第119話 呪縛と解放(1)

 実菜穂、陽向、霞の三人が顔を合わせている。日はまだ昇っていない。薄明りのなか、微かな風が火照ほてった肌を冷ましていった。


 いまから三人はナナガシラへと向かう。家を出る前には、部屋を整理して出てきた。三人は同じことをしてきたことを知り、笑い声をあげている。なんてことのない女の子の会話である。


 三人の笑い声とともに、辺りの空気が澄みわたっていく。みなも、火の神、シーナが姿を現した。


「色々と手間を取らされてな、待たせてしもた。まあ、そのおかげもあるのじゃが、一つ知らせがある」

「知らせ?」


 みなもの言葉に三人が声をそろえて応えた。


「そうじゃ。優里ゆりという女子おなごじゃがの、生きておるぞ。無事じゃ」

「本当ですか?」


 霞が勢いよく、みなもの前に飛び出すと、次の言葉が待ちきれずに詰め寄った。みなもは、霞の勢いにたじろぎながら、固まって笑顔でいる。


「ああ、本当じゃ。死神しがみが優里の御霊が無事であることを確認しておる。あとは、居場所を突き止めるだけじゃ。そのために死神は動いておるでの」


 みなもが詰め寄って顔が触れそうになるところを、グイッと離していく。


 霞はみなもの言葉に全身の力が抜け、笑顔になった。


「しっかし、それでまた隠密行動おんみつこうどうだから、やってられないわよ。オスマシは、なに考えてんだか」


 シーナがプイっと横を向き、ふてくされた素振りをしている。それを横目に、火の神がヤレヤレと首を振りながら、みなもの方に視線を移した。


「そう申すでない。死神も他の分霊ぶんれいに頼み込み、情報を集めておる。おかげで儂らはナナガシラに集中できるのじゃ」

「まあ、オスマシが協力的に自分から動き回るだけすごいと思わないとダメか」


 みなもの言葉を聞きながら、シーナは、「確かに」と頷き納得していた。気持ちが落ち着いているシーナから、明るい光を霞は感じていた。


琴美ことみさん、優里さんのために動いてくれているんだ。何故だろう。心強くて、うれしいく思う)


「よいか。これよりナナガシラに乗り込む。この地には神々の御霊を奪い、人を支配し、あまつさえ人そのものを消そうとする者がおる。儂らはその者の正体を暴き、日の本に晒す」


「はい」


 実菜穂、陽向、霞が返事をした。


「風、時はない。ナナガシラに向かうぞ」

「はあーい。承知」


 シーナが右手の人差し指をピンと立てて、上に突き上げると実菜穂たちを旋風つむじかぜが包んでいった。次の瞬間には、ナナガシラの入り口についていた。


 大きな岩と木の柵が目の前に広がった。あの動画と同じ場所である。


「入るぞ」


 みなもを先頭に実菜穂たちは、ナナガシラへと足を踏み入れた。


 柵から入った瞬間、見えていた村の景色が一変した。


 夕暮れの景色が目の前に広がっていく。日が沈みかける、あの夕日が赤く輝く瞬間の世界だ。


「ねえ、陽向。私たち出発したの朝だよね」

「うん。まだ日が昇る前の時間。霞ちゃん、ここにくるのに時はどれくらい経ったの」


 実菜穂と陽向が夕日に照らされている景色のなかで、霞を見ている。


「シーナ、これは瞬間移動でしょ。時は経ってないはず」


 霞はシーナに確認しながら、状況が掴めないまま陽向に答えた。


「ねえ、みなも。ここは、何かおかしくなってるの?」


 実菜穂がみなもに話しかけた。みまもは、瞳を光らせながら、辺りを見回し確信したかのように火の神とシーナに頷いた。


「みなも・・・・・・どうしたの?」

「なんじゃ、ここは!実菜穂、この地には・・・・・・神がおらぬ」


 みなもは、沈まぬ夕日をジッと見つめ、ナナガシラという地に奥深く潜む謎を感じ取っていた。

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