仇討ち(かたきうち)
伊藤ダリ男
短編小説 仇討ち(かたきうち)
京極進之介は、父の仇討ちの為、倉部勇と言う名の男を探して旅に出た。
親戚筋からは、江戸町奉行所の届け出の他、町奉行所の謄本つまり仇討ち赦免状と、半年分の暮らしに必要な金子、それに仇(かたき)の似顔絵も滞りなく用意されていた。
「進之介、何とか無事に帰って来てください」
という母の本心は、口に出すと
「進之介、見事父の仇を討ってまいれ」
となり、進之介も本心は、
「嫌だ、嫌だ」
と思いながら、口に出すと
「母上、この進之介を信じてお待ちください。きっと父の仇を取ってきます」
となった。
どうせ進之介の腕では、倉部と言う一刀流使いの仇(かたき)には勝てるわけがなく、返り討ちにされるのは落ち。
それは誰もが分かっていた。
進之介の叔父、すなわち進之介の父の兄である京極孝順(こうじゅん)は、進之介が、倉部勇と遭遇しないように、似顔絵に細工し、仇の特徴を加筆しておいた。
「これで進之介は、倉部と言う仇を探しても見つけることが叶わず、そのうちに手持ちの金子が無くなれば旅の空で果てるであろうよ」
「父上、どうしてそのような面倒なことをされるのですか?進之介が返り討ちにされば、この仇討ちの件は、これで一件落着になるのではありませんか?」
「確かに仇討ちも返り討ちも認められており、進之介が返り討ちにされるとそこで終わりじゃ」
「では、わざわざ、似顔絵に細工する意味があるのでしょうか?」
「一太郎、よく考えてみろ。進之介が、返り討ちになれば、家はどうなる?」
「家督相続が途絶えることになり、お家お取り潰しになります」
「と言う事は、進之介のあの厳しい母をこちらが面倒見ねばなるまい」
「そうなりますね」
「旅の空で果てるか、返り討ちになるかは、進之介の母の面倒を見るかどうかに掛かっていて、どちらがわしらに得だと思う?」
「なるほどですね」
「さらに進之介は、仇討ちに行かないとなれば、このわしが、弟の仇としていかねばならない。それは絶対に避けねばなぁ」
「ですから進之介には、仇討ちに行くよう仕向け、更に仇討ちが成就されないように細工をしたわけでございますね」
「その通りじゃ」
「流石父上です。この一太郎、感服致しました」
「進之介など生きている価値の薄い者。上手く利用してあげなければなぁ、一太郎」
「ははは。父上全くでございます」
進之介が、返り討ちになり家督相続が途絶えたとなれば、京極家のひとつはお取り潰しになり、世間体を気にする親戚筋にも都合が悪いことであった。
だから孝順のみならず、親戚の筋は、進之介が仇討ちに出かけた後、行方知れずになることを望んでいた。
そうすると、面倒くさい後始末も無く、面目も保たれ、皆平穏でいられるからであった。
叔父である旗本京極孝順(こうじゅん)は、仇討ちに行く数日前に、珍しく進之介の屋敷にやって来て、進之介を激励した。
「進之介、見事我弟の仇をとり、京極家に誉をもたらすが良い」
「はい叔父上そのつもりでおります」
「武士道を忘れずに死ぬ気で頑張れよ」
「はい。叔父上。皆さまの期待に添えるよう、何が何でも父の仇を取ってまいります」
「うむ。それでよい」
と言った孝順も心の中では、こう言った。
『京極家を恥に晒す死に様だけやめてくれ』
仇探しの一人旅は、不安で寂しいものだった。
その道中、家の事、残してきた母の事を心配し、そして叔父の子、一太郎を考えると我慢できなくなっていた。
同じ京極家でも、長男として家督を継いだ叔父と次男として生まれた父のその後の待遇は、天と地の差があり、そもそもそれが納得のいかないところであった。
進之介の亡父は、倹約しながらなんとか生活をする下級武士。
叔父は、旗本屋敷に住む優雅な上級武士であり、しかも叔父には、容姿が良く、文武両道に秀でた十五になる後継ぎもいた。
それが一太郎であった。
進之介は、その一太郎が特に面白くなかった。
キリリと締まった男前の一太郎に比べ、進之介は、下膨れ(しもっぷくれ)な顔立ちで、目も小さく、誰がどう見ても不細工であった。
仇討ちの旅に出る前日のこと。
一太郎に『挨拶に来い』と言われた進之介は、行ってみると無理やり木刀を持たされた。
「進之介、仇討ちが見事成就できるようこの俺が稽古を付けてやるから、有難く受けろ」
「いや、一太郎、仇討ち前の大事な身体だから、今日はやめておく」
「まぁ、いいじゃないか進之介、ほれ、あそこで皆が首を長くして待っているぞ」
見れば、親戚の者たちは、大勢集まっていた。
仇討ちの前に進之介から挨拶があると呼び出されていたのだ。
母もその中にいた。
そして進之介は、その前に放り出された。
一太郎はこう言った。
「お集まりの皆さま、進之介殿は、明日仇討ちの旅に出かけますが、その前に皆さま方に一言ご挨拶したいと申しております」
進之介は、考える間も与えられず、親戚の前で何かを言わなければならなくなった。
「え~と、わたくしは、皆さんに恥をお掛けしないように、頑張ります。え~と仇を必ず討ってまいります。明日出かけます。え~と父の仇です」
進之介は、上手く言えず、顔が火照るのを感じた。
「進之介殿は、これからその心意気を皆さまにお見せしたいと言うので、不肖ながらこの一太郎が、進之介殿の仇役となり、お手合わせすることになりました」
一太郎は、このように言うと、進之介と立ち会った。
そして武士らしく進之介に一礼をした。
進之介は、ここまできてこの立ち合いをやめるわけにはいかなかった。
「さぁ、進之介、わたしは、憎き仇である。掛ってこい」
そう言って一太郎が、木刀を構えた。
ところが、進之介は、刀を持つと震えが来て、腰が後ろに退け、その不様(ぶざま)な格好は、親戚の者たちの嘲笑の的となってしまったのだった。
「それじゃ、仇討ちは、できないだろう。討ってこい進之介」
と一太郎から言われた後は、何度も何度も一方的に叩かれ、参ったと言っても、叩かれた。
「痛い」と進之介が言うと、親戚の者たちは、その都度大笑いした。
進之介の腕では、一太郎に一振りも返すことなど無理であったのだ。
『顔も駄目なら、学問も駄目、剣の腕はまるっきり駄目な進之介が、一太郎に勝てるものなどひとつもない。いや勝てるとしたら恥を知らない事だ。ははは』
と、親戚から笑いものに晒された。
母は、進之介のその姿を見て、恥ずかしい思いに耐えていた。
叩かれながら、笑われながらも、辛いのは自分より母なのだと思い、進之介は、じっと歯を食いしばった。
進之介は、一太郎と同じ十五であるのに、愚図で、鈍間(のろま)で、人に笑われる自分にほとほと愛想が尽きていた。
「こんな世の中、不公平で嫌いだ」
と、進之介は、旅の空で思わず叫んだ。
それから凡そ三ヵ月の後の事。
親戚の思惑通り、進之介は生活に行き詰った。
叔父上達から頂いた半年分の金子をどこかに落としてしまい、それから三日も飲まず食わずであったのだ。
道端の犬が何かを食べていると、それを奪っても何か口に入れたいと思うほどに飢えていた。
どうせ飢え死にするのなら、寺まで行くと手間が省けるというもの。
後で叔父上から不甲斐ない甥でも最後は死ぬ所まで辿り着いたと少しの自慢になるかも知れぬと必死になって寺に向って歩き出した。
ところが、そこまで後少しと言う所で、目が回り動けなってしまった。
それから暫らくすると通りすがりの男が、道に倒れていた進之介声を見つけ、声を掛けてきた。
「おい、大丈夫か」
「腹・・・」
「腹を壊したか」
「いや、腹がへって、目が回るので・・・」
「なんだ。行き倒れかい。名はなんと言う」
「…進之介」
「進之介、近くに一膳めしやがある。そこまで歩けるかい?」
「あぁ~」
「それじゃ無理だな。よし、俺の肩に掴まりな」
「すみません」
「気にすることはねぇ。これから飯を食わせてやるからな」
「面目ございません・・・」
と、この男は、進之介を一膳めしやまで連れて行った。
「進之介、飯は、最初ゆっくり食え」
「・・・」
そう言われた進之介は、先ずは、ひと口飯を口に持って行くと、後は何が何だか分からないほど、勝手に口の中に飯を突っ込んでしまった。
頬がこれ以上ないくらいに膨らんでもまだ飯を入れようとするので、この男は、どんぶりを取ってしまった。
「おい、そんなに早食いすると今度は、喉に詰まって息が出来なくなる。まあ汁でも少し飲んで、一度休んでから、また食え」
進之介は、ただ頭をこくりと垂れ、この男の言うままにした。
久しぶりで腹一杯のなった進之介は、今度は、何も言わないまま寝てしまった。
目が覚めると、そこは一膳めしやの上の泊り部屋で有った。
男は、障子戸を開け、外を眺めていた。
進之介は、床から飛び出てその男に平伏してお礼を述べた。
「昨日は、見ず知らずのあなた様に命を助けられ、この通りでござる」
「良(い)いってぇことよ」
「しかし、私は、持ち合わせが無く、どのように返したらよいかわかりません」
「だから、良いってぇことよ」
「しかし・・」
「気にすんなぁ。金子は、沢山有る。ほれ」
と、この男が見せた巾着袋は、親戚筋から半年分の旅費として進之介が頂いたもの。
「あ~。それはわたしの落とした巾着袋」
「え~、お前さんのかい」
「はい。三日前に落としました。それには、三か月分の金子、およそ六両が入っている筈でしたが」
「その通りだ。六両と一分と少しが、入っていた」
「じゃぁ。それを私に返してください」
「勿論返すが、お前さんは、何処でこれを落としたと思う?」
「さぁ。随分探しましたが、分かりませんでした」
「だろうなぁ」
「え?何処だったのです」
「厠だよ」
「え?」
「しかも草むらの厠でな」
「草むらの厠?あっ・・・」
「そこで俺は、お前さんの野糞を思いっきり踏んでしまって。あっちゃーと思って見たら、その隣にこの巾着が落ちていたと言う訳さ」
「はぁ。これは大変申し訳ないことをしてしまい。面目ございません」
「ま、良いってぇことよ」
巾着を返して貰ったが、中身を見ると既に一両は、無く残り五両と少し。
「実は俺も腹を大分減っていてなぁ~。すまん。お主の巾着袋から少しくすねてしまったが、返そうにもこちらはスッカラカン。ははは」
「何を言います。こちらの方がお礼を言わねばなりますまい」
「そうか。では、今夜の酒代と食事代そして泊り賃をお願いしてもいいかの」
「もちろんです」
進之介は、この男に一両で命を助けて戴いたことを思うと、何かを返さなければと思ったが、この男には、欲がなく、進之介はこの男と話していると段々この男に興味
が沸いてきた。
翌日、一膳めし屋に支払いを終えるとこの男は、どこかに行こうとしたので、進之介もこの男の後に付いて行くことにした。
どうせあてどない旅、何とかなると腹をくくったのであった。
「あのぅ、何処へ行くつもりですか」
「さぁ」
「あのぅ、仕事はしなくて良いものなのですか」
「仕事はせにゃならん。何せ稼がない事には、食うことも泊ることもできないからな」
「そうですね」
「進之介は、何処へ行くつもりだ」
「さぁ」
「仕事がしなくて良いのか」
「今のところ、金子は、まだ三月分ありますから、差し迫っての事ではありませんが、何れしない事にはと思っております」
「はぁ。呑気だね」
「どうも」
と言いながら、この二人が、ぶらぶらと旅をしていると、賑やかなところに出くわした。そこは大勢の人が行き来して、まるでお祭りのようなところであった。
進之介は、周囲の賑やかさを目で見て楽しんでいると、この男は、突然、剣を抜き大勢の人の前で大声をあげた。
心の準備の無かった進之介は只々びっくりした。
「やいやぁー、皆の衆、拙者を見れば、さも貧乏浪人に見えましょうが、ここに五両ある。はい五両見せて」
「え?五両?」
「早くその巾着袋から五両出して皆に見せなさい」
そう言われ、進之介は何のことかまるっきり理解できないまま、巾着袋から五両を出して、人々に見せた。
「この五両は、拙者を斬ったお方に差し上げましょう。但し・・・。但し、拙者が、勝った場合一両貰います。剣に自信のある方は、どうぞどなたでも。・・・そう言うから
には、拙者は、些か腕に覚えがござるゆえ、拙者は、この手ぬぐいで目隠しを致す。さぁ、これでこの五両を貰おうとするお方は、ござらぬか」
と声を掛けても誰も来ない。
何度も声を掛けても来ない。
「やはりこの商売は駄目か」
とがっかりしたところ、一人の侍が出てきてこう述べた。
「本当に目隠しをするのじゃな」
「それはもう約束通りに致します」
「よーし。では、儂は、ここに一両を置く。いざ勝負と致そうか」
と、この侍は、一両を進之介たちのいる前に置いて、刀を構えたところ、この男は、こう述べた。
「ちょいとお待ちを。闘う前に拙者がどのくらい強いか、ほれ、そこに落ちている木の木っ端を拙者目掛けて放ってくれ」
男は、そう言うと目隠しをし、それを見届けた後、この侍は、男目掛けて、拾った木の木っ端を次々と投げた。
するとこの男は、豆腐でも切るようにその木の木っ端に剣を素早く振った。
そしてその木っ端は、すべて間二つに分かれ、切口から相当の剣の使いで有ることが、皆の目に留まった。
この芸を見ていた周りの衆は皆拍手をした。
侍は、一両置いたまま走って逃げ去った。
その夜、この男は、進之介にこう言った。
「この一両は、進之介からくすねた一両と同じ。返すことが出来てよかった」
「そんなこと言わないでください。あれは、わたしからのお礼のつもり。どうぞ受け
取ってください」
「そうか。そんなら遠慮なく」
そう言い、男は何の屈託(くったく)も無くその一両を胸に仕舞い込んだから、進之介は、思わず『にこっ』としてしまった。
翌日、再び二人の旅は始まった。
「あの~。知り合って三日になりますが、あなた様のお名前は、まだ聞いておりませんが」
「名前などどうでも良い。気にすんなぁ」
「いやぁ、気にすんなぁと言われても、名前は有るのですよね」
「ん、まーな」
「では、お聞かせ願えませんでしょうか」
「どうして?」
「あなた様を呼びたいとき、どう呼べば良いか迷っているのですよ」
「そうか、それは悪かったな。では、あなた様で良いのでは」
「は?」
「今まで通りと言う事で」
「はぁ。あなた様?」
「ん?なんだい?と言う具合に」
「ぷっー」
と、進之介は吹いてしまった。
翌日もあてどない旅に出かけ、人が集まるところに出ては、例の一両掛ける仕事をしたが、誰も声を掛けてくれなかった。
その翌日も駄目であった。
「この商売は、中々上手くいかないものだなぁ。そこらで昼寝しながら、行く末の事を考えようか」
「そうですね」
と二人は、近くに流れていた川に面した草むらの中に身を転がし、昼寝することにした。
暫くして、進之介が起き上がり、この男を見るとさも気持ちよさそうに寝ている。
その時ふと、腕に指の爪半分ほどの痣が有るのを見てしまった。
そして、進之介は、まさかと思いながら胸にしまっておいた倉部勇の似顔絵を開き、その特徴を見ると、同じところに同じ痣がある。
然し顔は、言われてみれば、どことなく似ている程度で確信は持てなかった。
進之介は、思い切って寝ているこの男を揺り動かしこう言った。
「倉部殿。倉部勇殿では有りませぬか」
「ん~。なにごと?」
と半分寝ぼけたこの男は、目をこすりながら、進之介を見ると、進之介は、刀を抜いて鬼のような形相をしている。
すかさず身をひるがえした。
直後、男が寝ていた草むらに刀がブスリと刺さった。
更に刀を抜いて、再び進之介は、突進してきたが、この男は、ひらりとかわした。
「待て、待て。進之介。悪い夢でも見たのかい?それとも気が違ったか」
「倉部勇、父の仇」
「はぁ?拙者は、倉部という者ではない」
「黙れ。倉部。父の仇」
「おいおい。勘違いも甚だしいぞ」
「何を言うか、倉部~」
という具合に、進之介は、刀を振りながら、父の仇と叫び、男を追いかけた。
この男は、斬られまいと逃げたが、何時までも追いかけてくる。
やがて男は、八幡神社まで逃げてくると、大勢人がいるのが分かった。
どうもお祭りか何からしい。
そこで人ごみに紛れ身を隠そうとした。
ところが、遠目で男が八幡神社に向ったのを見て進之介は、大分遅れながらも、この男を追いかけた。
半時程して男は、ここまで来れば、大丈夫と腰を下ろしたところ、真後ろから進之介の叫び声がした。
「倉部勇~。父のかたき~」
「あちゃー」
と人ごみの中、二人は、子供がする追いかけっこの様に人波をかき分けて、とうとう男は、観念した。
「やぁ。進之介、恐れ入った。はぁはぁー」
「はぁはぁー。くぅらぁべぇ~」
「倉部ではないと言っているのに、はぁはぁ」
「はぁはぁ。ちちのぉかたぁきぃ~」
と二人は、息を切らしながらその場で倒れていると、大勢の見物人が、・・・
どうしたのかと集まって来た。
「どうも仇討ちらしい」
「この若いのが、こちらの侍を仇討ちにするらしい」
「どう見ても返り討ちにされるであろう」
「いやぁ分からんぞぉ。仇討ちの存念は、何よりも強いと言うからな」
「これは見ものじゃ」
「ほれ。倒れてないで始めんか」
「そうそう。見事仇討ちできれば、ご祝儀はずむぞ」
それを聞いて男は、むっくりと起き上がり、進之介にこう言った。
「おい進之介、如何にも拙者は、倉部勇。お主の父の仇よ」
「倉部~。父のかたき~許さん」
と叫んで進之介は、刀を抜き、再び突進してきた。
男は、進之介の突進には、単純だが鋭さが有り、十分気を付けるよう心した。
更に剣を振り回した進之介に周囲の者たちは、やんや、やんやと喜んだ。
そろそろ頃合いも良く決着を付けなければと、男は、剣を抜いた。
すると進之介は、腰が引け、刀にも震えが伝わり、傍から見れば、かなり滑稽で、それがまた見物人を集めてしまった。
「進之介、どうした」
進之介は、ただ刀を左右に振るだけで、男の鋭い返しに何度も腰を引いた。
「あははは」
と、周囲が笑うので、男も大いに笑って、そこに隙が出来た。
すると、進之介は、刀を持ち替えいきなり突進してきた。
男は、驚きながら身を返したが、進之介の刀が男の脇腹にぶすっと刺さったのだ。
「ううぅ。やられたぁ」
と、刀を差したまま、男は倒れた。
まさか自分が、仇討ちが出来たのかと進之介は、きょとんとしてそこに突っ立ってしまった。
周囲の見物人がまたやんや、やんや、と沸いた。
すると、今度は、男がいきなり起き上がりこう言ったので進之介は、驚いた。
「ありがとうございましたー。無事進之介は、仇討ちが出来たと言うことで、ご祝儀が有れば、どうぞお投げ下さい」
すると、周囲の見物人が、小銭をわんさと投げてきた。
「面白かったぞ~」
「進之介さんとやら。迫真の演技だなぁ。本当かと思っちゃったよ」
「いやぁ、久々に良いものを見せて貰ったなぁ」
などなど、賛辞を戴き、それに対して、男は、ぺこぺことお辞儀をしていた。
進之介は、その有様を見て、男は、やはり仇討ちの倉部などではない。
自分は、頓珍漢でなんて馬鹿なのだろうかと項垂れてしまった。
「おい進之介、ボヤっとしてないで、早く小銭を集めて」
「はい」
と、言って進之介は、小銭を一生懸命集めるのであった。
「あなた様」
「ん?なんだい?」
「わたくしは、てっきりあなた様が父の仇ではないかと、間違っていました」
「良いってぇことよ」
「しかし、あなた様を斬ろうとまでして、本当に・・・」
と、進之介は、この男に謝っている自分という者が惨めに思え、涙を流した。
「まぁ、良いってことよ。それよりこの銭を見な。二両は、ある」
「本当に?」
「あぁ。よーし、これから何か旨いものを食って、明日の計画を練ろうではないか」
「明日の計画?」
「そうよ。商売よ。ははは」
その夜、少しお酒が入った男は、自分の本当の名前は、黒部伊佐次郎であり、齢二十ちょうどと言う事を話してくれた。
「倉部勇と黒部伊佐次郎、呼び名は何となく似ているなぁ。でもこの似顔絵は、全然違う。拙者は、もっと美男子だと思っていたがなぁ、進之介」
「そう言われればそうですね。然し腕の痣(あざ)は?」
「あ?これ?これは痣ではない。虫刺され。十日もすれば、小さくなるよ」
「え?虫刺され。あっ本当だ」
「な」
「はい」
これからは、本名で呼んでも良いと言われた。
この黒部伊佐次郎と言う男は、一刀流の師範代まで上り詰めた男で、剣の腕は、相当であった。
それを見込まれ、仕官するものの、武家の決まり事にどうにもなじめなかった。
結局は、仕官の口から離れ、一人旅をする羽目になったしまったと言う。
それを聞いて安心した進之介は、今までの経緯をこの伊佐次郎に話した。
「しかしなぜ進之介の父上は、その倉部に討たれたのか?」
「その辺は、良く分からないのですが、父の名は、京極礼順と言い、叔父の名は、京極孝順。実はこれは母からの受け売りですが、父は叔父と間違われ、討たれたのではないかと」
「すると、その叔父というのは?」
「はい旗本屋敷に住む上級武士であり、江戸下屋敷家老を務めたこともあります」
「で、お主の父親と叔父が勘違いされた理由は?」
「父の礼順は、大人しく、殆ど無口と言ってよいのですが、兄である孝順は、猛々しいところが有り、同じ兄弟でありながら、全く違います。ところが、唯一俳句という共通の嗜好があり、時々家をふらっと出ては、野や山に句を読むに出かけることが度々ありました。父が殺された時は、そのような格好であり、自分を斬った男には、面識はなく、自らを倉部勇と言っていたと、息を引き取る前に出会った商人の男に告げたひと言が、最後だったとの事と聞いています」
「なるほど、でその叔父は?」
「今もって健在ですし、特に変わったことも有りませんが、母が言うには、最近叔父上の警護の方が増えたとの事」
「京極孝順」
「はい?」
「いや、拙者は、その名を聞いたことがあるような」
「本当ですか」
「いや、無いような」
「どっちですか?」
「ん。色々あったのだろうな」
「ん?色々とは」
「さぁ」
「伊佐次郎様?」
「なに?
「色々とは?」
「さぁ」
翌日から、進之介と伊佐次郎の稽古が始まった。
剣を覚えるには、十年の苦行は当たり前なこと。
しかしいくら教えても駄目なものは、駄目で進之介はそのど真ん中にいた。
「だから進之介。そう格好つけなくとも良い」
「しかし、相手が剣を構えると手が震え、腰が引けてしまうのでござり・・」
「だからそれでよいと言うのだ」
「しかし・・。」
「良いか。先ず、進之介は昨日の様に、拙者を倉部、父の仇と叫び、直進で掛ってまいれ」
「では、そうしますが・・」
数日このような稽古を続けた。
進之介は、剣は駄目だが、役者として食えるのではないかと言うくらい、演技は、素晴らしかった。
そしてある日、伊佐次郎は、進之介に意外なことを言った。
「進之介は、本当の仇を見つけたくはないか」
「はい。もちろんでございます」
「しかも、仇討ちができて母上に報告したいのだな」
「その通りです」
「では、これから仇に勝つ方法を教えよう」
「え?あるのですか、そのような方法は」
「進之介、これは一度しか通じない。失敗すればそれでおしまいになる。それでも良
いか」
「是非わたくしにその方法を伝授してください」
更に数日が経ち、この二人は、人が大勢押し寄せるところへ出かけ、その日から仇討ち芝居をやり、再び金を稼ぐことにした。
進之介の倉部に対する怨念の深さ、それに対して人違いと言いながら逃惑う倉部を扮する伊佐次郎。
お客さんは、この芝居の面白さに初めから釘付けにされた。
然し倉部(伊佐次郎)が進之介に追いつめられると、倉部は、いきなり剣を抜き、自分は、その仇の倉部とである言い、態度を一変、進之介に恐ろしく立ち会う。
すると今度は、進之介は、怖気づき、腰が引け、手に震えが来て、笑いの的になる。
そしてこの劇の最高潮は、油断した倉部を刺し、見事仇討ちを成し遂げるというものであった。
「母上~。ついに、ついにこの進之介は父の憎き仇、倉部勇を討ちましたー」
と涙ながらに言えば、皆から拍手が起こり、もらい涙する者も出てきた。
徐々に演技も板につき更に客は、盛り上がり、場所も東から西、北から南へと移動するうち、江戸では、有名になって来た。
間もなく、京極家にその噂が入って来たのは、ごく自然なことであった。
「父上、お聞きになりましたか?」
「進之介の事か。先ほど中間の勘助から聞いたが、あの馬鹿、何をやっとるのじゃ」
「わたくしが取捕まえて来ましょうか?」
「それはならん。ことを仕損じると噂が大きくなるだけ。先ずは、居場所を探り出す事じゃ。話はそれから。良いな」
「はい父上」
ということが有ったとは露にも知らず、二人は今日も、大勢の客が見ている中、迫真の芝居をして、金を稼いでいた。
それを遠くから探っていた一人の侍がいた。
「進之介」
「はい」
「どうも今日の芝居中、遠くで妙な侍がこちらを覗き見しているような気がした」
「わたくしは、何も気づきませんでしたが」
「もしもそいつが倉部であることも考えねばならぬな。ま、そうなれば、なったで、先日の稽古通りにすれば良い」
「はい」
「命が掛かっているのだよ」
「はい」
「妙に明るいな」
「最近伊佐さんとこうしているのが楽しくて、例え返り討ちにされても悔いはありません」
「ほう。それは、それは」
その頃、京極孝順の屋敷では、探索から帰って来た家来と孝順がひそひそ話を始めていた。
「では、その男は、倉部なにがしという者ではないのじゃな」
「左様で。進之介殿は、伊佐さんと呼んでいるようです」
「その伊佐さんは、いったい何者か」
「その男は、どうも流れの浪人風情で金に困りふら付いていたところ、進之介殿が仇と間違って追いかけたそうです。それを見ていた町人が面白いと言うので、投げ銭をしたところ、これで儲けることを知り、それからあちこちでその芝居をしているようでございまして」
「なんということじゃ。この京極家に泥を掛けるとは。明日にも一太郎と共に出張り、進之介を痛い思いをさせなければ気が済まん」
と、些か興奮した孝順であった。
翌日の事。
孝順と一太郎は、昨日家来から聞いた、進之介の居場所を頼りに馬を走らせた。
昼頃になると近くでおおよその検討を付けたところに到着。
二人は、聞き込みをしながら、進んでいくと、その日の夕方に隣村の神社で仇討ちの芝居が行われるとの噂を耳にした。
そこで二人は『めしや』の二階を借り、そこで時が来るまで休むことにした。
「進之介、今日はどうも嫌な予感がするなぁ」
「じゃぁ止めますか?」
「いや、折角お客さんが来るのだ。嵐だろうと止めるわけにはいかないであろうよ」
「では、早めにやって早めの終わり、早めに帰って、早めに寝ますか?」
「おー、なかなかの良案。それにするか」
「はい。では、そろそろ支度に掛かりましょう」
という具合に伊佐次郎の「嫌な予感」に従って行動した二人は、いつもより半時程前に始めた。
その頃『めしや』二階の二人は、ゆっくりとした昼寝から起きたばかりだった。
神社の境内に大勢のお客が祭りを楽しむ中、その人波をかき分けて、ふたりの芝居が始まった。
「倉部~、勇~父の仇~まてぇ」
と、進之介は、刀を振りながら、伊佐次郎を追いかける。
「まてまて、俺はそのようなものではない」
「嘘を吐くな、ここにある人相書きを見れば、そっくりではないか~。倉部~覚悟~」
と言えば、客が『待っていました、進さ~ん』
「お主は何か勘違いを起こしている俺は、倉部などと言う者ではないと言っているのに」
「この卑怯者。父の仇~いざ覚悟~」
と、進之介は刀を振りかざす。
「待て、待て、拙者は、お主もお主の父など、全く知らない。助けてくれ~」
と、伊佐次郎は、這いつくばりながら、逃げようとする。
「白(しら)を切るか、このイモ侍!!」
と、刀を顔の前まで降ろす。
沢山の拍手が起きる。
と、今までは、この辺から、大逆転する筈であった。
それは、進之介から執拗に仇とされ、それに違うと言っていた男が、いきなり態度を変え、剣を抜き、如何にも拙者がお主の父の仇、黒部勇であると言い、形勢が逆転する場面であった。
ところが、その時いきなり男がひとり出て来て、この芝居の途中に横やりを入れた。
その男は、昨日芝居を遠くから見ていた妙な侍であった。
その時この男は、伊佐次郎を指さしてこう言ったのだ。
「その男が、申す通り、その男は、倉部勇ではない」
「え?」
と、進之介は、意味が分からずにいた。
伊佐次郎は、注意深く見守った。
周囲の客もいつもと違うので、これは、新しい何かだろうかと騒ついた。
「そう言うご貴殿は、どなた様で?」
と、進之介がその男に問うと、男は答えてこう述べた。
「拙者は、お主の探している倉部勇でござる」
「なんと」
この侍は、正真正銘の倉部勇であり、まさに進之介の父の仇であった。
倉部もこの芝居の噂を聞いて真意を調べなければと思ったのであるが、余りにも自分の名が軽々しく使われていたことに腹を立てつい名乗り出てしまったのだ。
「では、父の本当の仇は、ご貴殿で?」
「その前にお主は、京極孝順の息子か何か」
「いいえ、私の父は、その孝順の弟で礼順。父の仇は、倉部勇と聞いております」
「なるほど。では、拙者は、お主の叔父と父上を間違って斬ってしまったことになる」
「やはり母の言った通り・・・」
「仕方ない事。拙者がお主の父の仇に相違ない」
「仕方のない事ではすまされない」
「返り討ちも仕方ないと言ったのだ」
「何を~。倉部~父の仇~」
と、進之介は、いつにも増して、憎しみを込めて叫んだ。
観客は、やんや、やんやと沸いた。
更に倉部が、剣を構えると、進之介は、突然腰が引け、刀に震えが伝わり、その滑稽さにたくさん拍手と笑いが起こった。
そして倉部が、近づいてくるその時を狙って、体をくるりと半回転。
尻を突き出して『おしりぺんぺん』と進之介は、尻を叩いて見せた。
これには、倉部も面食らってしまい、剣を引いてしまった。
武士たるもの背中から斬ってはいけないのであり、それを巧みに利用した、伊佐次郎の特訓の成果が今、十分に発揮できたのだ。
お客は、その面白さに、笑い転げ、倉部もつい仇討ちの最中であることを忘れてしまった。
そこに隙間が生まれ、進之介は、体を戻し、素早く倉部を突いた。
倉部は、それを避けようとしたが、進之介の方が一歩早く、倉部の脇腹を刺していた。
倉部は、苦しそうにしながら、進之介の剣を素手で掴み、腹から抜いた。
伊佐次郎は、それを見てこう言った。
「進之介とどめを!」
進之介は、父の仇と叫び、震える手で刀を持ち直し、倉部の首に一振りしようとしたその瞬間。
「この馬鹿者、そこに直れ」
と、叫んで出てきたのは、あの孝順と一太郎。
「叔父上、只今この進之介がこれから、父の仇である倉部勇にとどめを刺し、恨みを晴らすところでござる」
進之介が、そう嬉しそうに言うと、孝順は、いきなり進之介を殴り倒した。
進之介は、意味が分からず、何か自分が大きな間違いをしてしまったのかと考えていると、叔父の孝順は、続けてこう述べた。
「お前は、仇討ちの旅に出かけている筈だと思っていたが、この有様はなんだ」
「叔父上、だからこれは、仇討ちで」
と、進之介が言うなり、孝順は、またも進之介を殴り、更に一太郎も、進之介を足で蹴り飛ばした。
そして今度は、倉部に唾を吐き捨てる様に、こう言った。
「伊佐とやら、芝居は終わった。これで何処へでも行ってしまえ」
と懐から、五両を取り出し倉部に投げつけた。
その時倉部は、力を振り絞って、腹を押さえ、孝順の前にすっくと立ちあがった。
「なんだ。それでも不服か」
「孝順」
「何だとー、なれなれしく呼ぶな。わしを誰だと思っている?」
「二十年前の事、東阿倉川藩に逗留し、そこで下級武士倉部馬太郎の妻『とよ』に横恋慕し、それを手籠めにした後、命まで奪った京極孝順であろう」
「な、なに~?」
「倉部の弱みに付け入り、『とよ』を手に入れ、今度は、出世の邪魔になると、命まで奪いその後出府。上手く京極家の跡取りにおさまり、何食わぬ顔をしているが、その実、母を殺した男、それは孝順お前に相違ない」
「何だと。いきなり来て、世迷言を」
「世迷言ではない。証拠は、この仇討ち状である」
「仇討ち状。そんな馬鹿な」
「拙者が子供の頃、その噂が色々出回って、自分の本当の父は、良く分からなかった。然し、昨年冬に他界した倉部馬太郎の遺書に、拙者の父は、その馬太郎であり、母は、『とよ』であった。そして今までの事が詳細に書き認められていた。その後数人の証言を得てこの仇討ち状を貰うことができた。後は、ご存じの通り、そこにいる進之介の父をお前と間違って殺害してしまった。今、進之介にとどめを刺されるところであったが、それを阻止したのは、拙者の本当の仇なるお前だから、人は、最後まで分からないもの。真の仇討ちの機会をお前自ら作ってしまったとは、策士策に溺れたと言うべきか。皮肉というものよ」
「父上、それは本当の話しですか?」
と、不安げな一太郎。
「ん~。小癪な。おい、進之介、早くとどめを。父の無念を今晴らすのじゃ」
と、孝順が進之介に言うと、今度は、伊佐次郎が横やりに入った。
「進之介、先ずは一旦棚上げだ。良いな」
「はい」
「という訳で、倉部殿、お主の命が尽きる前にお主の仇討ち見事成就してみよ」
と、伊佐次郎が倉部に言うと
「かたじけない」
そう返事した倉部は、腹の痛みを堪え、剣を孝順に向け詰め寄った。
すると一太郎が、父の前にしゃしゃり出て、剣を抜き、こう叫んだ。
「この一太郎、父に代わってお前を成敗してくれるわ」
そして、倉部に向かったが、倉部は、軽く剣を上げ下げしたと思うと、一太郎は、ものも言わずに倒れ、血が身体から地面に溢れた。
呆気ない死であった。
その状況を見て、進之介は、尻餅をつき、孝順は、固まってしまった。
「京極孝順、母の仇。積年の恨みを晴らしてくれるぞ」
と、言うと、孝順は刀を抜いたが、震えが酷く、しかも腰を引いて、それはまるで進之介いや、進之介よりもっと不様であった。
「いざー」
と言うと、孝順は、半回転して背を向けた。
そして犬の鳴声の真似をして、相手を油断させる作戦に出だ。
「うお、うお、うおおん」
周囲の大勢は、余りにもその仕草が、情けなく、それでも武士かと揶揄してきた。
それを聞いて怒った孝順は、体を戻し一突きをするつもりでいたが、倉部は正眼の構えのまま孝順の眉間をすっと斬った。
勝負は、一瞬にしてついた。
孝順は、一太郎に重なって息絶えた。
「お前は犬にも劣る」
と言うと、倉部は、片膝を地に付け、刀を地に差した。
そして身体が倒れるのを支えるよう剣を握るとそのまま動かなくなった。
進之介と伊佐次郎が、倉部に詰め寄った。
間もなく倉部は、最後の言葉を残して死んだ。
最後の言葉は、こうだった。
「今、やっと母の恨みを晴らしたが、この仇討ちは、果たして誰の為だったのだろうか、それを分からないで死ぬのが悔しい」
一年後、進之介は、裃(かみしも)を着て、江戸城への正門を潜った。
正式に旗本の職を賜るためであった。
旗本京極孝順と一太郎の死、更に父礼順の仇討ちを見事成し遂げたことにより、京極家本家は、進之介が家督を全て受け継ぐことに決まったのだ。
進之介の隣には、同じく裃を着た伊佐次郎がいた。
進之介と伊佐次郎は、出会った時から、臭い縁であった。
これから進之介は一国一城の主となるのである。
そして伊佐次郎は、進之介を補佐する重役になるかもしれなかった。
しかし進之介は、家督を継ぐ前に心残りが一つあった。
それは、倉部が、死に際に言った『仇討ちは、誰の為か分からないで死ぬのが悔しい』という言ったことである。
それを自分と重ね合わせ、自分の成就した仇討ちは、だれの為だったのか、答えを出さなければならないと思った。
自分の為ではなく、父の為でもなく、全ては、母の為だったのではないかとふと考えて、それで本当に納得できるのか、やはり分からなかった。
進之介の心残りは、答えを出せずにいたが、空を眺めると青く晴れ晴れと広がっていて、今その答えを出すのに悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきた。
「まぁなんとかなるよ」
と言ってくれた、伊佐次郎の言葉が、今の進之介には一番だった。
そうだ、折角のこの美しい空を台無しにすることは無い。
今を楽しもう!
そう思うと元気が出て進之介は、大きく胸を張った。
空は、何処までも青かった。
短編小説 『仇討ち』 終わり
仇討ち(かたきうち) 伊藤ダリ男 @Inachis10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます