ポータブルフレンド

センシティブわかめ

ポータブルフレンド

 ミニトランクを左手にさげて歩くいつものおさんぽコースには、ノラ猫ちゃんが多い。

 ふわふわ、もふもふ、可愛い可愛いおともだち。

 けれどたまに、悪い子も混ざっている。手を出すと、かみつく子、ひっかく子、にげだす子。叩いたり、わるぐちを言ったり、無視したりする、学校にいる子達とおんなじ。私をいじめる、悪いおともだち。

 どうしてみんな、そんなひどいことをするのかな。私はみんなと、なかよくしたいだけなのに。一緒になかよく、遊びたいだけなのに。

 痛いから、悲しいから、やめてって言う。けれど、学校の子達はそんな私を見て、けたけた笑うんだ。なんにも、面白くないのに。ほんとに、なんにも。

 猫ちゃんは笑わない。けれど、ことばがつたわらない。だから、学校の子達とおんなじ。笑わないけど、わかってはくれない、やめてはくれない。

 私もなかよしのおともだちがほしくて、猫ちゃんと握手をしようとした。でも、ひっかかれてしまった。肉球をなでて、反対の手であたまをなでてあげたかったのに、ひっかかれた。痛くて、悲しくて、涙がでた。どうしたらやめてくれるのかわからなかった。言葉では、つたわらなかった。

 そのとき思い出したのは、おかあさん。おかあさんは、私が悪いことをしたとき、『バカだから、口で言ってもどうせわからない』って、私をぶつ。猫ちゃんがバカかは、わからなかった。けれど、言葉はきっとつたわらない。おかあさんにとっての、私とおんなじ。

 だから、私はぶった。猫ちゃんを、手にさげたミニトランクの角で、おもいきり。猫ちゃんは暴れて、もっとひっかいた。痛くて痛くて、悲しくて、やめてほしくて、でも、言ってもわからないから、もっとぶった。

 ずっとぶちつづけて、そうしたら猫ちゃんは、やっと“言うことをきいて”くれた。肉球をさわっても、あたまをなでても、ひっかいてこない、かみついてこない。私にできた、初めての、なかよしのおともだち。

 うれしくてうれしくて、でも、猫ちゃんはついてきてくれなかった。いっしょに来てよって言ったけど、うごかなかった。

 でも、あんまりぶつときっと痛くて、かわいそうだったから、私は猫ちゃんを運んであげることにした。ミニトランクに猫ちゃんを入れて、一緒にたくさんおさんぽをした。

 せっかくなかよくなれたのがうれしくて、じまんしたくて、でも、私にはおともだちがいないから、おかあさんに紹介してあげることにした。

 おうちに帰って、お部屋でおさけをのんでるおかあさんに、ミニトランクを見せた。

「見て、私ね、おともだちが出来たの」

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ポータブルフレンド センシティブわかめ @wakame0531

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