第27話 巫女と物の怪(1)

 実菜穂、陽向、霞の三人が建物の前にいる。時刻はとうに0時をまわっていた。当然、未成年が出歩く時間ではないが、ここは致し方ないところである。もちろん三人の側には、みなも、火の神、シーナがついている。まずトラブルに巻き込まれることはないであろう。ただ、目の前のビルを除いては・・・・・・。


「これは、どういうことじゃ」

「本当だ。この建物はすでに魑魅魍魎の住処ではないか」

「物の怪の類だけではないぞ。あの上には!」


 みなもと火の神がグッと最上階である五階を見つめた。


「はーい、みなも、日御乃神、そこまで。どう、驚いた?最近、みなも夜に出歩くことないから気付かなかったでしょ。これがいま街中で起こっている事よ」


 フワッとみなもの前に現れ、シーナが辺りをぐるっと見渡す。みなもは黙ってシーナを見ている。


(風の意図は分かる。儂を諭しておるのじゃろう。どうも、御霊を返そうとしたことを大事と思っておるようじゃ)


 軽く息をつき、改めて建物を見つめた。火の神もその異様さを分かっており、みなもの驚いている理由も理解ができた。


「風、これからどうするというのじゃ。まさか、実菜穂たちだけでここを祓えというのか」

「ご名答!さすが、みなも。そう、ここは三人で行ってもらいまーす。巫女仕事の体験学習です」

「お主、いい加減なこと言うでない。ここは経験ある者でなければ祓えぬぞ。三人で纏めて行っても返り討ちにあうかもしれぬ」


 シーナに意見するみなもは、珍しく興奮していた。火の神は、みなもの考えはすでに承知しており、同じ意見である。実菜穂、陽向をいきなり危険な目にあわせることなど許せるはずがないのだ。


(あいつは、巫女を危険にさらすことは絶対にしない。自らが盾となるつもりだ。風の神はいったい何を考えているのだ)


 火の神もみなもに同調してシーナを睨みつけている。

 

 シーナが実菜穂、陽向、霞の肩をポンポンと叩いていく。実菜穂と霞はシーナのお気軽な声にキョトンとしていたが、陽向だけは表情が緩んでいなかった。


「陽向ちゃん、顔が怖くなってるよ。なんか、まずいことある?」

「うん。実菜穂ちゃん、この建物はすごく危険だよ」

「そんなに?嫌な気配はしているけど、陽向ちゃんが思うほどは感じなかった」

「私も実菜穂さんと同じです。微かですが異様な気配を感じるだけで」


 陽向の真剣な表情を見て、実菜穂と霞はようやく、みなもとシーナのやりとりがただ事ではないと理解できた。


「陽向ちゃん、ここは何が危険なの?」


 実菜穂の問いに陽向は建物を下から上に見上げていく。霞も息を飲んで陽向の答えを待っていた。


「実菜穂ちゃん、霞ちゃん。この建物、五階まであるけど、どの階にも物の怪がいるよ。しかも、階が上がるごとに強力な気を感じる。そして、最上階には一番大きな気を放つものがいる。ここからでは、それが何か分からないけど、他の階とは比較にならないものがいる」


 陽向が五階の窓を見据える。実菜穂も霞も同じように見上げた。陽向に言われ、霞が改めて建物を見ると色の違いがハッキリと分かった。特に五階には、他にない強烈な光が漏れているのが見えた。陽向はこれを感じていたのだ。


「みなも、五階には何がいるの?」」

「風よ、説明してもかまわぬじゃろ」


 みなもがシーナを見るとシーナはにこやかに頷いた。もっとも、反対されたとしても、みなもは、シーナを押さえ込んで説明するつもりであった。


 みなもがピッと指を伸ばし、建物の下から上にと示した。


「この建物は、面白いことに下から上にとうごめくものが決まっておる。一階には雑多の類のもの、二階は人の悪意ある思念、三階には邪鬼、四階には放浪神じゃ。ここまでならば、いまのお主等で祓えるじゃろ。じゃが、五階におるのじゃ」

「何がいるの?」


 実菜穂が息を飲み言葉を待つと、みなもは実菜穂たちを憂う光を瞳に宿した。


「あそこにおるのじゃ。御霊を持った神が」


 みなもの瞳は強く輝いていた。

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