1989年で僕はガスバーナーを炎上させました
不自然とう汰
第1話 技術の時間 ー 高崎の一件
僕のことはどうでもいいんだ。まずは高崎が中学二年生のときに体験した、悲惨な一日について言っておきたいんだ。
その日の四時間目は、技術の時間で移動教室だった。女子は家庭科だから家庭科室へ 。僕たち男子は技術室へ。時間に遅れることなく、全員びしっと席に座っていたんだ。
まるで自衛隊の訓練のようにさ。と言うのも、技術の教師はこの学校でベスト3に選ばれる、いやワーストっていうのか?とにかく一番か二番の暴力教師だった。顔からしてもやばかった。
二重の大きな目はつぶらではなく、鬼のお面みたいにぎょろってしているし、顔中脂ぎっている。油取り紙があったら、誰でもやつのおでこを押さえたくなるね。
廊下でふいに出合ったら、反対側の壁に張り付きたくもなるだろう。背も無駄に高い。全身からパワーあり余っています!みたいな感じを出していた。
そしていつも青いジャージを着ているんだけど、背が高いからくるぶしは思いきりでちゃってますって感じで……
そんなことはまあいい。
いきなりだった。僕は一列目の席で(出席番号順に前から横に座る。僕は河井って名前なんだけど、悲惨にも先生の真正面) 何が起こったか全然わからなかった。
「立て! 出て行け!」
ドスの聞いた声が技術室に響き渡った。
技術室なだけに……なんて、つまらないことを言ってる場合じゃない。
何をしたんだろう?と、ちらっと振り返ったけど、高崎の机の上には教科書、ノート、鉛筆と筆箱が普通にあるだけ。多分よそ見とかそんなのだろうって思った。
技術のその先生は名前は清原と言って、そいつは高崎を見下ろしていた。高崎はじっと俯いていた。あいつに見下ろされたら俯くしかない。本当に鬼の形相だから。
そして清原は出て行けって、また大声を出した。もちろん出て行けるはずがない。それをわかってて言っているんだ。
他の中学校なんかじゃ本当に出て行っちゃうし、最近の学校は、授業中でもふらふらとトイレに行っちゃうところがあると知って、本当に驚いた。ありえない。そんなことしたら本当に、本当にここでははまずかったんだ。
しまいに清原は高崎の胸倉を掴んで立たせた。人形みたいに力が入らない高崎は、体重が十キロそこそこしかないように簡単に持ち上がってみえた。
「 出て行け」
ものすごく低い声で言って、高崎の制服をぶんぶんと揺さぶっている
「聞こえてるだろ〜! ああ?!」
見ていられなかった。
といっても、身体をほんの少しよじって僕は凝視していた。教室にいる全員が釘付けになって二人を見ていたんだ。
「出て行けっていってんだよ〜」
清原はそう言って制服から手を放した。高崎はふらっとしながらも、椅子に手をついて冷静に座ろうとした。襟首をぐいっと掴まれて、また清原は高崎を立たせた。
「 出て行けって聞こえなかったか?」
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