愛しいあなたへ
雪待ハル
あなたを想う、それ故に
「あなたを愛している」
そう告げた彼の眼は、透明で、キラキラと輝いていた。
真っ直ぐこちらを見ている。
その姿を見て、私は、ああ彼は本気なのだと分かった。
分かってしまった。
だから、
「・・・ごめんなさい」
こちらも誠意をもって答えた。
「私は帰らなければなりません」
ここにこれ以上、私はいてはいけない。
そう直感が告げていた。
“これ以上は、彼を損なう事になる”と。
「私では、あなたを幸せに出来ない」
「構わない」
まるでこちらの回答を予想していたかの様に、彼の反応は揺るぎなかった。
けれど、それはこちらも同じだ。
「私は構う。あなたにはこれ以上命を削って欲しくない」
そう。
私の存在が彼を弱らせるのだ。
何故なら、
「―――思い出したの。私は事故で死にかけた・・・ううん、もうほとんど死んでいる。それをあなたが自分の命を分け続ける事で生かしてくれているのでしょう?」
彼の命を糧として、今の私は存在しているからだ。
ここは生と死の狭間。
彼は―――きっと、人ならざる者。
私は、彼の愛に生かされている。
「私は行きます。天国か地獄かは分からないけれど」
真っ直ぐな視線から逃げるように背を向け、歩き出す。
さようなら、愛しいあなた。
どうか、未来で彼が幸福でありますように。
私は遠ざかる彼女の背をじっと見つめていた。
さようなら、愛しいあなた。
事故から私を命と引き換えに救ってくれた、勇敢なひと。
どうか、来世のあなたに早く出会えますように。
おわり
愛しいあなたへ 雪待ハル @yukito_tatibana
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