第15話 新聞の発行

 製紙産業が軌道に乗った後、教会と魔術師ギルドからある依頼が舞い込んできた。


 話を聞いてみると人手不足のため聖書や魔術書の印刷・製本をモルガン商会に委託できないか、とのこと。

 たしかに紙もインクもうちの商会が作っているのでうちがやったほうが早いし安いのは確かである。断る理由もないので二つ返事で了承した。


 そんな流れでモルガン商会の印刷部門が立ち上がった。

 最新式の活版印刷機も本国から複数取り寄せて、しばらくは聖書や魔導書の製本の委託業務を粛々とこなしていた。


 その後のある日、総督から忙しくて手書きする暇がないので総督府からの告知文書を代わりにモルガン商会で印刷してくれないかとの依頼が来た。


 議会で決まった決定事項や新しい法律の施行などを都度掲示板で告知しているが、なにぶん人口が増えて告知事項も掲示板も数が多くなったので手書きじゃやってられなくなったとのこと。

 そこに都合よくモルガン商会が印刷委託を受けていたので頼んできたようだ。


 印刷自体はやればいいだけだが、そこではてと思いついた。

 ――これ新聞発行できるじゃん、と。


 思いついてからは早かった。

 まずは新聞記者として町の情報通を雇いニュース記事を作る部門を立ち上げた。


 また印刷部門から希望者を集めて新聞課を作成。

 最低でも週刊を予定しているのでおそらく激務になると伝えたが、皆毎日内容のよくわからない聖書や魔術書を印刷するのに飽き飽きしていたようで面白そうな新規案件に飛びついてきた。


 そうして試行錯誤の末出来上がったのが週刊新聞「モルガン・タイムズ」である。


 ◇


 モルガン・タイムズは大反響であった。


 商会で量産しているとはいえ紙はまだまだ高いので最初は掲示板に張り出す形式ではあったが、お金を持っている商人などはさっそく定期購読を申し込んできた。


 マセソン商会のジェームスさんなどもそのうちのひとりである。

 うちの商会でも真似していいかと食い気味に聞いてきたのでどうぞどうぞと伝えた。許可しなくても需要があればどうせ真似されるし新聞社はたくさんあったほうが切磋琢磨できていいと思うからだ。


 新聞には広告枠を設けて広告を募集したところ、町の商店から次々に依頼が舞い込んできた。広告料がとれたので新聞自体の料金もだんだん安くできるようになり、定期購読者もそれにつれて増えてきた。

 記者も執筆に慣れてきたので記事の本数も安定して増え、新聞も折込チラシを挟めるぐらいの枚数にそのうちなっていった。


 モルガン・タイムズの記事の内容はわりと真面目で、総督府からの告知や町内のニュース、本国のニュースとちょっとだけエンタメ記事みたいな感じであった。

 個人的には四コマ漫画とかも載せたかったけど、そもそも漫画家がいないのと活版印刷で週替りで絵を載せるのが難しいので泣く泣く諦めた。


 そんな新聞の需要を見て他の新聞社も立ち上がったりもした。

 そちらは対抗してゴシップ記事増し増しの前世で言うスポーツ紙みたいなタイプでそっちはそっちでけっこう需要があって売れているらしい。


 半年後ぐらいには「マセソン・ウィークリー」というマセソン商会発行の新聞社も立ち上がったりして世は新聞社の群雄割拠な時代に突入した。


 ちなみにマセソン・ウィークリーは本国側で編集されているため本国のニュースが詳しくて嬉しいと総督が喜んでいた。

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