【Web版】弱点ゼロ吸血鬼の領地改革

純クロン

一章

第1話 吸血鬼


「はぁ……健康診断に引っかかってしまうとは……」


 夜。俺は会社から家に帰ってすぐにため息をついてしまう。


 今日の健康診断で医者から「少し摂生したほうがよいですね」と言われてしまったのだ。自分でも心当たりはある。仕事が大変でストレスがたまり、晩飯後にチューハイとスナック菓子を頻繁に食べていた。


 砂糖に油に塩のフルセット。たまにならよいが頻度が高ければね……。


 他にも食生活に心当たりはある。俺は魚や野菜よりも肉が好きなので、少し栄養が偏っている自覚は持っていた。昼飯もだいたい油物だからな……魚の弁当とかあまり買う気がしなくて。


 一応は青汁とか飲んではいるんだが、やはり食物繊維も足りてない気がする。野菜もちゃんと取ろうとすると昼飯代が高くなりがちで、どうしても敬遠してしまっていた。


「はぁ……明日から我慢しないとダメか。せめて美味しい物くらい何も気にせずに食べたいものだよなぁ」


 そうボヤキながら食卓の席について、スナック菓子の袋をひらいてチューハイの缶をあけた。明日から、そう明日から我慢するから! 今日が最後だから!


「健康を気にしなくてすむならなぁ……牛飲馬食し放題で今より幸せなんだろうなぁ。体重とか気にしないであぶらの乗った霜降りステーキを飲むように食らい、馬刺しとかも思う存分食べたいものだ……」

『見つけたぞ、求める魂を。お前を吸血鬼にしてやる』

「へ?」


 俺の身体を、いや身体の中を引っ張られる感覚がした。チューハイ一缶で酔ってしまったのだろうか……それに意識がだんだん薄くなって、眠く…………。




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「ひ、ひいっ!」

「いやぁ!? 来ないで!?」


 夜。木や藁で作られた家ばかりの農村で、村人たちは必死に逃げていた。


 そんな彼らを追いかけてくるのは剣を持った荒くれ者たち。大勢の盗賊が村に攻めて来ているのだ。


 彼らは近辺を脅かしていた盗賊団だ。村は領主に対して盗賊討伐を要請したが、残念なことにしてもらえなかった。そして盗賊団は村に襲撃を仕掛けてきた。


 百人程度の農村に対して、五十人を越える盗賊団が襲ってきたのだ。人数だけなら農村の方が多いが子供や老人などの非戦闘員も多い。対して盗賊団は全員が熟練の戦闘員だ。


 村人たちも農具を持って抵抗しようとしたが、いざ武器を持った盗賊団を前にすると臆病風に吹かれて逃げている。


「野郎ども! 男と老人は殺せ! 女は生け捕りにしろ!」


 盗賊の親分である男が叫ぶ。


 盗賊団にとって男や老人は邪魔者でしかない。女を生かす理由については語る必要もないだろう。彼らはお楽しみを前にして笑いながら、逃げる村人を追いかけている。


「が、はっ……」

「きゃああ!? あなたっ!?」


 男のひとりが盗賊に追いつかれて背中から剣で斬られて倒れた。幸いにもまだ息はあるが、盗賊が更に剣の腹でバシバシと叩く。盗賊の視線の先には男が逃がそうとした女性がいた。


「おお、人妻か。それ以上逃げるならこいつ殺すぞ?」

「そ、そんな……」


 無惨な光景。だが彼らだけではない。


 家は燃やされ食料は盗まれ人の尊厳が穢されていく。


「や、やめてっ!? お父さんを殺さないでっ!」

「なら逃げるのをやめて服を脱げ。それで俺に犯されろ」

「ほら逃げると子供が死ぬぞぉ? おっと、手が滑っちまった。見ろ、なんかビクンビクンしてるぞははは!」

「い、いやああぁぁぁぁ……」


 村は地獄絵図と化していた。蹂躙されつくされていた。


「あん? お前よく見ると醜い顔だな。醜い罪でお前の夫は処刑な」

「や、やめ……」

「ぎゃははは! これが連帯責任ってやつだ! 夫婦で繋がったんだからよぉ!」


 盗賊は倒れた男の首に向けて剣を振り上げた。


 領主の助けも来ない。盗賊の遊び場となった村は壊滅する、はずだった。


「でもある意味幸せだぜ? 自分の妻が寝取られるの知らずに死ねやぁ!」


 勢いよく振り下ろされた剣が、倒れた男の首をはね……なかった。剣と刀身が半ばからへし折れていた。いやへし折られたからだ。


「……あん?」


 折れた刀身を困惑しながら見続ける盗賊。その背後にいつの間にか黒装束の男がいた。


「醜いのはお前の方だろ」

「……へ? てめぇなにもっがっ……!?」


 焦って振り向いた盗賊に対して、黒装束の男は鋭利な爪で切り裂いた。盗賊は八つ裂きとなって血を吹き出して倒れた。即死だ。


「……しまったな。力が強すぎたか。未だに咄嗟だと転生前の人間の感覚でやってしまうな。怪力だと理解はしているんだが」


 手についた血を舐めながら、村の惨状を睨む黒装束の男。彼の口にはナイフのように鋭い犬歯が生えている。


「助けて欲しい。私の身体の血全てを代償に」


 黒装束の男に少女が近寄って来る。青い髪、細身の身体、ややクールな雰囲気を纏っている。何よりも特徴的なのは右目に眼帯をしていることだ。


「分かっている。とはいえ全てはいらない、コップ一杯くらいで十分だ。あまり飲むと同じ味で飽きる。俺は美味しい物を好きなだけ食べたいんだよ」

「血を欲しがらない吸血鬼はおかしい」

「なら鬼でいいよ。とにかく今は盗賊どもを何とかする」



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牛飲馬食・・・牛を飲むように食らい、貴重な移動手段の馬すら食べてしまうこと。

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