第183話 立場が違えば


 俺たちはいま、隣国であるミルアードの王都の中を歩いている。


「ボロボロ」

「戦いの跡がありますわね」


 イーリやミナリーナが少し壊れた街並みを見ていた。


 さてなんで俺たちがこんなところにいるのかというと、ようはダイナミック敵情視察である。


 先ほどシルバリアの宰相にこの国を乗っ取るべきと言われたのだが、そもそも俺はこの国の実情などを完全には理解できてない。


 ミルアードで革命が起きて、今の王が簒奪者なのは知っている。だが革命が悪いこととは限らないとは思う。


 例えば悪逆非道の王を倒して善政を敷くためならば、革命が起きても仕方ないのではなかろうか。


 ただ革命が起きたら当然ながら国が荒れてしまうので、今の王は頑張ってるけど兵たちを押さえきれてない可能性もある。


 それなら俺たちがまたこの国を乗っ取るよりも、今のミルアード王と協力関係を結ぶ選択肢も生まれるわけで。


 その判断のためにミルアード王都へとやってきたわけだ。そして今は王城付近の、王都中心部辺りをうろついている。


 などと考えているとイーリが俺の方を見てくる。


「どうした? お腹が空いたのか?」

「今更なんだけどリュウトってフットワーク軽すぎない? 仮にもドラクル王じゃなかったっけ。普通は玉座にいるものでは?」

「そもそもドラクル国には玉座どころか城もないですわね」

「はっはっは、規模だけで言うなら村程度だねぇ」


 ミナリーナと真祖もそんなこと言ってくる。正直思ってたけど痛いところ突かないで欲しい。


「ほ、ほら。土地の広さはともかく、武力なら世界最強だろうから……」

「一番タチが悪いやつでは?」

「はっはっは、歴史的に見たら侵略戦争待ったなしだねぇ」


 ……やべぇ否定できねぇ。


 話を誤魔化そうと周囲を見渡すと、綺麗な服を着た人たちが楽し気に立ち話をしていた。


「うふふ。革命が起きてから暮らしやすくていいですわねー」

「今のミルアード王のおかげね」


 他にも周囲で人が話しているのが吸血鬼の聴覚で聞こえるのだが。


「ミルアード王、万歳! おかげで借金がなくなった!」

「理不尽に搾り取られないからな!」


 などと心の底から王を褒めたたえる声ばかりだ。


 実際、声だけじゃなくて通りすがる人たちの顔も楽しそうだ。希望に満ちているように見える。


「リュウト、どうしますの?」

「うーむ。もう少し調査してからになるが、状況次第では和解も選択肢かなぁ」


 俺は別に戦争したいわけではないのだ。


 もしミルアード王が善人であるならば、手を取り合うことも可能なはず。


「ここで話を聞く限りではミルアード王は名君のようだねぇ。正義のための革命だったというわけかね?」

「かもしれませんね。さてそうなると……次は王都のもう少し外側を歩いてみるか」


 いまは王城付近、つまり王都でもっとも発展している箇所にいる。


 ここが国の中枢であるため、ミルアード国の現状が分かりやすいと思ったからだ。ただ念のために王都のもう少し外側、端の方も見に行こうということになった。


 そうして軽い気持ちで足を運んだところ……。


「さっさと税を出せ! 出さないなら鉱山で強制労働だ!」

「お、お許しを……! 金どころかもう三日も食べておらず……!」


 広場では騎士たちが平民を脅していた。おそらく見せしめ的に税を徴収しているようにしか見えない。


 ここも仮にも王都で、しかも周囲の建物を見る限りはスラム街ですらなさそうだ。


 だが周囲の野次馬たちもやせ細っていて、服装もボロボロだった。


「む? 確かにやせ細っているな! これでは鉱山にたどり着くまでに死ぬか! ならば今死ね!」

「ひ、ひいっ!?」


 騎士は平民の男に向けて剣を抜いた。

 

 流石に見過ごせないなと俺は騎士たちと平民の間に入る。


「待て。流石にそれは横暴じゃないか?」

「はぁ? これは王命だ! 税を払えぬ者はこの王都に不要と!」


 騎士は堂々と宣言する。どうやら嘘の類ではなさそうだ。


 確かに税が払えないならば街に住む権利はないのかもしれない。だがそれにしても切りかかるのはおかしくないか?


 などと考えていると俺が助けた平民の男が、恨みがましく騎士を睨む。


「な、なにが税が払えぬだ……以前の王の倍以上に上げておいてっ……! なにが革命だ! それで豊かになったのは上のやつらだけじゃないか!」


 ……あー。有力者を優遇して、代わりに下の者の負担を増やしたってことか。


 なるほどなぁ。確かに革命後の統治としては、権力者たちを買収するべきだ。地盤が危うい状況ではなおさら。


 だがお金は無限ではないので、平民の税を重くしていると……うん、正しい革命ではなさそうだな!


 さてここで騎士たちをぶっ飛ばしてもいいのだが、彼らは任務を行っているに過ぎないところもある。


「はぁ……仕方ない。こいつの足りない税は俺が払ってやるから許してやってくれ」

「あぁ? 俺たちの邪魔をしておいて、生きて帰れると思うなよ?」

「てめぇだけじゃねぇ。そこの上玉にも相手してもらおうか」


 騎士たちはミナリーナを下卑た目で見つめる。


「なあミナリーナ。お前って賊とかに人気あるよな」

「そんな人気いりませんわ……」

「おかしい。このイーリが無視られている……」

「我らミルアード騎士団に逆らった者よ! その罪を嘆いて死ぬがぐえぇぇ!?」

「ば、馬鹿なっ!? 鉄兜の上からデコピンでごへぇ!?」


 結局騎士たちは襲ってきたので、デコピンでお帰り頂いた。


 そして助けた平民の男から話を聞くことになったのだった。


 



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今作はかなり改稿していて、別物に近い感じになってます!

具体的にはリュウトたちが街に出向いてます! 

つまり吸血鬼が街に忍び込む王道ホラー作品になります(ならない)。

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