第73話 アダムに捧げるエルフたちの恋の歌
「! そういうこと……ですか」
何人も護衛を引き連れ、ついにアトリ諸島に上陸したエリザが最初に発した言葉がそれだった。
今度という今度は強引にでもジェフリーを王宮に連れ帰るべく護衛も大人数連れてきた。
しかし、エリザが目の当たりにしたのはジェフリーにがっちり組み付くアミリアと二人を護るかのよう立っているたくさんのエルフたちの姿だった。
「すまん。こういうことだ」
ジェフリーはアミリアに組み付かれながら、頭をかいた。
「謝っていただく必要はありません。それにイース王国海軍とアトリ諸島で戦いに来たわけではありません。お互いに気張るのはやめましょう」
エリザの言葉に護衛もエルフたちも力を抜く。
「アダム……」
エリザは後方に控えるアダムを振り返る。
「艦隊の兵員を三つに分けてください。一つ目は艦に残ってもらい、緊急時の対応に備えます。二つ目は島に上陸し、島の方々と協力して、ホラン王国の兵員の武装解除を進めてください。三つ目はやはり島に上陸し、休養をとらせてもらってください」
「はっ」
アダムは頷いてから、ジェフリーの方を向く。
「ジェフリー様。武装解除の協力と休養場所の提供をお願いできますか?」
「ああ、それは構わないが」
今度はジェフリーがノアとンジャメナの方を振り向く。
「それは
ノアとンジャメナは笑顔だ。
「いえ、それは休養が取れればいいので。休ませてもらえればありがたいです」
アダムは頷く。
「それでは
「はい。
「今回は残念ながら
「はあ」
これにはアミリアも苦笑するしかなかった。
「さて」
エリザは他の者たちに背を向ける。
「では今度こそ
早足で艦へ急ぐエリザ。
周囲の者たちは重苦しい雰囲気の中、ただただエリザを見送ることしか出来なかった。
◇◇◇
「!」
最初に我に返ったのはエンリコだった。
「アダム男爵令息っ!」
アダムも含めた全員が一斉にエンリコの方を向く。
「アダム男爵令息っ! 傷心の女王陛下を癒やせるのは
「え? でも、
戸惑うアダム。しかし、すぐに周囲から声がかかった。
「アダム司令官代理殿。ここは我々に任せて、女王陛下をお守りください」
「アトリ諸島の方々はとても協力的です。ここは我々だけで武装解除は出来ます」
「行ってください。司令官代理殿。女王陛下がお好きなのでしょう?」
「なっ……」
真っ赤になるアダム。
「そのようなことは……」
一斉に笑い出すイース王国海軍兵員たち。
「はっはっは、何言ってるんですか。見え見えですよ」
「周りにいた者は全員気づいてましたよ」
「大丈夫。陛下も司令官代理殿を憎からず思っています」
「いやいやいや」
アダムは真っ赤なままだ。
「相手は女王陛下ですよ。
「何言ってるんですかっ!」
ここでアミリアが参戦する。
「
ぐいとジェフリーを引き寄せる。
「男爵令息どころじゃありませんっ! 海賊の頭目ですよ。
場は大爆笑になる。
「それじゃあ
ぐいとエンリコを引き寄せる。
「元孤児の
またも巻き起こる場の大爆笑。そんな中、エンリコの心は震えた。
(やっとやっとフラーヴィア様が
しかし、すぐ首を振る。
(だが今はそれだけを噛みしめているわけにはいかない。アダム男爵令息は立派な方だと思っていたが、ここまでイース王国海軍の方たちからも慕われているとは。これはやるしかないっ!)
エンリコはフラーヴィアに掴まれたまま叫ぶ。
「アダム男爵令息っ! 自分の感情に素直になる時があってもいいんですっ! 行ってくださいっ! て言うか行けっ!」
フラーヴィアはエンリコを掴んだまま叫ぶ。
「みなさんっ! アダム男爵令息を応援しましょう。エルフのみなさんっ! 『恋の歌』を歌ってくださいっ!」
ンジャメナが口火を切って、「恋の歌」を歌い出す。他のエルフたちも次々加わり、すぐに大合唱となった。
アダムは全員の方を向き、丁寧に頭を下げる。
「みなさん、ありがとうございます」
そして、エリザの搭乗する艦に向かって走り去って行った。
「ふうっ、行ったか」
大きく息を吐くジェフリー。
「誰かさんと違って、一回で決心してくれましたね」
ニヤリと笑うアミリア。
「まあそう言うなって、
また大きく息を吐くジェフリー。
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