蒼い瞳に映る過去

サイノメ

接近遭遇 -AD.2022-10-22-

 静寂しじまに響くタイヤの悲鳴。

 突然、目の前にせまるハイビームが視界を焼いた。

「しまった」という思いと、「さっきまでライト点灯していなかっただろう」と冷静に思考の2つに挟まれて対応が遅れた。

 ……もっとも、運動神経が一流アスリート以上になければ事態を回付するのは不可能なほど目の前に車(恐らく大型のバン)が迫っていた。

 結局、車を避ける事を諦めた俺の頭の中では走馬灯ではなく現状への考察が超高速で駆け巡っていた。

 そして俺を衝撃が襲った。


 ………………あれ?


 衝撃は想定方向である正面ではなく右側から来た。

 そして衝撃の割には柔らかく、まだ密着している??

 そんな混乱している俺の横をライトが通り過ぎていく。

 轢かれても跳ね飛ばされてもいない?

 混乱しているところ、一瞬の浮遊感と同時に地面へと叩きつけられた。

 あまりの衝撃に息が詰まる。

 恐らく助かったと思った俺は地面に転がりながらそんな事を考えていた。

 アスファルトから冷気を感じる。

 真夏なら心地よかっただろうが10月では冷たすぎる。

 とは言えすぐに立ち上がるでもなく仰向けに寝転がった。

 さっきの様な暴走車でも来なければ、気がついてから避けるのも造作もないだろう。

「おーい。生きてる?」

 色々と考えながら横になっていると、唐突に声をかけられた。

「うひゃぁぁ!?」

 俺は自分のものとは思えない声を上げていた。

 けっ、決して驚いた訳ではない。

 とは言え情けない声を上げてしまった俺は転がるようにうつ伏せになってから膝と腕を使って身体を持ち上げた。

 四つん這いの状態になってから、改めて声の方に顔を向ける。

 そこにはが立っていた。

 ローファーとニーハイソックス。

 比較的丈の短いプリーツスカートに軍服を思わせる上着。

 どこか制服なのかいずれも黒で統一されており、上着には金のラインが施されている。

 ツーサイドアップに纏めた髪は肩のあたりまで伸びている。

 そして直上の街灯に照らされた顔にはややつり上がった勝ち気そうな瞳と小さめなだが形の良い鼻。口元には不敵な笑みをたたえている。

 俺はその容姿、いやその顔に覚えがある。

 でもそれはここにいる事はあり得ない人物の顔。

 しかしその顔は間違いない。

「あぁぁぁっ!!!!!」

 深夜の住宅街にも関わらず俺は驚きの声を上げていた。

 そこにいたのは俺が高校生の時に付き合っていた幼馴染みにして初めての彼女。

 そして交際期間わずか数時間だった『成瀬なるせナル』だったのだから。

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