第56話 神と巫女(11)

 実菜穂がドアを開けた。中は照明に照らされてフロア全体が見渡せる。三人がフロアに入るのと同時にドアが閉められた。


 カチリ!


 鍵が閉まるような音が響いた。でも閉められたのはドアではない。この五階のフロア全体であった。実菜穂たちは完全に五階に閉じこめられていた。


「ここにいるのは、一柱だけではないよ」


 陽向がまだ見えぬ姿を確かめながら周りを見渡していく。実菜穂と霞もグルリと見渡していく。

 

 霞は色を見ていく。


「影が見えます。一つじゃない」


「私も見える」


 実菜穂は水面の波紋のように気を張っていく。レーダーのごとく影を見つけた。


「一つ」

「二つ」

「三つ」


 陽向、霞、実菜穂が声をあげて数えていく。


「三柱がここにいる」


 三人が声を揃えて神様が存在するであろう場所を見つめていた。 


 クスクス笑う声がする。その声は強い攻撃的な響きを持ちながらも悲しげな音を含んで聞こえていた。


 笑い声が小さくなっていくと共にフロアにはキリが立ち籠め視界が遮られたが、すぐに幕が開くように霧は薄れていった。


 三人は、霧の中から姿を現した者に注目していた。そこに現れたのは三柱の女の子でった。どの子も同じような感じでありながら、それぞれ特徴を備えていた。


 一柱目は、赤い着物を纏い、黒い美しい長い髪をなびかせ、帯は背で大きく結ばれている。まだ幼さが残る可愛らしい神であった。その容姿には他にも特徴があった。何の神様かすぐに分かる。頭から伸びるのは角ではなく二本の長く白い耳。背中で結ばれた帯は尻尾のように見える。そう、ウサギの神であった。ただ、この女の子の眼は閉じられたままだった。

 

 二柱目は、青い着物を纏い肩まである銀色の髪。裾が膝下で切れている。綺麗な脚が目を引いた。赤色の神よりも大人しい感じがする。眼は丸く美しさより可愛さを含んだ色を放っていた。同じように二本の耳が立っている。その耳は半分で折り曲げられたようにピタリと閉じられていた。


 三柱目は、緑の着物を纏っていた。裾は膝上で止まっており、一見するとミニのスカートのようであった。顔立ちは一番幼く、闊達さも感じられた。白い髪はフワッとした感じでショート、大きな瞳がなおさら幼さと元気さを感じさせた。だが、その口元には絹のベールで覆われていた。


 眼と耳と口それぞれが閉じられた三柱を前に実菜穂たちは、その姿に何とも言えない空気を感じていた。


「実菜穂さん、陽向さん。あれって、見ざる、言わざる、聞かざるっていうものでしょうか。でも、見た感じはウサギさんなんですが」


 霞が眼を大きくして不思議な姿の三柱を見てる。


「うん。たしか兎の神様が同じことしているのを祀っている神社があるよ。でも」


 実菜穂の声が堅くなっていた。陽向はその意味を察していたが、霞はまだ理解できておらず、可愛い姿を眺めていた。


(でも、何だろう。この嫌な感じは。重く、苦しく感じるななぜなんだろう。みなもと話すことができれば分かるのに)


 実菜穂は微かに身体を震わせて三柱を見つめていた。

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