第7話 夢を見せた者たち


 冒険者たちの活躍は皮肉にも冒険者業の廃止されてから大きく認識されるようになった。

 害獣駆除、必要素材の回収などなど、それらへの支持は庶民の間で草の根的に拡大、ついにはバンレスト王国内で特例的な冒険者業の復活を容認する流れすら出来始めていた。


 特例的に認める法案はついに可決されるかと思いきや――


 反冒険者派たちによる言いがかりと国王によるちゃぶ台返しにより一転否決。

 その決定に反旗した者が大量辞職し国家は行政麻痺に陥った。




 それからしばらくして――



「クリン......おい君たち、何処に行ったのか誰か知らないか?」


 アレクはクリンのいるはずの部屋を見るが見つからず、他の者に彼女の行方を聞いていた。


 しかし、見つからない。


「アレクさーん、クリンさんから手紙を預かっていますッ」


 頼りなさげな顔立ちの青年ボロックが走ってきて、手紙を手渡してくる。


「手紙?」


『アレクさんへ

 私を軍部に招き入れていただいた事は本当に感謝しております、しかし、私、クリン=ラーナーンは軍を辞めたいと思います、今までありがとうございました。


 PS.リオと結婚します、結婚式にはお呼びいたしますので――では』


「――(絶句)」

「ぇ、クリンさん辞めてしまったんですかッ!しかも結婚ッ!?」

「あ・い・つッこんな忙しい時にッッ!」


 アレクは怒り心頭、その場を抑えるのに苦労したとか。



 ■



 クリンとリオの電撃的な発表をかつて冒険者だった者、今なお隠れて冒険者をしているものから祝福された。

 かつて、歴史的な事件により別れた二人が運命的な出来事で再び再会した、と新聞社は面白おかしく囃し立てたりもした。

 リオとクリンが結婚式を終えてからもそういった報道はしばらく続いたが、すぐに戦争がはじまった事で状況は一変した。


 バンレスト王国は国内問題を解決する時間が足りずに内部の混乱が各地で広がっていた、さらに隣国との戦争も苛烈を極め、各地に潜んでいた冒険者も影ながら戦ってはいたが、多勢に無勢、この戦いでも多くの冒険者が死んでいった。


 戦場で最後まで戦い抜いたアレク=ベレテリンは戦死、かくして都市国家を併合して大国となっていったバンレスト王国はその栄華を終える事となった。




 それから時は流れ――




 冒険者という職業は消えたが、彼らが最後に見せていた輝き。


『冒険者を辞めさせてでも冒険者を救いたかった者』

『冒険者を最後まで貫かんと国家にまで反乱した者』

『犯罪者として扱われても人の為に世の為に戦い抜いた者』

『冒険者を後世に残そうと邁進した者』

『ただ黙々と冒険者を続けようと足掻いた者』


 それらは確かに人の心を掴んでいた。


 後に彼らを称えた物語がいくつも作られた、その物語は人の心を掴み彼らの真似事をする者が後を絶たず今も人々の悩みの種となっている。


 彼らの栄華は今もなお語り継がれており、彼らが残さんと足掻いた思いを汲もうと励む者もいる。

 リオやクリン、他の冒険者たちの思いは抗いは決して無駄ではなかったのだ。


 ――彼らは冒険者をするには生まれる時代が遅すぎた、しかし今でもこうして人に夢を見せ続けていた。

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時代遅れの夢見人 村日星成 @muras

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