第47話 ニンニク炊きテロ


「…………血文字の大半がやられたか」


 村の地下室で吸血鬼たちの生活について、ヒアリングを行っていた時。


 俺は血文字を通してアガリナリ氏の危機を視ていた。あの血文字たちは俺からすれば玩具みたいなノリの力だが、それでもAランクの魔物だろうが倒せる力を持つ。


 そこらの人間なら血文字を倒すどころか、逆に文字に分からされるはずなのだ。だがあの神父は普通に勝ってしまった。


「相性の問題もあったか。熱はなあ……」


 血文字はようは血なので、蒸発させられるとなんともならない。それに血魔法は吸血鬼の力だけあって闇に分類され、聖魔法で浄化されてしまうのだ。


 まあ血文字はよい。それよりもアガリナリ氏を助けに行った方がよいかな。あの神父からは逃げられたようだが、追い付かれないとも限らない。


「村長よ、どうした?」

「少し野暮用ができた。お前たちは……」


 休んでおけ、と言おうとした瞬間だった。ふわりと鼻をくすぐる匂いがする。


 壁からの血の匂いではない。この強烈な刺激臭は……。


「「「「「「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」」」」


 地下室の吸血鬼たちが全員苦しみ始めた。それも当然だ、だってこの匂いは……ニンニクだったのだから。


「ち、地上だ! 地上からニンニクと匂いと煙がっ……!?」

「俺達をは、はやく外へっ……!」


 なんだこれは吸血鬼の燻製でもつくろうってのか!? 吸血鬼たちは錯乱してもがき苦しみ、地上へと走りだそうとする。


「待てっ! 迂闊に外に出るな! 煙や匂いは地上からやってくるんだぞ! なら地上はもっと地獄かもしれない!」

「おげええぇぇ!?」

「大変だ!? サフィが死んでる!」

「い、いやまだ生きてる! だが白目を剥いてビクンビクン震えてるぞ!?」


 吸血鬼の一体が地上につながる階段を通さぬように立ちふさがる。確かにその可能性は高い。ま、まさか村人の反乱か!? アリエスのおかげでとりあえずなんとかなったと思ったのに……!?


 ニンニク燻しとかいうバカみたいな話だが、吸血鬼からすれば洒落になってないぞ!? サフィとか本当に死にそうなんだけど!? 地下室の壁が血でコーティングされていて、匂いが微妙に中和されてなければやばかったかも!?


「お前たちはここにいろ! 俺が外に出て確認する!」

「「「「「任せた!」」」」」


 吸血鬼たちは即座に階段から離れて、部屋の隅へと駆け寄った。いやいいんだけどさ、俺に対する心配とかないのね……。


 急いで階段を登って地上に出ると、村は白い煙とニンニクの強烈な匂いが充満している!?

 

 どうなってるんだ!? 村人がニンニクパーティーでも始めたのか!? 


「リュウト! やっと見つけた!」

「消臭鬼発見」


 村を見渡しているとアリエスとイーリがこちらに走って来る。


「パーティー会場はどこだ! 俺が殴り込んでやる!」

「何を言ってるの? これは吸血鬼猟のひとつよ! ニンニク煙燻製狩! 吸血鬼狩りの必殺猟のひとつ! 吸血鬼がいそうな場所の近くで、大量のニンニクを焼いたりするの!」

「なんて恐ろしい狩猟するんだよお前ら!?」


 そんなゴキブリ退治にくん煙剤撒くみたいな!? もしくはアナグマ狩りで、巣穴を煙でいぶすみたいな!?


「なあ。人間のほうが鬼じゃないか?」

「知らないわよ! それより早く退治しないと、吸血鬼たちが煙で死にかねないわよ! この狩猟法は有用なことで有名なの! 吸血鬼がもだえ苦しみながら死ぬから! 実は私も貴方に負け過ぎた時にやるか迷ったり……」

「やってたら問答無用で追い出してたな……。えっと、ようは煙を焚いてる吸血鬼狩りを倒せばいいんだな! イーリ、敵はどっちだ!」


 すでに右目の眼帯を外して、魔眼を光らせているイーリ。彼女は森のハチの巣すら発見するので、吸血鬼狩りを見つけるなど朝飯前だろう。いまは晩だけど。


「すでに発見済み。案内するからおんぶ」

「よし!」

「あっち」

 

 俺がイーリを背負うと彼女は北の方向に指さしたので、さっそく駆け出した。


「えっ!? ちょっと私は!?」


 後ろからアリエスの声が聞こえるが知らない。ふたりもおぶれないので頑張って追いついて来てほしい。


 そしてしばらく走っていくと、木で組んだ檻みたいなもので炎が燃えていた。つまりはキャンプファイヤーみたいなものが!


 そこから白い煙がモクモクとこちらの方に流れてきている! やはりあれが諸悪の根源、というか悪臭の元! 





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 俺達六人は吸血鬼狩りパーティー、銀の十字架。吸血鬼狩りギルドからの吸血鬼村を潰す依頼を受けた。


 村には強力な吸血鬼がいるとか聞いたが、ひとつの場所を拠点にするならば追い出すのは簡単だ。


「おい。もっとニンニクを足せ」

「木は足りるか?」

「よく焼けててうまいぞ」


 俺達は大きな焚き木でニンニクを焼いていた。これはニンニク煙燻製狩といって、対吸血鬼における必殺法のひとつだ。


 弱い吸血鬼ならこれだけで死ぬ可能性も高いし、強い奴でもこの煙でいぶられた場所に吸血鬼は戻ってこない。ニンニクの匂いが染みついた場所に、好んで住む吸血鬼はいないからな!


 それにこの策のよいところは、いちど焚いてしまえば自分達の安全も保障されることだ。俺達の身体や服はニンニクにいぶされて、吸血鬼に対する鉄壁の鎧となっている。


 さらに血にもニンニク成分が入ることで、吸血鬼は俺達に近づくことすら嫌悪するのだ! 多少ニンニククサくなるのと準備が大変で、煙を焚く前にバレると危ないのが欠点だが……成功してしまえば無敵の策だ!


「な、なんだ!? あれは!?」


 そんなことを考えていると仲間のひとりが叫ぶ。指さした先には何者かが土埃をあげながら、煙に逆らうようにこちらに走って来ていた。


 さらにしばらく見ていると姿がはっきりする。タキシードにマント、そして驚異的な脚力……。


「きゅ、吸血鬼だ! 吸血鬼が煙の中を全力で走って来るぞ!?」

「そんなバカな!? ニンニクをいぶした煙だぞ!?」

「吸血鬼なわけないだろ! あれはほらアレだ! 鬼人みたいな!」


 炎の周囲にいた吸血鬼狩りたちが、その意味不明な様子に驚きの声をあげる。


 だが奴は止まらないうえに、明らかに敵意のある目で俺達を見ている!?


「げ、迎撃だ! 吸血鬼ならニンニクの煙のなかで、満足に戦えるわけがない! 無理をしているに決まっている!」

「そ、そうだな! 俺達はニンニクたらふく食ってるしな!」

「血を吸えるもんなら吸ってみろやぁ!」


 俺達は剣や槍などを構えて、吸血鬼? を迎撃しようとする。


 俺達は吸血鬼狩りとしては聖魔法が微妙でそこまで強くない。だがこのニンニク煙結界の中でなら、上級の吸血鬼であろうともまともに戦えないはずだ!


「くたばりやがれぇ!」

「人間の敵がぁ!」


 仲間のふたりが吸血鬼に飛び掛かって、槍での刺殺をこころみる! あの槍の先端は銀だ! 更に矢じりに聖魔法を凝縮しているので、吸血鬼ならばタダではすまな……。


「邪魔だうっとうしい!」


 吸血鬼は片方の銀の矢じりを手でつかんだ。この時点で意味不明だ。


 だがなによりわけがわからないのは、もう片方の矢じりを口で咥えた!?


「銀は高く売れるからもらうぞ! お前らはいらん!」

「「ぐわっ!?」」


 二人は吸血鬼に肩での体当たりを受けて吹き飛んで気絶した……。


「な、なんだてめぇ!?」

「吸血鬼じゃないだとっ!?」

「何者だ!」

「吸血鬼だ!」

「「「嘘をつくなっ!?」」」


 落ち着け。いまのは俺達を動揺させるための嘘だ! あれはなんだ? 吸血鬼じゃないならば鬼……だがそれにしては人の見た目に過ぎる。


 ダメだ、俺はあんな存在を知らない!? 


「く、くそっ! 銀は吸血鬼にしか効果がない! 鉄の武器で戦え!」

「いくぞお前ら! 俺達の力を見せ……」

「邪魔だぁ!」


 得体のしれない化け物が片手を振るった瞬間、俺の身体は吹き飛ばされていった。




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 俺は吸血鬼狩りどもを粉砕した後、即座に火を吹き消した。そして周囲のニンニクを土に埋めようとしたが……もったいないので食べまくっている!


「イーリ、もっと食え! 早く食べないと匂いが消えない!」


 イーリは珍しく少し嫌そうな顔でニンニクを眺めていた。


「もういらない……」

「お前一個しか食べてないだろ!」

「ニンニク嫌い……」

「わがまま言うな! てか吸血鬼の前でニンニク嫌いとか言うな!」

「吸蜜鬼……」


 ええい! アガリナリ氏の援軍に行く予定だったのに! また吸血鬼狩りが村にやってきたら困るし、しばらくは村から離れられない……!

 

 畜生! 煙に巻かれた! 


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このあとニンニクは遅れてきたアリエスも一緒になって美味しく頂きました。


ところで今回のはギャグ話になっていますが、ヴァンパイア城とか動けないじゃないですか。

周囲をニンニクであぶればガチで追い出せませんかね? ニンニクの匂い残った場所に吸血鬼住まないでしょ。

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