第216話 土と蜘蛛(4)
体育館になだれ込んだ神と人が見たのは、みなもの前で青い光を放つ人であった。
「
陽向が実菜穂の横に来ると、光を放つ人を見つめていた。実菜穂は、コクリと頷いた。
「呪はすでに解けた。この者は、身体に残っていた
みなもが書物を大切に預かる姿に、男は話を始めた。男の名は、
不安があったが、村の人々は歓迎してくれたこともあり、
ある夜、明良は村の歴史を調べるため、土の地に足を踏み入れた。そこで、月の明かりのなかに
「私は、ハスナからこの村の成り立ちについて学びました。ハスナとは、月明かりの夜にしか会えなかった。ハスナは自分を呪われた者であること。囚われた者であることを伝えた。でも、私はそれでもよかった。ハスナがそばにいてくれることで、この村がどんなに恐ろしくとも、耐えられた。だけど、ハスナは私に、村から逃げるように勧めた。私はどうしてもハスナを救いたかった。私を助けようとするハスナが、愛おしかった」
明良が、消えかえる声で言葉を並べた。
「その手段がこの書を、沼の地から持ち出すこと。誰に教わった」
「巨大な蜘蛛です。アワ蜘蛛と名乗っていました」
みなもが問うと、明良は声を絞り出し答えた。そろそろ、姿を保つのが限界を迎えていた。
「それで十分じゃ。お主の想いを述べよ。力になろうぞ」
「ありがとうございます。願うことは、この書をアサナミの神様に届けてください。そして、ハスナの神をお救い下さい」
明良はそう言い終えると、光を失いながら姿を消した。その場には、混じりけのない白い御霊が浮かんでいた。
死神が、浮かぶ御霊を丁寧に懐に仕舞い込んだ。
「みなも、いま明良さんが、ハスナの神と言ったけど。明良さんが恋したのは」
「そうじゃ。明良が見たのは神じゃ。土の神じゃ」
予想はしていたが、みなもの答えに実菜穂だけでなく、陽向も驚いていた。人と神が愛し合うこと。それは神の世界では禁忌であった。そのことは、雪の神である紗雪から聞かされていた。
「明良さんが呪に掛かったのは、そのためなの?」
「違うのう。呪はこの書を持ち出すときに掛けられたのじゃ」
実菜穂とみなもの会話を聞いて、霞がメモのことを思い出した。
「そうだよ。このメモだ。
霞がメモを取り出すと、実菜穂たちも覗き込んだ。
「それならば、これで解決ではないか。あとは、この書をアサナミの神に届ければ、すべて裁いてくれるであろう」
火の神が、退散の意味を込め、みなもの袖を引いていた。
「お主は、あほうか。山の神の封印を解いて、呪を祓ったのじゃ。この地を支配する天上神が、書を持った儂たちを、おいそれと帰すものか。いまや、
大らかだった、みなものオーラが引締まり、周りの空気が揺らぎなく、一瞬固まっていた。
「それは、どういことだ」
みなもの真意を含めた表情に、火の神もこの場を去ることができないと悟り、みなもの瞳を見つめた。みなもの瞳は、水色からさらに青みが増し輝いた。これと同じ瞳を火の神は、かつて見たことがあった。紗雪を救うために、行動したときに見せた瞳の色と同じであった。
「この村の天上神は、神の御霊を奪い、力をつけた。それは、放浪神が溢れていたことでも明白じゃ。風よ、もう話してくれてもよかろう。土の神を救うために、儂をここに連れてきたのじゃろ」
みなもが、濃く青く光る瞳をシーナに向けていた。
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