勇者と魔王

雪待ハル

勇者と魔王




「ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない・・・!!」


魔王は吠える。

世界のすべてを呪って。憎んで。拒絶して。

それでもその敵意は断たれた。

一人の勇者によって。

彼の勇気ある戦いによって、魔王の望みは叶わず終わる。

世界は守られたのだ。

そこにあるのは血まみれの魔王がひとり。

今にも息絶えんとしてあえいでいる。






――――ボクは、ここで死ぬのか。






ずるり。ずるり。地を這って、勇者の足へ手を伸ばす。

こんなところでは終われない。

だって、まだ、


「終わりだよ。あなたはもうお休みよ」


頭上からにっくき勇者の声がする。


「疲れたろう?もう眠っていいよ」


「・・・・・」


虚ろな眼に映るは勇者が伸ばした手のひらで、

魔王は息も絶え絶え残った力でその手を振り払おうとする。

でも、だめだ、


「おやすみなさい、よい夢を」


もう力が入らないんだ。

どうしてかな、いつもボクはこんな、




そこで魔王の意識は途切れた。






















「愚かな魔王。あなたは誰に許しを請う事もなく、胸を張って堂々としていればよかったんだ。世界なんか放っておいて、憎い相手も忘れ去って、我が道を進めばよかった。・・・そうしていたら、もしかしたら、わたしとあなたは友達になれたかもしれなかったのにね」


それが残念でならないよ。

そう、魔王の亡骸に向かって勇者はひとりごちた。





おわり

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勇者と魔王 雪待ハル @yukito_tatibana

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