愛しき君へ

森本みさ

第1話 出会い


「転校生を紹介します。」


 先生からこの一言があった途端、クラス中は大盛り上がり。


「イケメンかな?」

「女の子だったら可愛い子がいい。」

「隣の席だといいな。」


 至る所で話し声が聞こえる。



 ガラッ



 同級生の期待に満ちた目が一気に黒板に集まる。

そこには身長はそこそこで素朴な顔立ちの男の子がいた。

見た目は優しそうな印象である。


 女子達からは何となく落胆した雰囲気を感じた。

芸能人並みのイケメン転校生を想定していたのだろうか。


「初めまして、風間蓮です。父親の仕事の関係で転校しました。

よろしくお願いします。」


 クラス中から拍手が湧く。

風間くんは1番窓際の後ろの席に座ることとなった。

 


 これが風間蓮と私・伊藤花梨いとうかりんとの出会いである。



*****



 高校2年生当時の私にとって高校はとても窮屈だった。 


 同級生と話を合わせるために好きでもないドラマやアイドルを好きと言といい、無理に笑っている。


 本当は興味なんて微塵もないし、何が面白いのかわからない。

しかし、話を合わせなければ一気に仲間はずれだ。



「この前の月9見た?告白シーンやばかったよね。」

「見たよ。夕日のシチュエーションの告白とか憧れるよ〜。」 

「うちも告られる時は夕日のシチュエーションがいいわ。」

「てか、転校生超イケメン想像してたわ。」

「イケメンに飢えてるよね。うちら。」


下校中、同級生の優子、綾、里穂が私の隣で話している。



「うん。わかる。」



 そして、私が笑顔で同調する。いつものパターンである。


 本当は流し見していたので、夕日の告白シーンがあったかは覚えていない。

同級生に常に気を遣って正直もう疲れた。

誰か他の話題にしてくれないだろうか。



*****



 優子、綾、里穂は高校2年生で4人とも初めて同じクラスになった。仲良くなった経緯は初めての席替えの時に、たまたま席が近くなったからだ。


 3人は華やかで目立つ存在であり、いわゆるスクールカースト上位と呼ばれる子たちだ。

一方の私は地味でスクールカースト上位とはとても言えない。

 つまり、私たちは4人グループだが、3人におまけの1人という構図で成り立っている。



 今さらクラスの他のグループに行くことは孤立のリスクもあり、難しいので、頑張って3人について行く必要がある。



 そのために、興味のないドラマやアイドルを見ているのだ。



*****



 3人とは電車の方面が違うので、最寄駅でお別れとなる。

正直、別れた時が1番ホッとする。


 ホームに着くと転校してきた風間くんが電車を待っていた。

どうやら電車の方面が一緒のようだ。

風間くんはまだホームに慣れていないせいか、至る所をキョロキョロしている。

そして私と目が合うと嬉しそうにこちらに歩いてくる。


 こちらは疲弊し切っているのにやめてほしい。

ありがた迷惑であるが、印象を悪くする訳にはいかないので、笑顔で対応する。


「同じクラスの伊藤さんだよね?よかったら途中まで一緒に帰っていいかな?まだ、道に慣れていなくて。」

「いいけど、よく私の名前覚えてたね。」


 純粋に驚いたのと、少し皮肉も込めて聞いてみた。


「うん。伊藤さんのこと知ってたから。」

「どういうこと?私たち今日、初めて会ったよね?」



「気持ち悪いかもしれないけど、ずっとキミに会いたかったんだ。」



 転校してきた同級生に突然言われた。

 しかし、私は彼と以前会った記憶はない。




 彼は何者?

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