転生エルフの産業革命日記

たーびん

プロローグ

第1話 転生と世界を巡る旅

 前世のことを思い出したのはちょうど100歳のときだった。


 100歳といっても人間のそれではない。前世の記憶でいう"エルフ"のような長命な種族としての100歳である。一族の中ではこれでやっと成人ぐらいの扱いだ。


 その一族では100歳で成人式のような儀式を行うのが慣例であった。

 族長曰く、祖霊の魂の一部をその身に宿し精霊との契約を継承とかなんとか言っていたが慣例的な儀式としてあまり考えずに参加したのでよくは覚えていない。

 重要なのはその儀式によってか前世の魂かなにかがこの身に宿り、前世の記憶を思い出したということだ。


 僕は転生したのである。それもファンタジーな世界に。


 ◇


 前世の記憶を思い出したことで世界の見方が変わってしまった。


 この世界で僕が生まれたのは前世の物語に出てくる"エルフ"のような種族だった。

 俗世から離れ深い森の中に住んでおり精霊信仰をしている。個人差はあるが1000年を超える長命で、噂によると族長などは1200歳以上らしい。


 また一族の精霊信仰についてだが、前世でのそれとは明確に違う点がある。


 この世界には精霊が本当に存在しているのだ。


 精霊は幽霊のように明確な実体を持たない儚い存在だが強力な力を持っている。

 この世界では森羅万象あらゆるものに精霊が存在しており、それらと契約することで魔法のような超常的な力を行使できるようになる。自分も先日の儀式で契約を継承できたらしく、精霊への依頼によってそれらの行使ができるようになった。


 魔法使いである。いや正確には精霊使いか。

 なんにせよ前世の価値観からすると感動モノであった。


 それでしばらくは精霊術の修行を熱心にやっていたのだが、だんだんと前世の価値観が悪いように作用してきた。


 なにが問題か。

 そう、ここには「娯楽」がないのである。


 前世の記憶にあったさまざまなゲーム、小説、漫画、インターネット、美味しい食べ物飲み物。あらゆるものへの郷愁が湧いてきて耐えられなくなってしまった。


 森でやることと言ったら採集、狩猟、弓と精霊術の修行ぐらいである。

 長命種のせいか性には淡白であり、あまり男女関係というのも積極的ではない。飲み会みたいな催しも僕の成人の儀式がひさびさの祝祭であったぐらいだ。お酒も貴重でそういう場ぐらいでしか振る舞われない。


 スローライフというといいが、時間感覚がのんびりしすぎている。前世の価値観が混ざってしまった僕は娯楽に飢えてしまっていた。


 なので僕は旅にでることに決めた。


 家族にも族長にも反対されたが(曰く森の外は攻撃的な魔物や人間がおり危ないとのこと)、このままだと精神的に参ってしまうので反対を押し切り出発した。


 ◇


 ――それから何十年かいろんな国々を旅をした。


 結論を言うと世界はまだ中世であった。

 いや旅自体はとても楽しく、ファンタジーな世界の様々な事象を体験することができた。剣と魔法の世界。いろんな国や文化。盗賊や魔物なんて危険にも出くわしたりもした。


 しかしながら心のどこかで期待していた現代的な娯楽はこの文化レベルでは当然存在しなかった。


 旅で助かった点として僕の一族の精霊術はとても強力なものだったらしく、日銭を稼ぐために登録した冒険者ギルドで重宝されたことだ。


 冒険者ギルドは各国が運営している体の良い何でも屋の元締めみたいなものである。


 ギルドは僕のような森から出てきた世間知らずでもそこらへんのゴロツキでもとりあえずは仕事を斡旋してくれた。もちろん最初は簡単な仕事からだが信用を積んでだんだんと難しい仕事も任されるようになった。

 ギルドの登録証が近場の国をまたいだ身分証明書としても使えるのも旅にとても助かった。各国の冒険者ギルドで斡旋された魔物退治や貴重な薬草採集などをしながらいろんな国を旅した。


 旅の間に友人、知人もたくさんできたが基本的に短命種族のためもうほとんど引退してしまったらしい。

 ただその友人のなかのひとりがどうやらギルドでだいぶ偉くなったとのこと。

 手紙で就任の連絡と、ついでに呼び出しを受けた。


 なにやら特別な依頼があるらしい。

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