第156話 鶴と烏(1)
(いまのが
漣は真っすぐに視線を向け、光を目指し全力で突き抜けた。
「来ましたね」
漣が勢いよく門から飛び出してきた。東門仙の右腕が素早く漣の
グゥツィー!
鳥の首を絞めたような声とは、まさにこのことなのだと思える
(なに、なに?なんだ!)
いきなり首元を絞められた漣はキッと苛立ちの表情を見せたが、目の前の状況を理解するとその表情から勢いを失っていった。
というのも、鼻先を掠めるほどの距離に木が立っていたのだ。校庭の片隅に植えられていた
難を逃れ、ホッと息をつくと、漣は身体の力を抜いた。
「あっ、これは」
後ろから聞こえる声に漣が振り向くと、東門仙が目を大きくして固まっていた。襟首をつかんでいた手がゆるりと離され、動揺している様子であった。
「これは申し訳ありません。
東門仙の言葉に、漣はイラっとした感覚が心に積み重なった。
(ああ、そうですか。女が来たら悪いのか。いつもこうだ。女天狗は珍しいか)
漣の尖った目つきに、東門仙は自分の言葉が悪かったと悟った。
「私の言葉で気を悪くされたのなら、お詫びします」
東門仙が頭を下げている。見れば、漣とそれほど歳が変わらず、若い顔立ちである。鎧を
「
東門仙の腰が低い対応に、
(そうだ。この門の神は、水面の神と通じてここに導いてくれた。
「あの、私こそ助けてもらって礼も言ってませんでした。ありがとうございます」
漣が
頭を上げ、笑みを浮かべる東門仙の姿に漣は見とれた。門を護る役目から当然なのだが、門の神は
ゴツッ!
「いたっ!」
呆気に取られてポカンとしていた漣は、後ろに立っている
それを見て東門仙は「あっ」と驚くが、すぐに笑い出した。ともかく鬼門を抜け出したことに緊張が解けたこともあり、東門仙の笑う姿に漣も一緒に笑っていた。
「あっ、えっと、東門仙様だっけ。
漣がキョロキョロと辺りを見渡している。校庭の片隅にある木々に囲まれた場所。ある意味小さな世界ではあるが、その世界から視界を広げて校庭を眺めた。
「実菜穂殿も一緒でしたか。ここは、実菜穂殿と
「へー、学校かあ。私が知っているのはもっとちっこい建物だったよ。随分と大きな建物だなあ。これだとさぞや人も多いかな」
漣がジーっと校舎の方を眺めていると、人影がチラホラと動いていた。どうやら部活動の生徒が学校に来ていたようだ。
(村の外に初めて出た。これが、外の街というところか。ここから土の神の巫女を探す。その前に雪神様に会わないと。いったいどこから手をつければ・・・・・・)
「漣殿、もしよろしければ、水面の神が言う事情とやらを話してもらえますか」
外の世界で託された大義を果たす重さを噛みしめているところに、東門仙の声が漣の意識を現実に引き戻した。
漣は、ナナガシラの現状と人と神々を救うため、みなもたちが龍神を討つべく動いていることを説明した。東門仙は言葉をはさむことなく、真剣な瞳を向けて聞いていた。
「そうでしたか。
東門仙はみなものことを案じ、表情を曇らせていた。
「漣殿、私で何かできることがあればお手伝いをいたします。何なりと申しつけ下さい。ときに、漣殿は水面の神より何を頼まれたのでしょうか」
漣の顔がピクリと反応した。クッキリとした眉毛が引きつった。
「それが
漣が水色に輝く短冊を取り出した。
「なんと美しい短冊。水面の神が雪神に込めた深い思いが表れているのでしょう」
「何を意味しているのか分からないけど、私もそう思う。それにもう一つ役目がある。土の神の巫女を探すことだ。正直言うと、どちらも全く見当がつかない。村の外に出るのは初めてだ。雪神様は
「確かに。白新地は神でなければたどり着けない世界。しかも、雪神に許された神でしか門が開かれないと聞きます。まさに水面の神の短冊がその鍵であることは間違いないでしょう」
東門仙の言葉に漣がため息をつき、短冊を見つめた。その顔は
「あーっ、もう、本当にこれ、どうどうしたらいいんだろう。東門仙様、白新地の方角だけでも知りませんかー」
漣が泣きそうな顔をしながら短冊を掲げると、短冊は日の光と合わさり、水の波紋のように水色の光の輪を広げた。
「どうやら、水面の神の言葉が答えのようです」
東門仙が目を大きく開けて、漣の後を指さした。
漣は、東門仙の顔に意味が分からず振り向くと、東門仙と同じように目を大きくした。
漣と東門仙が見る先には、白い雪の結晶である
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