第184話 革命返し?


「た、助けて頂きましてありがとうございます……」


 騎士団を追い払った後、助けた平民の男から話を聞くことにした。


「えっと、この国はどうなってるんだ? 民衆による革命が起きたと思ってるんだが」


 仮にも民衆による革命なら、民の暮らしはよくなるのではないのだろうか。


 だが先ほどの様子を見る限り、上流階級ばかり優遇されている。


「はい、元々は今の王も平民だったはずなんです。それで今の王を倒せば国が豊かになるって聞いて期待してたのに……逆らう者は全て投獄して、余計に酷くなりました……」


 うわー。革命してさらに酷い独裁者が生まれたやつかぁ。


 するとイーリが俺の服のすそを引っ張ってきた。


「リュウトリュウト。このイーリにいい案がある」

「だいだい予想はつくけどなんだよ」

「革命返ししよう」


 トランプかな? 冷静に考えると大富豪の革命って生々しくて物騒なルールだよな。


 特権階級が敗北することで財産を全て奪われ、ただの平民だった者が権力を握るのだから。


 実際のところ、このミルアード国を俺たちが奪うというのは可能だ。なにせ俺に真祖がいる時点で世界最強レベルだろうし。


 ただ出来るとやっていいとは天地ほどの差があるわけで。


「流石にそんなのしたらダメだろ。吸血鬼が国を乗っ取ったと思われて、人間の評価が地に落ちるぞ」

「なら国を乗っ取るんじゃなくて、人間が差し出すように仕向けよう」

「滅茶苦茶だなおい……」


 イーリは無表情のまま淡々と告げてくる。


 この毒舌少女、ちょくちょく凄まじい発想するよな……ただもし可能ならばアリかもしれない。


 俺としてもシルバリア国の隣国の情勢が荒れてるのは困るし、民も苦しんでいるのならばなんとかしてやりたいとは思う。


 なので吸血鬼に悪評が立たない方法があるのなら、ミルアード国を奪うのも選択肢だ。なので今回はイーリの案に乗ってみるのもいいかもしれない。


 まずはこの策の肝である差し出す方法を聞かなければ。不可能に思えるがいったいどんな方法で……?


「まあお前の意見は分かったよ。それでどうやって国を差し出させるんだ? ミルアード王はそんなことしないだろうし」


 さてイーリはどんな予想外の策を出してくれるのか!


「さあ?」


 ……どうやらノープランだったようだ。


 よく考えたら毒舌だけの少女にロクな策が出せるわけもなかったな!


「……そもそも論としてだ。国を差し出させるなど普通ならあり得ないわけで、それほどの策を考えつける者などそうそういないか」


 天才策士というのはたいていが性格も悪い者だ。なにせ相手の嫌がることを嬉々として思いついて、それを実行できるほど優秀なのだから。


 有名な軍師などを見ても性格ひねくれてるの多いイメージだ。そんなヤバイの俺の周囲にはそうそういない。


「シルバリアの宰相にでも聞いたらいい案出してくれそうですわ!」

「フィンリーに言えば嬉々として考えてくれる気がするねぇ」

「サイディールを一瞬蘇らせて脅そう」


 ……思ったよりいたなぁ。

 

 もしかして俺の周囲って性格悪い奴が多いのかもしれない。


「とりあえずサイディールはなしだ。残りの二人については聞いてみてもいいかもな」

「おかしい。サイディールほど性格の悪いのいないのに。あの性根の腐り具合は誰も真似できないよ?」

「性格が悪いほど優秀な策士になるわけじゃないぞ……」


 そうしてまずはシルバリア王城に戻って、宰相に相談してみたところ。


「ふむふむ。ならばミルアード国の周辺の村を襲いまくりましょう。それで彼の国を困窮させてまた革命を起こさせるのです。その時にドラクル国が革命者を支援するか、あるいはトップになってしまえばいいです!」


 この宰相すげぇ。聞いたら瞬時に回答が返ってきたぞ……しかもわりと実行自体は可能そうなのが。


 やっぱりこの男すごく優秀だよな。けど何故かシルバリア王は宰相を普段使ってない気がする。これだけ優秀なら常に国の大事を任せればいいのに。


 ……それはそれとして、この提案は流石に乗れないが。


「確かに貴殿の案は素晴らしく思える。だがもう少し穏便な手段はないか? 民衆の血が流れるのは好ましくない」

「はははご冗談を。穏便な革命などつまら……失礼。痛みが伴わない改革など長続きしませんよ」

「つまらないって言いかけなかったか?」

「ははは」

 

 …………この宰相、やっぱり国の大事は任せたらダメかもしれない。


 などと考えていると宰相は真剣な表情になった。


「国を盗るなら必ず血が流れるでしょう。人が出来ることには限りがありますからね。ですが人でないのならば、無血開国も可能かもしれません。私は人ゆえに思いつきませんが」

「吸血鬼ならば出来るやり方があるかもと?」

「おそらくは。私は吸血鬼の能力に詳しくないため、策を献じることは出来ませんが」

 

 そうなるとやはりフィンリーに聞いてみるか。


 俺たちはひとまずドラクル村へと戻ることにして、フィンリーにコウモリ便で手紙を送ったところ。


 ――私の方から出向きますので、宰相殿に会わせてください。


 という文面が返ってきた。なんで?

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