第176話 復活?


 村の外れ、銀の十字架の刺さった土地。


 ここにサイディールが眠っている。


「サイディールのおばか」

「お墓だろ」

「今のは誹謗中傷しただけ」

「紛らわしいこと言うんじゃない」


 イーリのくだらない言葉に反応していると、


「それでどうするんですのー! 掘り返すんですのー?」


 ミナリーナが二十メートルくらい離れた場所から叫んでくる。


 いやなんでそんなに離れてるんだよ……吸血鬼だから普通に聞こえるけどさ。


「おいミナリーナ。もっと近づいて来いよ」

「嫌ですわ! 銀の十字架に聖土なんて御免被りますわ!」


 なるほど。サイディール復活を防ぐための場所なので、普通の吸血鬼にとっても当然不快に決まってるか。

 

 するとイーリが小さく息を吸う。


「そんなに嫌わなくてもいいよ。毎日聖水もかけてるから。おいでおいで」

「余計嫌ですわよ!? ワタクシはこれ以上近づかないですわよ!? そんなおぞましい場所!」


 たぶんミナリーナからしたら、この墓場は肥溜めにでも見えてるのではなかろうか。


 つまりサイディールはそこにずっと閉じ込められていると。悪夢かな?


「じゃあ来ないなら、土持っていくね」

「なんでそっちから来るんですのよ!?」

「おいイーリ。そろそろ真面目にやるぞ。モタモタしているとアリエスが察知する可能性がある」

「今のボケボケおばアリエスが気づけるなら、サイディール蘇生いらない気がする」

「…………」


 まあうん。ほぼ間違いなく気づかないだろうけど、それでもうん。


「ほらやるぞ! サイディール復活の儀だ! 血をかけるんだろ?」

「ん。これは採れたてホヤホヤの私の血。これをかければサイディールとて必ず復活する。なにせこのイーリの血なのだから」


 イーリは血の入った小瓶をドヤ顔で見せつけてくる。


 自分の血をこれほど誇らしげにするやつ、そうそういないだろうなぁ。なにがそこまで彼女を駆り立てるのか、俺にはまるで理解ができない。


 でも分かる人もいるのだろうか? 献血によく行く人とかならワンチャン?


「じゃあリュウト。地面を掘ってサイディールの骨を取り出して」

「……なんか墓荒らしみたいでいやな気分だな」

「大丈夫。生き埋めにされてるのを救い出すだけ」

「それはそれで生き埋めにしてたことへの罪悪感が」

「サイディールだからいいでしょ」

「確かに」


 なんだろう。相手がサイディールというだけで、わりと酷いことでもまあいいかと思ってしまうのだが……。


 あいつ相当悪いことしまくってたからなぁ。アリエスの村の人たち皆殺ししたり、王都を襲撃して滅茶苦茶にしようとしたり。


 それに封じてないと逃げて悪さするし仕方ないか。


 俺はサイディールの墓を血のシャベルで掘り起こして、眠っていた銀の箱を取り出した。


 この中にサイディールのお骨が封印されている。慎重にはこのフタを開くと、割れた骨が大量に入っていた。


 ……この状態から本当に再生するのだろうか? ちょっと不安になってきたぞ。


「なあ大丈夫かこれ? 肉が全く残ってないけど、仮に再生しても骨だけとかにならないか?」

「それならそれで吸血鬼がスケルトンになるだけだし。アンデッドだから大して変わらないでしょ」

「いや違うだろ。なんかこう」


 骨だけのスケルトンと一緒にされるのは、なんとなく納得できないものがある。


「グダグダ言っても仕方ないからえい」


 イーリは小瓶のフタを取ると、躊躇なくサイディールの骨に血をかけた。


 するとかかった血は即座に骨に吸収されて、それと共にカタカタと骨が動き始めて……!?


「うわっ気持ち悪っ!?」


 俺は思わず銀箱を放り投げてしまった。すると箱から飛び出た骨たちが、どんどん伸びて腕や足などの骨っぽい形になっていく。


 そして骨たちは宙に浮くと、まるでロボットの合体シークエンスのように人の身体に組み合わさっていく。


 あっという間に完全な状態の人の骨、スケルトンになってしまった。さらに土から水が湧き出るように、骨から肉が出てきている。


 そんな中でイーリは何故か俺の方に視線を向けると、


「なるほど。リュウトボーンソードもありか」

「なしに決まってるだろ」


 俺たちがムダに話している間に、さらにサイディールの再生は進んでいく。


 そして完全にサイディールは元の姿を取り戻すと、目をぎょろりと開いた。


「ふ、ふふふ……ふはははははは!!! 復活だ! とうとう復活したぞ! よくもやってくれたなアリエスめ! 貴様はただでは殺さぬぞ! 百の男に犯させて凌辱させて、生まれてきたことを後悔させてやる!」


 などと開口一番クソ野郎なので、やはりこいつに同情の必要はないな!


「おいサイディール。お前に聞きたいことがある」


 空に向けて吠えているサイディールに声をかけると、奴は目を見開いて俺を睨んでくる。


「貴様!? 何故ここに……!」


 どうやらまだ意識がハッキリしてなかったようで、俺にようやく気付いたようだ。


「いやここドラクル村だし……それで聞きたいことがあるんだが。お前さ、吸血鬼を人に近い状態に戻せるってマジか? ならやり方教えてくれ」

「ふん。仮に本当だとして、教えると思うか?」


 まったく思わない。


 このサイディールが俺に協力するわけがないのだから。なのでやることは最初からひとつだ。


「よしなら仕方ないな。サイディール、お前に……生まれてきたことを後悔させてやるよ」

「パクリ」

「パクリましたわね」


 俺は腕をグルグル回しながら身体を温める。


 少し非道だが仕方ない。これも人と吸血鬼の共生のためだ。


 それにまあ……俺もこいつにムカついてたんだよな。ずっとイライラさせられっぱなしだったし、少しくらいボコってもバチは当たらねぇよなぁ!!!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る