2
柊高校の面々も記憶改竄を受け、トラックに突っ込まれた校門もぐしゃぐしゃになってしまった中庭も綺麗に整備され直し、本当に元通りに戻ってしまった。
私は若菜ちゃんと一緒にお弁当を食べていた。
「あー……私も古都音みたいな恋がしたいなあ!」
すっかりと『炎の退魔師』にのめり込んでしまい、連日そんなことを言っている。私は彼女があまりにも私の境遇に似過ぎていて、素直に賛同できなかった。
「そーう? しんどいだけだと思うよ」
「なんでそんな意地悪言うのかな、真夜ちゃんは?」
「大事な人が傷付いて守られるばかりじゃ、きっとしんどいと思うんだよねえ」
「でもマンガだから、利矢は絶対に勝つじゃない」
そこに現実持ってくるんだ。私は思わず半笑いになってしまった。
そうなんだよね、マンガだったら絶対に勝つんだけれど。現実は怪我人が出ているし、たくさんの修繕作業の人やら記憶改竄の人やらが動いているのを知っていたら、おいそれと守られたいなんて言えなくなってしまう。
そんなことを思っていた矢先で。私は背中が急激に冷たくなるのを感じた。
「真夜ちゃん?」
若菜ちゃんは全く気付いてないけれど。これは。
悪魔だ。それも今までの液体状の悪魔なんかじゃ遠く及ばないような、強い悪魔……嘘、今までこんなヤツ、会ったことがなかったのに。
私は持っていた弁当包みを無理矢理結んで持って、立ち上がった。
「真夜ちゃん、本当にどうしたの?」
「ト、トイレ! 大のほう!」
「ま、まあ……行ってらっしゃい?」
「行ってきます!」
食事中とは思えないくらいに下品なことを言ってから、私は必死に走って、スマホで尚也宛のアプリにタップした。
【なんか付けられてる。怖い】
普段、尚也も退魔師である前にいち高校生だ。風紀委員に紛れ込んで、制服の身だしなみを見るという大義名分の元、悪魔のチェックをしているから、毎日私と一緒にはいない。
お願い、アプリに気付いて……!
私が走っている中、だんだんバサリバサリという音が大きくなるのがわかった。
「おお……いい魂の色……いい匂い」
そう言って走る私に併走してきた悪魔を見て、私は「ぎゃっ!」と叫んでいた。
コウモリの羽根を背中に生やし、黒い髪に赤い目をした、極上の美少年が隣にいたのだ……でも。今まで人の姿をはっきりと取った悪魔なんて、見たことがない。
「あ、あんた誰!?」
「はあ!? 俺様を知らないのか。聞いて驚け、見てわめけ。俺様はアスデモウス様のいちのしもべ……トビア様だ!」
「アスデモ……知らない! 悪魔の名前なんて!」
「ヘイヘイヘーイ、そりゃないぜお嬢さん。とにかく、お前からは悪魔を強くする生命力を感じる! とにかくいただかせてもらうぜ、その魂をなあ……!」
「ひぃ……!」
今までの悪魔は、液体状な上、人に取り憑いているのしか見たことがなかったから、私が狙われている理由まで教えてくれなかった。
でも。このトビなんとかが言うことが本当だとしたら……私、悪魔を強くするエネルギーを持っているの? そんなの奪われたら……大変なことになるんじゃ。
恐怖で体が竦んで動けない。もう、走れない……もう、駄目。
私がそう思った……そのときだった。
いきなり投げ込まれたのは、催眠スプレー。そして銃声。私は思わず制服の襟で口元を抑えたところで、制服の詰め襟で鼻を抑えた尚也が現れた。
「悪魔……お前、真夜になにをした!?」
「まだなんもしてねえよ! そして危ねえだろ、銀の弾丸なんて!?」
実際のトビなんとかの羽根に若干かすったらしく、焦げたにおいがする。銀の弾丸は悪魔にとっての弱点を固めた弾だ。ちゃんと当たれば悪魔は死ぬ。
その中、なおも尚也は起こって銃を向ける。
「人型悪魔……上級か!?」
「あ、あの悪魔……アスデなんとかの部下だって……」
私が必死にそう訴えると、尚也はパチンと瞬きした。
「……アスデモウス。夢魔。あいつも夢魔か!?」
そう言って尚也は、銃を向けて悪魔に連射した。悪魔は必死に避けているけれど、尚也はなにかを狙ってか、羽根や足にギリギリ当たるようにしか打っていない。どういうつもりなんだろう。
そう思ったところで、尚也は言った。
「……お前を倒すよりも、もっといいことを思いついた」
そう言って、空になった銃にまた弾丸を詰めると、それで今度こそ心臓目掛けて打ち抜いた。そのまま悪魔が消滅するのかと思いきや。
いきなり羽根が消えて、そのまま宙から悪魔が落ちてしまった。
「えっ、えええええええええ!!」」
私は意味がわからなくて、思わず尚也を見た。
「あの……尚也? なにをしたの?」
「こいつは悪魔の中でも低級の夢魔だから、情報を抜くことができないかと思って、俺の退魔力を込めた弾で実体化させた。悪魔は基本的に霊体が基本だから、実体化したらほとんど人間と変わらなくなる」
「なんてことしてくれんだよ、お前!? 俺様の羽根が! ああああああ…………!!」
悪魔は髪を掻きむしっている。私は悪魔を指さして「どうするの?」と尋ねると、尚也は輝く笑みを浮かべた。こういう笑みを浮かべているときの尚也は、いつも決まって性格が悪いことを言う。
「こいつは今日から、真夜の使い魔だ。死ぬまでこき使ってやれ」
「えっ!?」
「はあああああああ!?」
尚也の笑顔に、私たちは悲鳴を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます