第7話第二試験を見抜け
「それでは第二試験会場までお連れします」
一時間後、不知火は客室を訪れると水色を連れて部屋を出ていくのであった。
私は正直どっちでも良かった。
ここで終わっても楽園行きでも…。
何でも良かった。
最期の時まで葵くんと傍に居られるのであればそれだけで満足だった。
そこに光が居たり他の女性が居るのは少しだけ気に入らないが…。
だけどまぁ先程も言ったがどっちでも良いのだ。
不知火に連れられた一室で彼は机の上に置いてある新品のトランプに手を伸ばした。
「第二試験は迷いました。コイントスでも良かったのですが…如何せんやる側の技術介入をいくらでも差し込めるのでトランプにします」
不知火は新品のトランプの封を切ると不正が無いか確認させるために私にそれを渡す。
イカサマが仕込まれていないか適当に確認をするとそれを不知火に渡す。
「トランプだっていくらでも技術介入できるでしょ。有り体に言えばイカサマしやすいしされてもわからない」
私の言葉を確認した不知火はゆっくりと首を左右に振るとシャッフルを開始する。
そのまま第二試験のルールを説明していった。
「簡単に言うとハイアンドローです。JOKERを14としてここに54枚のカードがあります。まず私が引いてカードを確認します。そして半分の数字である7より上か下かを宣言します。もちろん私は嘘を吐くかもしれません。事実を言うかもしれません。それを見極めてもらいます。嘘だった場合は嘘を見抜き、真実を暴いてください。ちなみにですが制限時間は最大で一日です。そして勝負は一発です。この手の勝負は二回目以降はイカサマをしやすいので一度限りとさせていただきます。一度で真実を見抜いてください。では始めますよ」
不知火はシャッフルを終えると適当な場所からカードを一枚抜き出して確認する。
少しの逡巡の後、不知火は口を開く。
「上です。では制限時間最大一日の勝負を始め…」
「その前に7だった場合はどうなるの?」
私の質問に不知火は眉をピクッと動かした。
それがフェイクである事を私は直感的に気付く。
そもそもこの試験は始まる前に終わっているようなものなのだ。
「7だった場合は下です。これ以上の質問は承りません」
不知火がそこまで口を開いたところで私は悩む必要もなく簡単に口を開く。
「じゃあ答えは下」
「なっ…本当に良いのですか…?悩まずに答えを決めてしまって。話を聞いていましたか?一発勝負なんですよ?」
不知火の茶番に私は付き合いきれずに明らかに嘆息すると答えを口にする。
「この試験はハイアンドローでも一発試験でもなんでもないでしょ?あんたは私達が食事している時に嘘を見抜く試験だって言った。つまりはこの会場に来てからあんたの話の中に何か嘘があるってこと。嘘は3つ。制限時間なんて本当は無いこと。トランプは関係ないこと。そもそも試験なのでイカサマなんてしないこと。後、これは蛇足だけど保険かけて言うとそのカードが上っていうのも嘘。これで3つ。蛇足含めたら4つか…。どう?合格?」」
私の面倒くさそうな態度を確認すると不知火は首を縦に振る。
「極限状態でよくぞ見抜きましたね…ですがどうしてお気付きになったのでしょうか?」
「ん?普通分かるでしょ?もう部屋に戻っていい?」
不知火はもう一度頷くと第二試験合格を宣言した。
「第三試験のお知らせは追って知らせます。では」
部屋まで戻る帰り道に私は葵くんの事を思い出していた。
それと自分の体質についても思い出していた。
私は物心ついた頃から嘘の匂いはすぐに理解できた。
他人の嘘、家族の嘘。
どれでも匂いで感じることが出来た。
しかしながら唯一嘘の匂いを感じられなかった人物。
それが佐川葵だ。
彼が嘘を吐かない性格なのかもしれない。
それはわからない。
だから別れを告げられるまで慎重になりすぎていた。
彼の本質を見極めようと彼ではなく彼の心を見抜こうという浅ましい気持ちで付き合っていたのかもしれない。
そして別れを告げられて私は気付く。
彼が運命の相手だと…。
身体の相性が抜群に良いという理由も無くはないのだが…。
まぁそれは置いておいて。
唯一何も見抜けない佐川葵の事が私はたまらなく好きなのだ。
そんな事を再認識できた第二試験に軽く感謝をすると客室に戻っていくのであった。
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