も多いでしょう。その人達の発言はしっかり聞いてあげた方がより貴方先輩達の信頼も上がるでしょうし。そういうしつこく来られたって言う噂とかが出回っているから入る人少ないんじゃないですか?」
また白いシャツを着た人が誰かを勧誘していた。
説教混じりに怒りを静かに留めているであろうその人は、勧誘男性に目を合わせず私の前を通り過ぎて行く。
って、しつこくサークルの勧誘している男性を会話で振り払おうとしているあの人って…
「あっ!明日奈ちゃん!?」
私に気がついたようで、彼女はその声のする方に顔を向ける。
「あみ!?何してんの?」
と、明日奈ちゃんは私の方にわざわざ歩み寄ってくれた。
「どうした?あみ」
「あっ、いや…色々あってさ」
するとさっき私に絡んできた二人が、明日奈ちゃんの姿をジロジロと眺めているのが見えた。
その様子に堂々としている明日奈ちゃんは、居てくれるだけで心強く感じる。
「へぇ〜。お知り合いだったんだ」
「ねぇねぇ君?もしよかったらうちに入らない?テニスサークル」
「…………」
二人の男性に、やや睨みを効かせた目線で私を庇うかのように腕で囲ってくれた。
「今さっきあの人にも断っていたんですが?アタシは結構ですので」
「え〜?せっかく可愛い二人が揃ってるのに勿体無いよ」
「そうそう!この子にもいったんだけど、男女関係なしにみんな仲良いんだって!」
するとタクミという男性が、明日奈ちゃんの右肩にボンッ!と手を乗せた。
その時私は、完全に目的が違う!と女の感が働いたのだ。
「……あの、一つ聞きたいことあるんですが?」
明日奈ちゃんが二人に質問を投げかけた。
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