第16話 コンクリートと夜の華(7)
シーナの声と同時に、フッと何かが切れるような感覚がした。霞はシーナがなぜ叫んでいるのか分からず、首を傾げていた。
「オワーっ。ガーッ、イてーよ」
距離のある叫び声に霞は振り返ると、香奈の横に吹き飛ばされ、悶えながら叫んでいる男子がいた。
(えっ、なに?)
恐々と男子に近づく霞は、「えっ」と目を開いた。
憐れにも男子は、右肩を押さえ、顔面蒼白で震えている。右足はあらぬ方向に曲がっていた。
「あーあ、折れたね。肋も折れてるね。まあ、頭からいってたら死んでたよ。これは運が良いのか悪いのか。さぞ痛かろう。霞、やるね~」
「でも、シーナ、私ほとんど力入れてないのに」
「だから、あなたには私の力があるのよ。これでわたしの言ったこと分かったでしょ。人で霞に逆らえるものはいないよ」
「そんな」
霞が香奈の側に行き、男子を見る。呻いて自力で動けそうな状態ではない。さっきまでの香奈への威勢のよさは、感じられなかった。
「ほら、霞、とっととケリつけてよ」
「えっ、でも、もう十分じゃ」
「何言ってるの?キッチリ香奈と切れさせないとこいつはまた絡むよ。霞にも先は見えてるでしょ」
知らなかったとはいえ、男子を吹き飛ばしたことを反省してシーナを見るが、「やらなにのなら、わたしがやる」と言わんばかりの激しい目で霞を睨んでいる。
(あー、ダメだ。分かるよ。シーナめちゃめちゃ怒ってる。シーナが手を出したら、本当にこの人を殺しちゃう。あー、でも、香奈さんとは切れさせないといけないし)
霞が香奈に目をやると、霞を心配した目で見つめている。いままで自分が受けていた暴力による支配が、今度は霞に向いたことを憂いている目をしていた。神の眼を通して霞はその光を感じている。
(香奈さんて本当は優しいのかな。この人からの支配から逃れたかったでけなのかな。いまは、それが分かる気がする。シーナが睨んでいる。香奈さんのこともあるし、なによりこれ以上、目の前で血しぶき上げられるのは見たくないよ。ここは)
霞はスッと息を吸うと、男子の胸ぐらを掴み、表情を変えて声を張り上げた。
「てめえ、いいかよく聞け。金輪際、香奈には関わるんじゃない。私の目の前にも現れるな。もし、ノコノコ現れたら、両手両足の骨をバラバラに砕くぞ。分かったら3秒以内に返事しろ。さーん・・・・・・」
「あぐぁ、わっ、分かった」
霞が秒読みをすると同時に、男子は青ざめた顔で答えた。
「返事が、はえーんだよ」
男子の顔を外して床を殴りつけると、地響きと共にコンクリートの床が砕けた。我ながら理不尽な怒りであると霞は頭で呟いた。
「お前のスマホを出せ」
男子からスマホを取り上げて、急連絡通話をタップした。
「はい。救急をお願いします。場所は・・・・・・・」
霞は救急車を呼ぶと、スマホから嫌な気を感じた。
(この中に香奈さんの写真もあるのな)
「いいか、お前。本当ならこのまま放って帰るとこだが、救急車を呼んだのは香奈の温情だ。だが、次はないから憶えておけ」
霞がスマホを壁に投げつけた。スマホはコンクリートの壁に当たると、粒子状に砕けて消し飛んだ。シーナが「粉砕」と口にしていたが、その意味が分かった。
「香奈さん、行くよ」
霞は香奈の手を引いて、走ってビルを出た。
「霞、香奈を連れてこっちに。ちょっと、霞に見せたいものがあるから」
シーナがビルの裏手へと霞を導いた。
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