第187話 秋人と隼斗(1)
紗雪の姿を見つけると桃瑚売命は、「チっ」と悔しそうに舌打ちをした。
「待たせたみたいね」
静かに立っている紗雪の前に桃瑚売命が声をかけた。遠目に見れば、奥手で大人しい少女と、勇ましい少女武者が語り合っている姿に見える。
「私もいましがたここに来たところです」
「そう。それで、これからどうすればいいんだ」
桃瑚売命が
「桃瑚売命が言ってました『下手くそな
「はあぁぁぁ?」
桃瑚売命はわけが分からないという顔をして紗雪を見た。
「いましばらくは、ここで様子を見ていましょう」
紗雪が山の地の方向に視線を移していた。
川の地の
「ねえ、みなも。いまになって気がついたけど、ここは夕方のままだね」
実菜穂が村の小道を歩きながら、夕日を眺めていた。
「そうじゃな。鉄鎖の神の力で完全に外の世界と隔離されておる」
「そのことだけど。ここと村の外では何が違うの?」
クルリと周りを見渡しながら、実菜穂がみなもと向かい合って歩いている。とうぜん実菜穂は、後ろ向きで歩いていた。
「ここと外は切り離されておるのじゃが、実菜穂が生きているということ自体、なにも外とは変わりがない。ここが夕刻であること以外にはの」
「夕刻であること以外……ああ、待って。それって、もしかして時が止まっているってこと?」
丸くなった目でみなもを見た。その目は、小さなときから変わらない素直で、純真なままの実菜穂の目であった。みなもは、そんな実菜穂を愛おしく見つめていた。
「お主、なかなか鋭いのう。
「いやいや、それほどでもお。みなもといれば、大抵のことには驚かなくなるよ」
「そうか。話を戻すが、時が止まっているということは、ここにいる限り年は取らぬでな」
みなもが、軽く上目遣いで実菜穂を見上げた。実菜穂の反応が気になっていた。
「じゃあ、神様はともかく、私や
実菜穂が笑いながら夕日を見ている。みなもは、夕日が実菜穂の瞳に浮かぶものを輝かせているのを見つめていた。
(実菜穂。ここをすぐにでも出られるようにする。お主を悲しませることはせぬ)
みなもは実菜穂の横にそっと付き添い歩いた。
朝を迎えたナナガシラの門の前にスマホとタブレットを持ち、バックパックを背負った男が立っていた。秋人である。
「ここだ。間違いない。ナナガシラ。七頭村だ」
(嫌な予感はしていた。昨日からずっと実菜穂と連絡がつかない。陽向も同じだ。ここに来て、確信した。僕にも感じる。重い感覚)
異様な気配を感じながら、秋人が門に向かい歩いていった。
「えっ!」
門をくぐったはずの秋人が見たのは、ナナガシラの門である。
「こんなことって」
秋人は振り返ると、そこには辿ってきた道が見えるだけだった。
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