第2話死神篇(2)

 列車が停止し、乗客がホームにあふれかえると、美樹子は左右を見渡した。母の友里恵が、待っているか確認したのだ。

 時刻通りには、駅で待つと電話で話していた。ホームに出ると、母の友里恵のすがたを確認できた。友里恵が、美樹子を見つけ、駆け寄ってくるのが彼女にわかった。

 暗殺者はその時、けもののように動いた。トロンとした目つきから、野獣の目つきに豹変し、身一つで客席から立ち上がり、敏速に行動した。暗殺者は、背広の内ポケットからアイスピックの短いのを掴み隠し持っていた。

 友里恵が、駆け寄ってくるのと同時に、美樹子も歩みだし、お互い抱き合おうとした刹那、友里恵のうしろの首に、アイスピックが突きたった。

 プロの手によるものなのか、血しぶきが出ることはなかった。友里恵は、舞い踊るように倒れた。

 美樹子は、最初何がどうしたのか理解できなかった。母が、滑って転んで倒れたのか、貧血でも起こしたのか、理解に苦しんだ。友里恵を抱き起して叫んだ。

「母さん、母さん、どうしたのよう?」

 美樹子はしだいに、声を震わせ、美死体に対して、慟哭し始めた。友里恵の躰を揺り動かした。友里恵は、静かな死に顔だった。苦悶の色ひとつなかった。

 美樹子は、周囲を見渡した。普段通りの乗降客が、にぎわせているだけだった。

 そのとき、声がした。陰鬱な声色だった。

「おまえの大事になるものを奪ってゆく。おまえの大切になるものも奪う。しかし、おまえは殺さぬ。せいぜい泣きわめいて、ジタバタすることだな」

 

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